日本リーダーパワー史(592)『安倍首相への提言(1)ー明治以来、最高の戦略家・児玉源太郎と後藤新平の黄金コンビの 台湾統治のリーダーパワーに学べ
2015/10/20
日本リーダーパワー史(592)
『安倍首相への提言(1)
明治以来、最高の戦略家・児玉源太郎と後藤新平の黄金コンビの
台湾統治のリーダーパワーに学べ
前坂 俊之(ジャーナリスト)
安倍首相は第三次改造内閣の発足を前に①「1億総活躍社会」なる珍奇なスローガンを打ち出した。
<安倍首相、新3本の矢で「1億総活躍社会」>GDP600兆円目標も表明
http://toyokeizai.net/articles/-/85676
新たな「3本の矢」の政策は経済最優先の姿勢を鮮明にし、①名目国内総生産(GDP)を600兆円に増やすと明言。「介護離職ゼロ」、希望出生率を1.8まで引き上げる目標などを打ち出した。
安倍首相「1億総活躍社会」はインチキだらけ! アベノミクスも正社員を減らし非正規社員を増やしただけだったhttp://biz-journal.jp/2015/09/post_11739.html
安倍内閣誕生時に打ち出した、デフレから脱却を目指したアベノミクスの2%のインフレ目標は失敗に終わり、成長戦略の実施、規制緩和、財政再建計画も進んでいない。当初危惧されたように「アベノミクス」は『アホノミクス』になろうとしている。
政府の財政健全化計画はー「楽観的」というより「非論理的」すぎる
http://diamond.jp/articles/-/72638
成長頼みの財政再建計画は「失敗の典型」だ(上)
http://diamond.jp/articles/-/75849
それが、今回のまたまた「アベノミクスのあらたな3本の矢と称するスローガン」である。
日中戦争、太平洋戦争中の軍、政府による有名な国策標語(戦時スローガン)に『ゼイタクは敵だ』「足りぬ足りぬは工夫が足りぬ」というのがあるが、これに対して、庶民は『ゼイタクは素敵だ』「足りぬ足りぬは夫が足りぬ」とパロディー化して、バカにしたものだが、こんどの「1億総活躍社会」というのは、聞いた瞬間に「オー、ノー」と絶句した。
『65歳以上の高齢者が人口の4分の1に達する世界一の超高齢社会』「超少子化社会」「寝たきり、認知症1000万人社会」になった日本の惨状、ご臨終社会を作った自民党政治の長期戦略大失敗たい見事なお笑いスローガン、それ以上にあきれたパロディーである。
なぜかー政府によるあきれた連続的な無為無策、オウンゴールに懲りずに「またかね」という感じである。
根本にあるのは安倍内閣、そのスタップ、官庁、財界、マスコミの「政財官マ」の構造的な戦略思考、インテリジェンス、決断力。実行力の欠如体質である。まず,安倍首相、そのスタッフは
- 国民への「お世辞家」から、痛みを注射する『政治家』に脱却すること。
- 現在の「有言不実行」から「不言実行」『有言実行』とレベルをあげる。
- 官僚の作文を暗記して、すらすら読む『お受験優等生、政治家』から脱皮して、自らが科学的、論理的に思考した政策をとつとつとでもいいので自分の言葉で、議会で国民に熱誠をつたえること。
- 安倍首相の祖父の岸信介、叔父の松岡洋右は『満州国』での「5族協和」の国づくりに失敗したが、児玉源太郎台湾総督、後藤新平局長の名コンビは『台湾統治』に成功した
- 。日本は『韓国併合、統治』には完全に失敗し、国内統治にも失敗した政治リーダーが多い中で、唯一、リーダーパワーを発揮した例が児玉、後藤の黄金コンビである。その統治法から学ばなければならない。
<以下は鶴見祐輔『後藤新平決定版後藤新平③台湾時代、藤原書店、2005より>
日清戦争(明治27、28年)で台湾を獲得して、児玉源太郎が台湾総督となって乗り込んだのは明治明治31年(1898年)3月のことである。
乃木希典台湾総督、曾根静夫民政局長にかわって赴任することになった。
当時の台湾統治はうまくいってなかった。台湾の統治は困難をきわめ、土匪が横行し、行政は徹底せず、動もすればこれによって外交の紛争を起こしていた。台湾放棄論や売却論などが日本国内で真面目に唱えられていた。これを狙って買収の野心を持っていたのがフランスである。
フランスはもともと台湾によだれを垂らしており、清仏戦争1884年8月と1885年4月にかけてのベトナム(越南)領をめぐるフランスと清の戦争)のときには、基隆を占領し、澎湖島(ほうことう)を占領した歴史がある。その頃はなお福州の馬尾にはフランスの造船所もあり、また台北には領事館等があって、何かにつけてフランスが台湾の問題に関して手を付けてきた。
このためフランスに向かって一億円で台湾を売り渡すべしとの意見が出ていた。
このような難局の中で、児玉と後藤とは引き受けたのである。しかも異民族統治の経験は、当時の日本民族に全くなかった。世界第一の植民地帝国を築いたアングロ・サクソン人を除いては、近代史上において、植民地経営に成功したる民族は、皆無ではないにしても、希有であった。白色人種以外において、文明的植民政策を実行し得る民族あるとは、世界の何人も想像していなかった時代なのである。児玉と後藤はこうした難業をいかなる成算があって担当したのだろうか。
統治の方針は無方針―「不言実行」「郷にいれば、郷に従え」
児玉源太郎総督が、着任まもなく歓迎会が開かれた。児玉は事前に「歓迎会の席上で総督の施政方針をやろうと思うから、文章はとにかく、それを君が書いてくれ」と命じた。
後藤局長は、平然として、「そんなものは、やらん方がいいでしょう。」と答えた。
「どうして?」
「それは今まで樺山樺山 資紀(かばやま すけのり、初代総督)もやった、桂太郎(2代目総督)もやった、乃木希典(3代目」もやった、皆やっている。それは詩人が詩を作るようなものだ。つまらないから、やらん方がいいでしょう。
みんなが施政方針の演説をなさらぬことを、不審に思って聴きに来たら、俺は生物学の原則に従ってやる、俺はここ台湾の土地の拓殖のことをやりに来たのではない、土を掘りに来たのではない、台湾のため内閣員の頭を開拓するんだ、そんなことを施政方針へ書けるものじゃないから書かない、黙っていた方がようごわしょう。」と言った。
児玉が、「生物学というのは何じゃ。」
「それは慣習を重んずる、俗に言えば(郷に入れば郷に従え)、そういうわけなんだ。とにかく、ヒラメの目をにわかにタイのようにしろと言ったって、できるものじゃない。慣習を重んじなければならんというのは、生物学の原則から来ている。」
「そうかそうか、そんなことか、よしよし、それじゃ止めよう。」と一言の下に児玉は了承し、赴任演説など無視したのである。
後藤は、こう献策したが「本当に採用するか知らん」と内心疑い。「これが普通の人なら、後藤にはああ言ったけれども、参事官長の石塚英蔵か誰かに書かせてみようくらいに、凡人なら考えたでしょう。それで歓迎会のときに、何か話すだろうと思っておったら、やっぱりやらなかったよ」と回想している。
児玉総督が台湾統治の最初にあたった統治方針の声明を差し控えさせたことは、後藤の台湾統治政策の第一の成功であった。「児玉さんは実にえらい人だった。新総督の統治の方針は無方針、という俺の意見を、即座に理解して、それを終いまで貫いたからね。」と語る。
つづく
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