前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

長寿学入門(221)『96歳、平和でなければ走れない。人々に感謝し、走り歩くことが万病の薬となる』★『走る高齢者たちーオールドランナーズヒストリー』(福田玲三著、梨の木舎2020年6月刊)を読んで』★『『佐藤一斎(86歳)『少(しよう)にして学べば、則(すなわ)ち 壮にして為(な)すこと有り。 壮(そう)にして学べば、則ち老いて衰えず。 老(お)いて学べば、則ち死して朽ちず』★『作家・宇野千代(98歳)『生きて行く私』長寿10訓ー何歳になってもヨーイドン。ヨーイドン教の教祖なのよ』

      2020/08/03

『人々に感謝し、歩くことは万病の薬となる』

『走る高齢者たちーオールドランナーズヒストリー』(福田玲三著、梨の木舎2020年6月刊)。帯には「96歳、平和でなければ走れない」。このタイトルが気に入って一挙に読んで感銘した。「歩き」「走る」やる気にスイッチが入った。

2018年10月28日、94歳の福田さんは「スイス・ローザンヌマラソン大会」(参加者13、500人、国外から2、200人、日本16人)の「10キロノルディックウオーキング」部門に出場した。標高500m、気温5C、霧とみぞれの降りまじる最悪のコンディションの中を防寒着をきて毛糸の帽子、手袋にウオーキングポールを持ち、付き添いの長女とともに午前8時半にスタートした。コースはレマン湖沿いに、国際オリンピック本部や同博物館前、チャップリン博物館前を通る10キロだ。

寒さに震え帽子から流れおちる水滴に耐えて、息切れしながら汗をかきかき走っていると、折り返しの集団、観客からは「ブラボー」の声がひっきりなしにかかる。2時間42分11秒かって見事に完走した。94歳の最高齢者と思われる福田さんの世界チャレンジ達成の瞬間である。もし、これが「シニアオリンピック」だとすれば金メダルだったかもしれない。

1923年(大正12年)11月生まれ、岡山県津山市出身の福田さんは幼い時からひ弱だった。小学校の徒競走では、いつもビリから2番目、1944年(昭和19年)の学徒出陣で、大阪外国語学校フランス科(現大阪大学外国語学部)で徴兵検査を受けたときも、第2乙種「筋骨薄弱」だった。

マラソンを走りたいとおもったのは国鉄(現JR東日本)を定年する2年前の56歳の時、東京国際マラソンを見て「自分でのやれるのではないか」とその気になった。それから、ヒマを見つけて多摩川の岸辺を走った。

 第二次世界大戦(1945年)終戦まではマラソンをする人など皆無だった。そのマラソンに虚弱な自分が挑戦するのは、夢のまた夢、天上の花と思っていたが、いざ走ってみると、るとだんだん走れるようになった。距離が延び5キロ、10キロと完走できたことが無上の喜びとなり、虚弱な自分がやっと一人前になったと自信と元気がわいてきた。次には国内レースに出場する目標が生きがいとなり、トレーニングを毎日、積み重ねてきた。毎年、高齢者ランナーとして国内大会に出場してきた。

佐倉朝日健康マラソン(5時間制限、1982年→92年)、東京・荒川市民マラソン(7時間制限、99年―2008年)、大阪淀川市民マラソン(8時間制限、2009-11年)、伊豆大島(10時間制限、2013-15年)、そして、ホノノルル国際マラソン(2016年12月11日、無制限、記録は11時間2分7秒)とと30年にわたって挑戦を続けた。

同時に、詩人の福田さんは共に戦争の時代を生き抜いた全国各地の最高齢ランナーたちを訪ね歩き、その生き方、マラソンの食事、健康法などを記録して後世に伝えたいとして最後の章で「最高齢ランナーを訪ねて」でまとめている。この走る高齢者たちのほとんどが60歳前後からマラソンを始めており、その「楽しみ」「生きがい」によって90歳以上の晩年健康長寿のマラソン人生を達成していることにも心打たれた。

・中野陽子さん(84歳←マラソン開始71歳)~さわやか市民ランナー

・阿南重継さん(95歳←46歳)~2つのギネス認定証保持

・鈴木金作さん(94歳←61歳)~地域に根差したマラソン人生

・吉田隆一さん(91歳←57歳)′走れる幸せに感謝

・出島義男さん(98歳←61歳)~マラソン人生いろは大変面白い

・永田光司さん(99歳←60歳)~700回を超える大会出場歴

・塩田富治さん(93歳←64歳)~ホノルルマラソン炎のランナー

―以上の「マラソン人生訓には老いの知恵、生活訓、健康訓、養生訓がぎっしり詰まっている。

福田さんは出版の趣旨を「人生100年時代といわれる今、お金をかけないで健康を願っている人たちへのヒントになればと思い書いた。<人々に感謝し、歩くことこそが万病の薬となる>、私は今日も歩き、その途中で筋トレに励んでいる」と結んでいる。

60歳からスタートした遅咲きのマラソンランナーたちの30年以上にわたるこの挑戦物語には「毎日毎日、継続は力なり」「たゆまざる あゆみ恐ろし カタツムリ」(彫刻家・北村西望、101歳の言葉)をやる気と克己、努力と継続を積み重ねた人間がどれだけ高みに達するかを示している。

わが身を振り返り、人生の後半戦の7,80歳の最終コーナーをどう生きるか、ふらふら歩き「迷いに迷い」自問自答していた筆者にとって、この先輩たちの走る姿には比叡山千日回峰行「阿闍梨誕生」の修業がダブって見えてきて、深い啓示をうけた。

 さて、最後に現在、96歳となった福田さんの近況はー、昨年胃がんの手術をしたが、いまは回復して普段の生活に戻り、毎朝6時起床、その後フランス語原書購読1時間半。フローベルの『ボヴァリー夫人』を再読している、というから驚く。

儒学者・佐藤一斎(86歳)の言葉に「壮(そう)にして学べば、則ち老いて衰えず。老(お)いて学べば、則ち死して朽ちず」(『言志晩録』)とあるが、後続者にとって福田さんたち姿ははまさしく後光がさす「光輝高齢者/
超人ランナ-」と見えた。

 

『リーダーシップの日本近現代史』(270)★『佐藤一斎(86歳)いわく『少(しよう)にして学べば、則(すなわ)ち 壮にして為(な)すこと有り。 壮(そう)にして学べば、則ち老いて衰えず。 老(お)いて学べば、則ち死して朽ちず』

http://www.maesaka-toshiyuki.com/longlife/38441.html

百歳学入門(55)作家・宇野千代(98歳)『生きて行く私』長寿10訓ー何歳になってもヨーイドン。ヨーイドン教の教祖なのよ

http://www.maesaka-toshiyuki.com/longlife/2064.html

 

 

IMG2222

 - 人物研究, 健康長寿, 湘南海山ぶらぶら日記

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

『オンライン講座・昭和戦後の奇跡の経済発展史』★『テレビ時代の幕開けとなった1953年(昭和28)』★『NHKテレビ本放送開始』★『民放テレビ放送局の開局と街頭テレビ』★『家電元年「三種の神器」 「テレビ」「電気洗濯機」 「電気冷蔵庫」』

   前坂 俊之(ジャーナリスト) 第五章  テレビ時代の幕開けとなった二十八年 …

no image
『オンライン/新型コロナパンデミックの研究』ー『トランプ大統領は「チャイナコロナ」と明言し本気で中国を抑え込む新冷戦「中国包囲網」づくりに突入した』★『ファーウェイ禁止、「台湾外交支援法」(3/27),「ウイグル人権法案」(5/17)を成立させ人権外交で全面対決中』(5月22日)

米中の新冷戦― 「対中包囲網」の再編成 前坂 俊之(ジャーナリスト) 「チャイナ …

no image
日本リーダーパワー史(841)★☆(人気記事再録)『明治維新150年』★『日本人だけが忘れ去った世界的英雄/革命家としての西郷隆盛を再評価する』★『世界革命史に例のない<江戸城無血開城>を実現した西郷 隆盛、勝海舟の超リーダーシップを見よ』●『一個の野人・西郷吉之助を中心とし、一万五千の子弟が身命を賭して 蹶起し、うち9千人までも枕を並べて討死するとは、じつに 天下の壮観であります。』

 日本リーダーパワー史(841) ★☆(人気記事再録)『明治維新150年』 &n …

no image
『リーダーシップの日本近現代史]』(24)-記事再録/日中韓/異文化理解の歴史学(1)(まとめ記事再録)『日中韓150年戦争史の原因を読み解く(連載70回中1ー20回まで)★『申報、英タイムズ、ルー・タン、ノース・チャイナ・ヘラルドなどの外国新聞の報道から読み解く』●『朝鮮半島をめぐる150年間続く紛争のルーツがここにある』

日中韓異文化理解の歴史学(1)(まとめ記事再録)『日中韓150年戦争史の原因を読 …

『Z世代のための日本戦争学講座②』★『 歴史インテリジェンスからみた真珠湾攻撃と山本五十六②』★『山本五十六は三国同盟への反対をなぜ最後まで貫けなかったのかー今の政治家、トップリーダーへの遺言』

『Z世代のための日本戦争学講座①』★『今日(2024/12/08)は80年前の真 …

★10 『F国際ビジネスマンのワールド・ カメラ・ウオッチ(175)』2016/5『ポーランド・ワルシャワ途中下車–ワルシャワ中央駅周辺』を見る①新しく清潔な空港施設と地下鉄、案内人など 観光客誘致に地道に取組み『魅力的な都会』

 ★10 『F国際ビジネスマンのワールド・ カメラ・ウオッチ(175)』 201 …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(11)記事再録/『ニューヨーク・タイムズ』<1896(明治29)年7月20日付)がみた明治のトップリーダー・伊藤博文の英語力、対外発信力とは

       2010/02/ …

『オンライン講座・『近世日本国民史』(戦国時代から徳川時代末(全100巻)の徳冨蘇峰(94歳)の長寿人生作家論』「体力養成は品性養成とともに人生の第一義。一日一時間でも多く働ける体力者は一日中の勝利者となり、継続すれば年中の勝利者、人生の勝利者となる』★『史上最大のジャーナリスト/徳富蘇峰(94歳)』

2018/12/01  知的巨人の百歳学(114)史上最大のジャーナリ …

no image
百歳学入門(⑭)<日本超高齢社会>の過去④・・<日本の天才長寿脳はだれなのか・・>・

百歳学入門(14)  <日本超高齢社会>の過去とは④・・・ &nbsp …

no image
日本リーダーパワー史(184)『アジア経済時代の先駆者・犬養木堂④』 一貫して『産業立国論』を唱えた民権政治家―

日本リーダーパワー史(184)   <百年前にアジア諸民族の師父と尊敬 …