『オンライン/新型コロナウイルス・パンデミック講座』(下)「コロナリバウンド・変異ウイルスの増加・東京五輪の女性差別発言ドタバタ劇の3月狂騒曲(下)」
コロナ・変異ウイルス・東京五輪の3月狂騒曲(下)」
前坂 俊之(ジャーナリスト)
●首都圏1都 3 県の緊急事態宣言を 3 月 21 日まで延長
「3 月 3 日、菅首相は首都圏1都 3 県の緊急事態宣言につい て 2 週間程度延長する方針を示したね。当初は期限の 3 月 7 日をも って全面解除する腹づもりだったが、新規感染者の下落カーブの足 踏み傾向と変形ウイルスの増加に対して小池都知事らの延長要求の 11 動きを受けて、これまでの後手後手批判を回避するために先手を打 った形だ。4 日の参院予算委員会では、「2 週間程度(3 月 21 日ま で)、国民に協力してもらえれば収束に向かうことができる」と菅 首相は語った。3 月 25 日が福島から聖火リレーがスタートする日 なので、それまでに何とか抑え込みたい方針のようですが、しか し、東京都の新規感染者は7日現在では237人で 7 日間移動平均 数(対前週比91%)は横ばいで
「一方、3 月 2 日、国際保健機関(WHO)のテドロス事務局 長は「世界全体で 6 週続けて減少してきたが、先週は 7 週間ぶりに 再び増加に転じた。WHO の世界 6 地域管内のうち 4 地域管内で増 加が確認された。年内に新型コロナと決別できると考えるのは現実 的でない」とクギをさした。「ワクチンの普及に期待しつつも感染 収束は来年以降に持ち越す可能性が高い」との見方を示した。ブラ ジルでは 2 月になって連日 6 万人前後のペースで感染者が増加、感 12 染力の強い変異ウイルスによる死者は 1 日当たり 2000 人を突破し ている、とも語った」
●尾身茂会長は「コロナ終息は 23 年まで」
「政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂 会長は 3 月 5 日の参院予算委員会で、「年内に人口の 6、7 割が ワクチン接種を受けると仮定しても、おそらく今年の冬までは感 染が広がり、重症者も時々は出る。さらに 1.2 年(22―23 年) で、季節性インフルエンザのようになれば終息となる」との見方 を示した。 以上の発表をみると、東京 5 輪開催(7 月 23 日)までに国内でコ ロナを抑止することは難しいこと。海外からの選手団、観光客の入 国については、既存の免疫ワクチンの効果がない変異ウイルスの侵 入リスクが一段と高まるリスクがあるわけですね」
「そんな不透明な状況の中で、東京五輪・パラリンピック組 織委員会の橋本聖子会長、東京都の小池百合子知事、丸川珠代五輪 13 担当相、IOC のトーマス・バッハ会長、国際パラリンピック委員会 (IPC)のアンドリュー・パーソンズ会長による 5 者会議が 3 月 3 日、テレビ会議で開催された。海外からの観客受け入れの是非につ いて橋本会長は、3 月 25 日までに決断を下すことを発表した。 バッハ会長は「日本、特に東京の人々にとって安全であることを 確認することが重要で IOC は日本入国前に多くの参加者にワクチン 接種をさせることで協力したい」との意向を示した」
●日本の国民の五輪開催反対が世界一多いのは?
「これに対して、英ロンドン・タイムズ紙は「今年の五輪大 会を中止するべき時だ」との見出しで「東京で感染拡大につながる イベントを行うリスクは日本だけでなく、世界にとっても大きすぎ る」と主張、海外の主要メディアの論調は一段と厳しさを増してき た。 また、 民間が実施した新型コロナウイルスをめぐる日米欧6カ国 の世論調査でも東京五輪開催に反対する回答は何と日本がトップの 14 56%、英が55%、独が52%、米は賛否とも33%で、米国を 除く5カ国で反対が賛成を上回った。中でも日本の反対が6カ国中 で最多で、コロナ禍の収束が見通せない中で、国民の五輪開催反対 する厳しい目が浮き彫りになっているからね」
「結局ね、五輪開催の可否はワクチン接種がカギを握る が、供給体制が整った場合でも、「接種する」と答えた人の割合 は、英国(89%)スウェーデン(76%)、ドイツ(73%) で、日本は 4 位の64%、米国も同じく64%で、開催国日本のオ リンピック歓迎熱は全く冷めてしまっている。この調査をした団体 は日本でワクチン接種が進展しなければ、国際的に反対論がますま す強まる可能性があると指摘している」
「政府は復興五輪の旗を高く掲げているが、その肝心の 地元・福島などの開催熱も全く下がっているのが気になる。毎日新 聞と社会調査研究センターの世論調査(2 月 27 日)による と、「復興五輪」を掲げた東京五輪の開催が「復興の後押し にはならない」と答えた人が 61%、「後押しになる」の 15 24%を大きく上回った。東京五輪を復興のシンボルとする方 針も被災地では否定的に見られている現状ですね」
「こうした国内外の世論の逆風に対して自民党の下村博 文政調会長は4日のテレビ番組で「主力国(米、EU など先進国) の選手が大量に来られない場合は国際オリンピック委員会(IO C)も考えざるを得ないだろう」と、はじめて中止の可能性に言 及。1カ月程度で結論が出るとの見通しを示しています。五輪を誘 致して対コロナでも連続「オウンゴール(自失)を続けてきた安倍 政権、菅政権、自民党政権に対する怒り、批判の声が強いわけです よ」
「菅首相も当初示していた東京五輪開催の必要最少限条件の 免疫ワクチン接種(東京五輪開催までに完了させる)スケジュール は、3 月 7 日現在では大幅に狂ってしまった。日本政府のカントリ ーリスク(コロナ対策、戦略の不在)不全、インテリジェンス不全 (デジタル敗北、専門家調査研究不足)、リーダシップ不全(決断 力、スピード不足、後手後手の小出しの対策など)が、いまも続い 16 ている。私がいつも指摘する『ガラパゴスジャパンの死に至る日本 病』です」
(B)「2 月 26 日に河野太郎規制改革相は「高齢者 3600 万人分は 6 月末までに各地へ配送を完了する、あとの接種は自治体に任せる」 と丸投げの発表をした。だが、日本の市町村の総数は 1741 にのぼ る。医療体制の異なる各自治体はどの場所で、どの人数で、医師、 看護婦体制、ワクチンの配送、保管、注射スケジュール、予約、そ の他の多くの接種問題を行うか、医療体制が千差万別の各自治体で は困惑、混乱が広がりお手上げ状態で、接種は大幅に遅れそうだ。 3 月ギリギリ決断、決定時期にまたもや「オウンゴール」で「コロ ナと五輪開催狂騒曲」は一層不透明感を増しているといえる」
●バッハ会長の2つの「仰天発言」
「国際オリンピック委員会(IOC)は 3 月10日、オン ラインで総会を開き、再選が決まったトーマス・バッハ会長(6 7)は東京五輪について「開会式が 7 月 23 日に催されることを疑 17 う理由はまったくない。誰にとっても安全で確実なオリンピックに することをめざす」と表明した。日本政府はすでに海外からの一般 客の受け入れは中止の方針で、国内観客については別途判断するこ とを明らかにしている。この点については、バッハ会長は前回の 5 者会談では 4 月末までに決めると発言していたが「観客数の上限は 極力遅く決定すべきだ。5,6 月の動向を考慮するために門戸は開い ておく必要がある」と判断の先延ばしを明らかにしました。日本側 のワクチン接種の遅れを不安視する質問もでたが、大会組織委員会 の武藤事務総長は「選手については政府から明確なタイムラインの 発表はない」と世界から選手を受け入れる日本側の準備遅れを認め た形です」
●バッハ会長の「中国ワクチンの受け入れ」
「ところが、翌 12 日に突然、バッハ会長は中国オリンピック 委員会から「東京・北京大会の選手や関係者に対して中国製のワク チンを提供する」との申し出があり、IOC はその費用の負担し、参 加選手や関係者に 2 回できる中国製ワクチンを確保した」とも発表 18 した。これに対して、丸川五輪相、武藤事務総長は驚き「事前に話 は全く聞いていない。ワクチンの接種は日本政府がやっていること なので、組織委員会としてはコメントする立場にない」と言葉を濁 し困惑を隠さなかった。丸川五輪相は最後に「この大会はワクチン を接種しなくても安心できる大会を目指しており、ワクチン接種を 前提としない原則は変えません」とも断言した」
「このバッハ会長の仰天発言に対して、日本側の反発は大き く「中国と IOC の連携で日本は“置いてけぼり”を食った形だ」「中 国の力を借りないと五輪が開けないほど日本は後れを取っていると 受け止められかねない。メンツ丸つぶれだ」(スポ二チ 3 月 13 日 付)、「各国でまだ未承認の中国製ワクチンを東京大会で世界中の 選手に人体実験するつもりか」との SNS での批判の声もあり、IOC と日本側のすれ違い、ワクチンギャップの大きさを浮彫りにしたの です」
●IOC と日本側のワクチンギャップ
「この日本側の反発に驚いたバッハ会長は3日間のIOC総会 終了後の記者会見で「ワクチン接種は義務付けていない。各国の指 19 針や規則に従うことがIOCの原則で、どのようなものでも受け入 れる」と述べ、海外の観客受け入れ可否についても日本側の決断を 尊重する方針と釈明した。橋本聖子会長はジュライ通り 3 月 25 日 までには方針を出すという」
「結局、日本側にとっては受け入れ準備のために入国選手 団と関係者の人数、外国人観客数の把握は4月中がギリギリのタイ ムリミット。この人数決定により宿泊、医療、看護スタッフ、ボラ ンティア、警備スタッフの人数、割りふり、ロジスティックスなど の膨大、ち密な準備がスタートする。外務省では各国要人の来日数 を元首、首脳級は原則 12 人、大臣、閣僚級は 5 人までとする基準 案を各国大使館に示したというからね」
「開催国と参加国では立場がまったく違う。世界各国にと ってはオリンピックどころではなく、新型コロナウイルスの防止の ために、免疫ワクチンの接種を最重点に進めており、IOC もその方 針だ。ところが、その肝心のワクチン接種に日本は失敗し、接種率 は世界最低に落ち込んでいる点に懸念を持ったバッハ会長が中国ワ 20 クチン受け入れに同意したわけで、元はといえば日本側の責任が大 きいよ」。
●日本は世界最低のワクチン接種率(0,04%)
「確かにそうだよ。英オックスフォード大が運営する統計デ ータサイト「アワー・ワールド・イン・データ」によると「日本の 100 人当たりのワクチン接種率」はG7(先進 7 か国中)で最低 で、①英国(33,71%)②米国(26,58)③イタリア (8,8)④ドイツ(8,74)➄フランス(8,4)⑥カナダ (6,17)⑦日本(0,04)の順で、なんと英国の 800 分の1。G 20 で比較しても1%に満たないのは韓国(0.61%)、オーストラリ ア(0.3%)、南アフリカ(0.12%)などで日本はこれを下回りダン トツの世界最下位クラスなという情けなさには涙が出るよ(苦 笑)」
「それなのに、政府は首都圏1都3県に発令中の緊急事態 宣言については期限通り、21日までで解除する方針を示した。病 床使用率が緩やかな改善傾向にあるとして 15 日から 1 週間の状況 21 を見極めたうえで、18日にもコロナ対策本部を開いて決定する (サンケイ電子版(3 月 14 日付)という。政府の関係者からは 「これ以上,打つ手はない」との解除意見が出たための措置。3 月 25 日の福島からの聖火リレーの出発に合わせて「見切り発車」し たものとみられる)
「しかし、国内の感染状況は下止まりから増加傾向を見せて おり、中でも感染力が強く致死率の高い変異ウイルスの割合が全国 的に増えている。この変異ウイルスは米ファイザー製のワクチンで は効きにくく、重いアレルギー反応がでるアナフィラキシーを発症 するケースは日本は欧米の数倍にも上るという。 特に、ワクチン接種率の低い日本の場合には五輪開催前にもこの変 異ウイルスによる第 4 波に襲われるのではなかと警鐘を鳴らす専門 家が多い。 3 月 25 日、聖火リレーのスタートを前に東京五輪開催を取り巻 く環境は一層、不透明で未知のリスキーゾーンに突入しつつあると いえる。 (つづく
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