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池田龍夫のマスコミ時評⑱米国連銀に、無利子預金1億300万㌦―財務相が「広義の密約」を認める

   

池田龍夫のマスコミ時評⑱
米国連銀に、無利子預金1億300万㌦―財務相が「広義の密約」を認める
                           ジャーナリスト・池田龍夫(元毎日新聞記者)
 
 核密約問題を調査・検証する「有識者委員会」(北岡伸一委員長)は3月9日、「調査対象の『4密約』のうち3件を『密約』と認定する報告書を岡田克也外相に提出したが、菅直人財務相は12日、新たな密約の存在を明らかにした。
 
 沖縄返還交渉の「財政密約」に関する調査結果で、「米施政権下の沖縄に流通していたドルを円に交換したことによって生じた約5300万㌦を、沖縄返還の1972年から99年まで約27年間、ニューヨーク連邦準備銀行口座に無利子で預金していた」ことが判明。日銀も当時約5000万㌦を無利子で預金しており、計1億300万㌦を米連銀に密かに預けていたことを、財務省が「広義の密約」と結論づけた。
 財政密約の焦点は、柏木雄介・大蔵省財務官とアンソニー・ジューリック米財務長官特別補佐官が1969年12月署名した秘密文書で、米国では既に公開済み。ところが、「財務省内を隈なく探したが、関係文書は見つからなかった」との同省報告にびっくり仰天した。その後、菅財務相の厳命を受けた財務省職員が米国に出張して米公文書を入手。この文書を本物と判断して、「日本側の文書は見当たらないが、『広義の密約』に当たる」と公表に踏み切った。
 
      沖縄返還時の「柏木・ジューリック文書」に明記
 
「財政密約調査」の要点 ▼調査対象=1969年12月に日米財政当局が合意し、沖縄返還に伴う財政・経済上の処理を進める根拠となった「柏木・ジューリック文書」を調査。同文書には、日本側が総額4億500万㌦が負担することとし、ニューヨーク連銀への25年間の無利子預金などが記載されている。沖縄返還協定で示された3億2000万㌦の日本側支払いを超える負担があったとの指摘がある。
 
▼ 日米間の文書=米国立公文書館で「柏木・ジューリック文書」を入手した。米国の関係資料や日本側関係者の記録等から、福田赳夫蔵相の了解の下、大蔵省と財務省の間で、69年9~12月に財政負担に関する会談が行われたことが確認された。財務省内の調査では、「柏木・ジューリック文書」を知る関係者はおらず、関連文書も見つからなかった。しかし、無利子預金に関しては「米公文書」が日米間の最終合意だったと推認され、「広義の密約」が存在したと言える。
▼ 無利子預金=外国為替特別会計の無利子預金が少なくとも、5300万㌦の水準で、
 
1972年から99年までニューヨーク連銀にあった。無利子預金は日銀分と合わせて1億300万㌦。沖縄返還時に現地で流通していたドルを円に交換して日本政府が得たドルの金額(1億347万㌦)に近い。ニューヨーク連銀に問い合わせた結果、大蔵省や日銀が一定期間、一定額以上の無利子預金を連銀に維持するとされていたことが判明。日銀は98年に施行された改正日銀法を受け、外貨資産を見直した。その一環として99年に米連銀に無利子預金残高の引き下げの可能性を提起し、引き下げが了承された。
 
      「財政難の米国に〝利益供与〟」
米連銀は、日本からの「無利子預金」を米国債などで運用して、多額の利益を得たに違いないが、今回の調査ではその額は明らかにされなかった。菅財務相は3月12日の記者会見で「(無利子預金は)沖縄返還でドルを円に交換した日本が有利子で運用できる『棚ぼた的利益』を相殺するもの。利益供与とは異なっている。

米国は当時、貿易収支の赤字が増えていた。米側はドル流出を食い止め、日本も25年経てば自由に使えるという利害のバランスの上で処理されたのではないか」と説明していたが、米国への利益供与の側面があったと考えざるを得ない。米連邦準備制度理事会(FRB)の政策金利は、無利子預金があった25年間、5~10%で推移しており、「高リスク運用をしなくても、数億㌦の利益はあったはずだ」と経済アナリストが推測している通りだろう。
 

「驚くのは、1969年の財務官らによる秘密合意について引き継ぎが行われていなかったことだ。このため今回の調査で沖縄返還後25年を過ぎた時点でも担当者は無利子預金の意味を理解していなかったことが分かった。我部政明・琉球大教授が98年に疑惑を指摘した論文を発表した際も担当者は反応できなかった。99年に日銀が米側に照会することがなければ巨額の無利子預金がさらに続いていた可能性すらあるのだ」(『毎日』3・13社説)――10年前にきちんと処理すべき重要案件を放置しただけでなく、「密約はなかった」と言い続けた政治責任は極めて重い。
 
     東郷和彦・元外務省局長「極秘メモ」廃棄の疑惑も
衆院外務委員会(鈴木宗男委員長)は3月19日、東郷和彦元外務省条約局長、森田一元運輸相、西山太吉元毎日新聞記者、斉藤邦彦元外務次官の4人を参考人として呼び、質疑を行った。「日米密約」をめぐって、当時の関係者が国会で証言するのは初めてで、民主党政権の疑惑解明への姿勢を示すものだ。
先の「有識者委員会」の調査で、東郷氏の〝極秘メモ〟の重要性が指摘されたが、外務委委員会で本人が証言した骨子を紹介しておく。
 
「前任の条約局長より一束の資料を引き継いでおり、局長室の若干の資料を加え、日米安保関連資料を5つの赤い色の箱型のファイルに年代順に収めた。第1の箱に1960年の安保改定時、第2の箱に68年の小笠原・沖縄返還交渉時、第3の箱に74年のいわゆるラロック発言への対応、第4の箱にいわゆるライシャワー発言への対応、最後に90年代。全資料58点のリストを作成し、最重要資料16点に二重丸をし、政策評価についての意見書を書いた。

意見書、リストは二部作成し、一部は赤ファイルの第1の箱に入れ、後任の条約局長・谷内正太郎氏に引き継ぎ、もう一部は藤崎一郎北米局長(現駐米大使)に送付した。有識者委員会では58点の全リストが明らかになっていないと思う。二重丸をつけた文書のうち8点は今回発表された。残り8点については見ていない」。

「(2001年4月に情報公開法が施行されたが)当時、外務省の内情をよく知っていると思われる人から、情報公開法施行前に本件に関する文書も廃棄されたという話を聞いたことがあった。どうなったかは率直に申し上げて分からないが、ぜひ委員会において調査いただきたい」。
 
その他の発言の要点を紹介すると………。
 
【核の持ち込み】につき、東郷和彦氏は「外務省条約局長を務めた小和田恒、丹波実両氏はいずれも就任前に(米核搭載艦船の一時寄港による)『核持ち込み』に関する意見書を書いて外務省に提出していた。意見書は日本国内への持ち込みを暴露した1974年9月のラロック米退役海軍少将発言と、81年5月のライシャワー元駐日米大使発言を踏まえており、大筋は『非核2・5原則の方向で意見を集約し、国民にきちんと説明すべきだ』という内容だった」と証言している。
【核再持ち込み】について斉藤邦彦氏は「『密約とは言えない』とした外務省有識者委員会の結論に同意する」と答えたが、東郷氏は「私は密約だと考える。当時の佐藤栄作首相はニクソン米大統領に『要請があれば必ず核を入れる』と言った。常識的には約束であり、それが国民に伏せられていた」との見解。西山太吉氏も「有識者委員会が沖縄への核再持ち込み秘密合意について『引き継ぎがないから密約でない』としたのは全く間違っている」と指摘する。
 
【原状回復費肩代わり】につき、森田一氏は「沖縄軍用地の原状回復補償費400万㌦の財政支出には、大蔵省主計局法規課の課長補佐として関与した。外務省が『沖縄返還協定に基づき米国に支払う3億2000万㌦の中から支払いたいので了解してほしい』としたのに対し、異議を差し挟まなかった」と答えた。西山氏は「『肩代わり密約は在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)へと続く新たな安全保障の枠組みを作り出した。最大の密約だ』」と述べている。
 
【文書引き継ぎ】に関し、森田氏は「大平正芳元首相は当時『事務的な引き継ぎにはなかなか向かない』と考えていた。口頭や文書による引き継ぎはなかったと思っている」と答え、斉藤氏も「宮沢喜一、細川護熙、羽田孜、村山富市各首相に仕えたが、4人に密約問題の話をしたことはない。私は引き継ぎ書を見たことがなく、内容を把握していなかった。事務方の決裁はなかった。核持ち込みなどの密約について引き継ぎを受けていないし、どの首相にもブリーフしたことはない」と答えていた。
 
     厳正な「文書管理」と「情報公開」の徹底を
 日米密約の存在を証言した村田良平元外務事務次官が、衆院外務委員会前日の3月18日亡くなった。参考人招致を打診されていたが、肺がんを患っていたため応じられなかったというから、まことに痛ましい最期だった。村田氏は2009年6月、「前任外務次官から、日米安保条約改定時に核持ち込み密約があったとの引き継ぎを受けた」と発言した外交官ОB。密約論議の端緒となった重大証言で、その後の調査に弾みをつけた。

有識者委員会は「3密約の存在」を認定する報告書を提出したものの、「当然あるべき文書が見つからず、不自然な欠落も見られた」と、ズサンな文書管理を厳しく指摘していた。2001年4月の情報公開法施行を前に、当時の幹部が文書廃棄を指示していたとすれば、とんでもないこと。意図的に行われたものなら犯罪的行為であり、政府は〝文書消失〟の経緯などの実態解明を急ぎ、責任の所在を明確にすべきである。国民の「知る権利」を阻んできた歴代政府の暴挙が今回の「密約調査」によって明らかになり、「情報公開制度」の活用がいかに重要であるかとの〝教訓〟を残した。

鳩山民主党政権の誕生がければ、自民党政権は「密約」を隠し続けたに違いなく、政権交代によって「政府のウソ」を暴いた意義を評価したい。しかし、今回の密約調査・検証作業は〝出発点〟であって、ここで〝幕引き〟してはならない。「政治権力の監視」を執拗に続けていくことが、国民に開かれた民主政治確立の道を拓く原動力になるからである。                 

(2010年4月1日 記)
             

 - IT・マスコミ論

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