池田龍夫のマスコミ時評(68)●原子力規制委の責務は重大チェック機能を 厳密に果たせー
2015/01/01
池田龍夫のマスコミ時評(68)
●原子力規制委の責務は重大チェック機能を
厳密に果たせー
池田龍夫(ジャーナリスト)
4月にスタート予定だった原子力規制委員会は、半年近く遅れて9月19日やっと発足した。それも、本来は衆参両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命する委員長と委員を、同意のないまま任命する異例の発令だった。確かに原子力規制委員会設置法の附則に定められた手続きで違法ではないようだが、強引に人事を決めて9月中発足を急いだことを批判する声は強い。
任命された原子力規制委員会委員長は田中俊一・前原子力委員会委員長代理。日本原子力研究開発機構の前身の一つ、日本原子力研究所の副理事長を務めた人だ。委員は、更田豊志・日本原子力研究開発機構原子力基礎工学研究部門副部門長、中村佳代子・日本アイソトープ協会プロジェクトチーム主査、島崎邦彦・地震予知連絡会会長、大島賢三・元国連大使の4人である。規制対象である日本原子力研究開発機構や日本アイソトープ協会から委員に選ばれており、「原子力ムラ」臭の強い人選に違和感を持つ国民は少なくない。
通産省傘下の原子力安全・保安委員会は、原発事故処理に当たって全く機能せず、解体に追い込まれた。この反省を込めて発足した原子力規制委は、公正取引委員会国家行政組織法3条2項の委員会として独立性を高めることなどを定めた。いわゆる「3条委員会」として大きな権限を持つ機関と位置づけられた意味は大きい。ただ、環境省の外局のため、同省が人事案件の準備を進め、環境相が規制委員長・規制庁長官の人事を事実上決めたことに、規制委の独立性を危ぶむ批判があるのは、故ナシとしない。
原子力規制の強い権限
原子力規制委員会の田中俊一委員長は、10月10日の記者会見で、原発の早期再稼働などを求める地方自治体や経済団体の要請や陳情に関し「地方でも中央でも規制委の独立を守りたい。要請文を持ってきても受け取るつもりはない」と述べた。
田中氏は世論を意識してか、「要請文を受け取っただけでも、政治的な関与が否定できなくなる。そこはけじめをつけていきたい」と強調。再稼働の前提になる安全審査では、地域の電力需給や経済の状況を判断材料にしない方針を重ねて示した。北海道の経済団体などは10月9日、北海道電力泊原発の早期再稼働が必要として、規制委に要請機会の設定を打診したが、規制委側が断っている。
規制委の所掌事務は、①原子力利用における安全確保に関すること②原子力に係る精錬、加工、貯蔵、再処理及び廃棄の事業並びに原子炉に関する規制その他これらに関する規制、安全確保に関すること③各原料物質及び核燃料物質の規制、安全に確保に関すること④放射線による障害防止に関すること等と規定。「その所掌事務を遂行に必要あると認めるときは、関係行政機関に対し安全性の確保を勧告、とった措置について報告求める」との勧報告徴求権限が付与されている。
規制委員の国会同意手続きをとれ
毎日新聞9月19日付社説は「国会事故調査委員会は、(当時)の規制当局が専門性で東電に劣り、『規制する立場とされる立場に逆転関係』が起きて、事業者の『虜』」になっていると指摘したが、その徹を踏んではならない。規制庁の職員の多くは保安院などからの横滑り組が占めるが、虜とならない専門性の向上策や意識改革が欠かせない。……そのためにも、規制委人事の国会同意を求めたい。政府は与党からも造反が出ることを嫌い、特例規定に基づき首相権限で委員を任命したが、規制委発足の経緯やその強大な権限に照らせば、国会同意は不可欠である」とズバリ指摘していたが、その通りである。
規制委発足に問題点はあったが、ともかく田中規制委はスタートし、原発地下の活断層調査などを始めるなどの実務に積極姿勢を見せている。田中委員長も各紙のインタビューに応じ、やる気満々の気構えを示している。田中氏の発言を要約すると、「原発30基の1次評価が提出されているが、手続きは白紙に戻す。来年7月中旬までに新たな安全基準を法制化し、それに基づいて再稼動の可否を判断したい。規制委が再稼動を認めた原発を動かすかどうかは政府の判断の問題だ」などと、明快である。
日経9月26日付社説が「原発再稼動をめぐり、政府と規制委とで責任の押しつけ合いともとれる発言が目立つ。福島原発事故を踏まえ新組織を設けたのは『原子力の推進と規制の分離』の徹底にある。その原則に照らせば、政策を決めて遂行するのは政府の責任。安全の判断で責任を負うのは規制庁と、互いの役割は明確なはずだ」と分析していたが、両者の役割分担をきちんと決め、原子力規制のお目付け役の任務を果たしてもらいたい。
使用済み核燃料をどうする?
野田佳彦政権は先に「2030年代の原発ゼロ」をぶちあげたが、核燃料サイクル維持など多くの矛盾点が指摘されている。ウラン・プルトニウムを大量に含む高レベル放射性廃棄物である「使用済み核燃料」処理は、世界的な大問題となっている。特に使用済み核燃料からウラン及びプルトニウムを抽出することで核兵器への転用も可能なため、大量に貯蔵することは好ましくない。
日本では、青森県六ヶ所村に再処理工場を設けたものの、トラブル続きでほとんど機能していない。田中氏も「原子炉の上に、使用済み核燃料を大量保管している現状は、明らかによくない。できるだけ地上に降ろし、金属製の容器に入れて保管する方が、はるかに安全だ」と述べ、全原発で使用済み燃料の地上での保管を検討すべきだとの考えを示した。
しかし「保管場所の確保や、地元の了解を得る必要があり、実際に作れるかどうかは、事業者と地元との関係になる。ただ、規制委としては、より安全だという説明はするが、設置の要請などはしない」と述べ、運転再開の判断と同じように、政府や事業者が対応すべきだとの認識を示している。当然の発言だろうが、使用済み核燃料をどう処理するか、議論だけでなく規制委は実効性ある具体策を早急に提言してほしい。
「大間原発」建設再開に疑義
福島原発事故後、建設中だった工事は中断したまま。その1つのJパワー(電源開発)が10月1日、大間原発(青森県大間町)の建設再開を明らかにしたことに驚いた。
同原発は使用済み核燃料再処理でできたプルトニウムとウランの「混合酸化物(MОX)燃料」を使って発電する計画で、新たな難題を投げかけた。もう1つの問題点は、大間原発を40年間動かせば、「30年代原発ゼロ」の目標は達成できない。野田政権の原発政策は支離滅裂で、信用ならない。
このような原発政策のチェックが規制委の職務だが、核燃料サイクルや大間原発建設再開について、政府側から事前に検討を求める働き掛けがあったとは思えない。問い掛けがあれば、規制委が独自調査すべき重大案件であるからだ。早くも「規制機関をつくったが機能せず」の実態に驚く。野田政権が勝手に決めて走り出す危険性を感じるのである。
これでは「強力な権限を持つ3条委員会」の機能を果たせるか、心許ない。内閣原子力委員会新大綱策定会議のメンバーだった金子勝慶大教授は「原子力ムラを第三者の立場からチェックするのが規制委の役割なのに、政府は骨抜きにしようとしている。これでは国民から信用されない」と指摘していた。
原子力規制委員会は、原発を推進する経済産業省から規制部門の原子力安全・保安院を切り離し、内閣府原子力安全委員会などとともに一元化した機関であることを再確認すべきだ。それは、福島原発事故で批判を浴びた「原子力ムラ」のもたれ合いの構図を断つ狙いだったはずだ。公正委員会と同じ「3条委員会」として独立性を担保した意義を大事にしたい。規制委は公開の場で、堂々と正論を述べ、原子力政策のご意見番としての職責
を果たしてほしい。
*新聞通信調査会「メディア展望」11月号から転載
関連記事
-
『リーダーシップの日本近現代史]』(27)-記事再録/野球の神様・川上哲治の『V9常勝の秘訣』とはー「窮して変じ、変じて通ず」(野球の神様・川上哲治の『常勝の秘訣』とは) ①「窮して変じ、変じて通ず」 ②スランプはしめたと思え ③「むだ打ちをなくせ」 ④ダメのダメ、さらにダメを押せ
2011/05/20/ 日本リーダーパワー史( …
-
『日米戦争の敗北を予言した反軍大佐/水野広徳の思想的大転換②』-『軍服を脱ぎ捨てて軍事評論家、ジャーナリストに転身、反戦・平和主義者となり軍国主義と闘った』
日米戦争の敗北を予言した反軍大佐、ジャーナリスト・水野広徳② &nb …
-
『オンライン動画/岩切徹(評論家)が斬る1970-80年の戦後芸能史講座②』★『「おはなはん」の樫山文枝さん』★『市川染五郎、松本幸四郎の家族』★『「浅丘ルリ子」』★『作家水上勉と中村賀津雄』
佐々木恵子が撮る×岩切徹が斬る昭和戦後芸能史ー「おはなはん」の樫山 …
-
池田龍夫のマスコミ時評(106)◎『NHKの選挙報道に物申す(2・12)』『普天間の辺野古移設に反対する名護市民(2・10)』
池田龍夫のマスコミ時評(106) &nbs …
-
★『 地球の未来/世界の明日はどうなる』 < 米国、日本メルトダウン(1051)>『無知の虚人』トランプの暴走運転で「大統領機(エアーフォースワン)」は墜落急降下過程に入った。』●『コラム:ロシア疑惑、トランプ氏の弁護に4つの「落とし穴」』★『トランプのロシアゲート コミー証言で瀬戸際』★『駐米中国大使とも密通していたクシュナー氏』●『共和党内は「トランプ後」に向けてそわそわ』●『日本はAIIBに参加すべきではない–中国の巨大化に手を貸すな』
★『 地球の未来/世界の明日はどうなる』 < 米国、日本メルトダウン(1051 …
-
記事再録/『世界史の中の日露戦争』㉚『開戦1ゕ月前の『米ニューヨーク・タイムズ]』(1903(明治36)/12/31)の報道』-『朝鮮分割論』(日本はロシアに対する「緩衝地帯」として朝鮮を必要としている。半島全体が日露のいずれかの支配に帰さなければならない。分割は問題外だ)
2017/01/09 『世界史の中の日露戦争』㉚『開戦1ゕ月前の『米 …
-
『Z世代のための最強の日本リーダーシップ研究講座(49)』★『地球環境破壊(SDGs)の足尾鉱毒事件と戦った公害反対の先駆者・田中正造②』★「辛酸入佳境」、孤立無援の中で、キリスト教に入信 『谷中村滅亡史』(1907年)の最後の日まで戦った』
2016/01/25 世界が尊敬 …
-
日本の最先端技術『見える化』チャンネル(3/19)-『IT技術者必見の「電子回路基板の品質評価』の方法』★『医用電気機器の安全規格の評価ポイント』★『OKIエンジニアングの良くわかるプレゼン』
日本の最先端技術『見える化』チャンネル(3/19)- 「ジャパンライフサイエンス …
-
『オープン講座/ウクライナ戦争と日露戦争⓶』★『ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」がウクライナ軍の対艦ミサイル「ネプチューン」によって撃沈された事件は「日露戦争以来の大衝撃」をプーチン政権に与えた』★『巡洋艦「日進」「春日」の回航、護衛など英国のサポートがいろいろな形であった』』★『ドッガーバンク事件を起こしたバルチック艦隊の右往左往の大混乱』
前坂 俊之(ジャーナリスト) 日英軍事協商の目に見えない情報交換、サポートがいろ …