『Z世代のための昭和史<女性・子供残酷物語>の研究』★『阿部定事件当時の社会農村の飢餓の惨状』』★『アメリカ発の世界恐慌(1929年)→昭和恐慌→農業恐慌→東北凶作ー欠食児童、女性の身売り激増』→国家改造/超国家主義/昭和維新→5・15事件(1932)→2・26事件(1936)、日中戦争、太平洋戦争への道へと転落した』
2020/10/28記事再録再編集
昭和七年(1932)
悲惨、娘身売りの残酷物語ー売られ行く娘たち
凶作地の惨状についての新聞報道は、凶作の一般的な情況にとどまらず、貧しい家計の犠牲になって、人身売買にも等しいかたちで身売りされて行く娘たちと、食べ物が無いために腹を空かせている可哀相な欠食児童の問題に目を向けた報道になる。
『哀れ! 娘六百人』-極度に疲弊困憊(こんぱい)した農山漁村では、草の根、木の皮を食し、辛うじて露命をつないでいる状態である。悲惨なのは、長年、手塩にかけて育ててきた子女を、芸妓、酌婦、女給、仲居、甚だしきは遊女として身売りに出し、わずかな金に代えようとする者があり、その哀話も少なくない。北海道庁の社会課が本年一月から七月までのこれら人身売買、または類似行為に関して調査集計した結果、六〇六件の多数に上り、その前借の総額は6万4478円、平均で一106円で売買されており、農山漁村が文字どおり餓死線上をさまよいいつつある」(『北海タイムス』1932・7・28)
『秋田県では、女子青年団連合会が娘たちの離村情況とその原因の調査によると、昭和六年(一九三一)の末現在、秋田市を除く九郡における十三歳以上二十五歳未満の女子の離村数は九四七三人。その仕事先の内訳を見ると、
▽子守女中が四二七一人(四割五分)、▽女工が二六八二(二割八分)、▽醜業婦が一三八三人(一割五分)、▽その他。醜業婦とは、戦前、主として体を売る仕事に身を沈める女性たもちを指して、官公庁などで使っていた言葉である。
次に昭和六年の一年間における離村情況を見ると、総数が二三〇〇人で、うち、醜業婦が二〇九人となっている。つまり醜業婦でいうと一三八三人の中の二〇九人が、この年、新たに身を沈めた女性たちということになる。 なお三一八三人の醜業婦について見ると「最初から親も承知、自分もそのつもりで出たのが一〇六二人だが、女中や子守のつもりで出たのに、親はもちろん、本人も知らない間に、いつか誰かの手によって、魔の淵に突き落とされた者が一六〇人、女工のつもりだった者が一〇三人」(『大阪朝日』1932・6・15)。
「青森県で半年間に三百名-凶作激甚県である青森県下の農村は全くどん底生活で、哀話は数知れない。農村では婦女子の売買が行なわれ、これらはいずれも周旋屋の手によって魔窟に売り飛ばされている。人道上、許すべからざることなので、警察でも調査を進めているが、それによると・昭和七年(一九三二)の一月一日から六月までのその数は三〇〇人に上り、うち、芸妓、酌婦は実に二〇
〇人を超え、他は女工その他で、関東、関西、遠くは「満州」方面にまで売り飛ばされ、苦界に泣いている者のあることが分かった」 (『時事新報』青森版一九三二・七・一五)
「売り娘の四割が東北・北海道」
-農村から売られて行く者は最近、非常に多くて一年間に全国を通じて最低四万人と見られている。そしてこのうちの六五〇〇人以上は、実に、東北六県と北海道の娘たちだとされている。現在、東京には七〇〇六人の娼妓がいるが、その出身地を見ると、
山形八七六、秋田七一〇、青森二八四、福島五一八、宮城三六三、岩手一三一、北海道三七三で、実に四割六分以上を、東北六県と北海道だけで占めている。
そしてこの数は、大正十三年(一九二四)当時と比ベて三割三分も増えている。いかに農村が長い間苦しみ続けてきたか、この一事だけでも分かる。さらに、これを新しい内務省の調べによって、現在、以上の農村から、何人ぐらい売られて来ているかを見ると、娼妓だけでも山形二三四九人、秋田一六六四人、青森一一九三人、福島一二八九人、宮城九五三人、岩手三九七人、北海道一八九一で、1万人に近い。これに酌婦を加えたら二万四、五〇〇〇人は超えるだろう。
この中でも山形県は、数字が示しているように、最も多い。同県の〇〇村だかは、戸数七〇〇戸の貧農村で、ここからは三〇〇人の娘たちが売られて行ったといわれているー娘を売るのが罪悪感の問題ではない。そうしなければ当面の生活が維持できないのである。前借もこれに応じて、この頃はガタ落ち。娼妓では年期明けまで最高二〇〇〇円どまり、平均の一〇五〇円、それも、ごく美人でなければならないという。前借金の少ないのは四〇〇円ぐらいである。酌婦はさらに低く、二五〇円が精いっぱいというところらしい。しかし、ガタ落ちしたとはいえ、酌婦から見ると、娼妓はまだ前借がきく。
では、なぜ、前借の少ない酌婦ではなく娼妓に売らないのか。娼妓は満十八歳にならないと許可されない。しかし、それまで待つことができない。ところが、地方では満十六歳から酌婦になれる。そこで、金は少ないが18歳になるのを待ちかねて、まず酌婦に売って肥料代などの借金の利払いをし、次いで十八歳になってから娼妓にして、まとまった前借で負債の整理をするということらしい。娼妓になった者の経歴を調べてみると、それがよく分かる。「親出」といって、農村から直接、遊廓に来る者は少なく、大概は酌婦としての経路を辿っている。
芸妓、娼妓、酌婦を取り扱う公認の紹介業者は、東京に210人、全国では300人がいて、昔は、地方の紹介業者と連絡をとって東京から買い出しに行くか、あるいは誘拐されて来る娘を買っていたが、この頃は、娘を売る農家が激増するとともに、地方に公認、あるいは潜りの周旋業者がたくさん出来て、農村から、わずかの前借金で集めた一〇人ぐらいをひとまとめにして、東京に売り込みに来るようになった。それも、これもみな農村の惨苦を語る一つの事実である」(『東京日日』1932・6・17)
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