『リーダーシップの日本近現代史』(339)-<国難を突破した吉田茂の宰相力、リーダーシップとは・・>★『吉田茂が憲兵隊に逮捕されても、戦争を防ぐためにたたかったというような、そういうのでなければ政治家ということはできない。佐藤栄作とか池田勇人とか、いわゆる吉田学校の優等生だというんだが、しかし彼らは実際は、そういう政治上の主義主張でもってたたかって、迫害を受けても投獄されても屈服しないという政治家じゃない。』(羽仁五郎の評価)
日本リーダーパワー史(194)<国難を突破した吉田茂の宰相力、リーダーシップとは・・>「首相なんて大体バカな奴がやるもんですよ。
日本リーダーパワー史(194)記事採録
<国難を突破した吉田茂の宰相力、リーダーシップとは・・>
「首相なんて大体バカな奴がやるもんですよ。首相に就任するや否や、新聞雑誌なんかの悪口が始まって、何かといえば、悪口ばかりですからね、この世にこんな大バカはないように書かれますよ。そんなバカばかり集まって話をしたって面白かろうはずがない。(吉田茂の「私は隠居ではない」より)
前坂 俊之(ジャーナリスト)
マルクス主義歴史家の羽仁 五郎(1901-1983)のおもしろい「吉田茂論」がある。(『昭和宰相列伝』現代評論社、1980年刊)戦後、参議院議員となった羽仁は政敵としての吉田の土性骨を高く評価して、次のように語る。
戦時下の吉田茂の抵抗ー★今の政治家で国策原発に反対、抵抗した者が何人いるのか)
ぼくが最初に吉田茂に強い印象を受けたのは、1945(昭和20)年3月に、ぼくが北京で捕まって東京へ護送されて来て、警視庁の地下二階に監禁されていたんだが、その四月に吉田茂が憲兵隊に逮捕されたということを開いたときだ。そのとき、日本の政治家のなかにも同志とは言わないけれども同志に近いというか、とにかく軍国主義に対して抵抗する人間がいたということで、非常に強い印象を受けた。
いま日本にいるフランソワ―ズ・モレシャンというフランス人のファツションの専門家だけど、「日本に来て、日本にはこの間の戦争にレジスタンスがなかったということを聞いて、非常に驚いた。自分たちフランス人なんかはずい分レジスタンスで活動した。」というんだ。
モレシャンがびっくりするまでもなく、日本で戦争に抵抗する運動が起こらないということには、非常に不満を感じていたね。現にぼくのところで勉強していた、世間の言葉で言えば弟子たちでも、ぼくのあとに続いてレジスタンスをやれる人が全然いなかったというわけじゃないが、少なかったよ。
大学教授であれ新聞記者であれ、戦後を担って民主主義の名の下で活動している人でも、共産党員として活動している人でも、当時戦争に抵抗していた人は非常に少ないんだよ。だからそのなかで、吉田茂が憲兵に捕まったという報に接して実際、驚いた。『評伝吉田茂』にもかなりよく出ているが、つまり最後まで日本の戦争を回避する努力をしたのは吉田茂ただ一人だといっているように、日本の政治家に勇気のある人は一人もいなかった。
みんなが戦争に反対なくせに、軍部にたいして戦争反対だということを断言する勇気のあるやつは一人もいなかった。自分一人だった、というんでしょう。自分一人断言したから、自分一人憲兵隊に捕まったという意味だろう。
ペラペラ、感情丸出しでテレビや記者たちに、失言する最近のお粗末政治家
とはハラ、土性骨が違う
吉田茂が憲兵隊に捕まった、時にはほかのことは何もいわないで-葉巻を彼は愛飲していたんだね。サンフランシスコの会議に日本の全権代表として行ったとき、アメリカの新聞に、「日本から来た首席全権というのは葉巻のあとをついて行く小さな男だ」という漫画が出たというんだ。憲兵隊に捕まった時にも、葉巻のことしかいわないで、間もなく帰ってくるけれども葉巻を乾かしちゃうといけないからといって、葉巻の箱のなかに一枚一枚青い木の葉を入れておくという、そういう男だというようなことをいっていたよ。
猪木正道君が書いている本を見ると、一九三二年に国際連盟を脱退するときの松岡洋右が外国に行くときに、吉田茂が「脳病院に入って水でも浴びて気を鎮めてから出かけるんだな」と忠告したそうだね。相当のことをいうんだよ。
それから戦後もいち早く田中角栄にたいして「田中角栄というやつはしょっちゅう刑務所のへいの上を歩いているような男だが、不思議なことに中へ落ちないで、外へ落ちる」という、そういうのにもあらわれているように、現在、日本の保守党の政治家のなかで、政治家らしい政治家の最後の人だったんじゃないか。
牧野伸顕の娘が吉田茂夫人だから、そういう意味では反対だ。それで吉田はついに戦争の過程で外務大臣とか総理大臣という道を歩まないで、憲兵隊に逮捕されて投獄されるという道を歩んだ。そのことが、戦後になって吉田が首相になったという結果になり、広田弘毅は絞首刑、刑場に命を落とすことになった。
この間、中川一郎君(青嵐会、自殺)と『週刊読売』で対談した時に、自民党の腐敗ということは中川君も嘆いているんだが、この腐敗を脱却するためには自民党が野党になったほうがいいんだと。そのためにいまの革新野党に政権を譲るということがいいんだが、そういう気になれないか、といったら、絶対なれないというんだ。
そこでぼくは「君は一体野党になったことがあるのか」といったんだよ。いまの自民党の代議士は政治家じゃない。野党になったことがない。それから汚職とか破廉恥な理由でなく正常な理由で獄中生活を耐えしのんだことがあるかというと、もちろん中川君はない。「野党になったことはない、政治上の理由で投獄されてもたたかうといった体験もないというんじゃ、君は政治家としては一年生だ」といったら、彼は下を向いているんだ。
結論としては、吉田茂が憲兵隊に逮捕されても、戦争を防ぐためにたたかったというような、そういうのでなければ政治家ということはできない。佐藤栄作とか池田勇人とか、いわゆる吉田学校の優等生だというんだが、しかし彼らは実際は、そういう政治上の主義主張でもってたたかって、迫害を受けても投獄されても屈服しないという政治家じゃない。しかしいま日本が当面している問題にたいして、それぐらいの決意を持っていなければ、政治家ということはできないと思うんだ。いまだんだんそういう状態に近づきつつあるんじゃない?」 羽仁五郎(歴史学者)
以上は30年前の話。そして、3/11国難に遭遇した現在に登場したのが野田ドジョウ内閣、ノ―サイド総理大臣。もともと、政治哲学、政治上の主義主張に思にノ―サ―ドなどあり得ない。政治的サイドをはっきり打ち出すのが政党であり、総理大臣は政策を実行するためには一方のサイドに立って決断せざるを得ない。ノ―サイドはあり得ないのだ。
吉田茂(1878-1967)の歴代宰相、リーダー論
84歳の放言「首相なんて大体バカな奴がやるもんですよ。首相に就任するや否や、新聞雑誌なんかの悪口が始まって、何かといえば、悪口ばかりですからね、この世にこんな大バカはないように書かれますよ。そんなバカばかり集まって話をしたって面白かろうはずがない。(「私は隠居ではない」より)
次は吉田茂自らが語るルーツと明治と昭和のリーダーの違い、総理大臣バカ論、
対アジア論である。『文芸春秋』1962年2月号の「私は隠居ではない」より)
明治と昭和のリーダーの違い、学歴が目をくもらせる
明治の軍人と先頃の戦争の時の将軍連と同じ日本人と思えない、というようなことをよく聞きましたがね。明治の将軍連は士官学校出ではないんでね。寺子屋でやって来ているわけでしょう。古典というものが、廻りくどいようでもいいところがあるんでしょうね。
教育というものは便利一方だけじゃいけないんじゃないでしょうかね。日本の士官学校教育というものは、どんなものか知らないが、何か不足するものがあったのではないでしょうかね。
海軍になると、卒業すると練習艦隊で世界を廻って来るから、世界を見る眼が開けてよほど違って来ると思いますがね。
戦争直後の何にもない、一面の焼野原だった日本、生産力の殆どなくなってしまった日本が、よくここまでやって来たと思いますよ。何と云っても日本人が勤勉で優れているところがあると考えていいんでしょうね。
中国が世界一の文明国であった唐代の頃にしても、奈良時代にすぐそれをとり入れていますからね。遠く離れた島533国でありながら、地続きの南方の国々より優れた文明を造昭和37年り上げていたんではないでしょうかね。
日本人は優れている、「非常に興味ある人種だ」と云った外国人があるが、たしかにそうでしょうね。戦後の復興というか繁栄に、みんな眼を見はっていますよ。
やれ世界大学ランクの低い東大だ、慶応だの、松下政経塾など、世界に出れば何の役にもたたない、せめてハーバード、ケンブリッジ、オックスフォードで将来の米英大統領、エリートと友人関係を築け、明治の金子堅太郎(農商大臣)、小村寿太郎(外相)はハーバード大で、ルーズベルト大統領と同窓生、それで、日露戦争のポーツマス講和条約は有利に進んだ。落第首相・鳩山由紀夫の祖先の鳩山和夫(エール大学大学院、国際法の名誉博士)ではないか、2代3代目の語学力も国際競争力もない市会、県会議員クラスのノホホン2世3世議員に一体何ができるのか。選挙制度、政治家の資格、政治家の教育のすべてを見直し、エリート、リーダー教育を早期に考え直す必要がある。(前坂の言)
イギリスの紳士の資格というのを聞いたことがあるが、ライディング(馬に乗ること)にシューティング(銃猟)にドリンキング(酒を飲むこと)でしたかね。リーディング(本を読むこと)なんて含まれていませんよ。
大分以前のことだが、皇太子殿下(平成天皇)にお眼にかかることがありましてね、その時、今の話を申し上げて、読書なんてことは、あまりなさらないでも宜しい、と申し上げたら、お付きの宮内官が渋い顔をしていましたがね。
元首相というと、誰がいるのかな……、ああ、東久邁さん、あの方の内閣に私は初めて外務大臣として起用されたんで恩誼があるんですがね。あの方は大正の後半、ヨーロッパに来ておられてね、私もイギリスにいた頃で、侍従武官の溝口伯爵が私と縁続きでもあり、前から懇意にしていたもんだから、チョイチョイお眼にかかることがありましたがね、なかなか聡明で直感力も確かだし、お考えになることが鋭くてね、皇族にもこういう方がおありかと感心させられたものでしたがね。
その次が幣原さん。幣原さんは死んじゃったし、それから私となるわけだが、私は御承知のように、なりたくってなったわけでないので、鳩山君の追放のあと頼まれてなったわけでね。暫くの間というようなつもりだったが、その後、鳩山君が半身不随になったりして、……鳩山君が俺に譲れ、譲れというのを「大切なお役を中気病みに任せられるか」と云って大層憎まれてね。といってお国のためを思えば無責任なことは出来ませんからね。
鳩山君とは昔は「俺、貴様」の仲でね、何でも云えたんだが、矢張り病気をしてから変ってね、冗談も云えなくなりましたよ。
誰の時だったか、築地の本願寺で盛大な追悼会があってね、私も行った。行って見ると鳩山君が来ている。緒方君が隣に坐っていたが席を譲ってくれて隣同士に坐っていたわけなんだ。その内、焼香が終わって鳩山君が、「このままもう帰ってもいいのか?」と聞くから、
「ああ、いいんだ。だが僕も今帰ると、君と一緒に並んで.歩かなくちゃならないからもう少しいるよ」 と云ったら怒ってね。
「そんなにいたきゃあ、死ぬまでいろッ」と云って帰って行きましたがね。
その次が、片山内閣か。片山君とは何度か会ってますがね、普段つき合いがないから話がうまく運ぶかどうかな。石橋君はまあ、口が不自由だから気の毒でね、となると、あとは岸君、池田君というわけだろうが、どうです。あんまり面白い話は期待出来ないでしょう。私はイヤですよ。
欧州の自由国家間では相互の国境を実質的に撤廃して欧州を一国として見るような動きになって来ていますね。それでこっちでも、パシフィック・パクト(太平洋協約)というようなものを造って、カナダ、アメリカ、濠州などのような太平洋を囲む諸国と連繋を密にして対抗しなくてはと思うのですがね。
アジア・アフリカ諸国と同調しなくてはいけない、日本はアジアの一員だからという論がある。それはそうだが、戦後に独立したアジア・アフリカの国々は今が明治維新なんですからね。昔からの独立国の日本とは、事情が違うところがありますよ。これからの発展に期待するのはいいが、誤った優越感を持たず、その国々の本質を過大評価しないように、理解と同情を持って行くべきでしょうね。
こんなことを云うと、すぐ「米国の植民地化反対」などと騒ぎ出す一派があるが、どういうわけですかね。昔の日英同盟の時などは全くそんなことがありませんでしたね。当時の英国と日本の国力の相違なんか、非常なもんでしたが、同盟成立によって植民地化なんてことを恐れる者は一人もなかった。すべて対等の誇りを持ってやっていた。これからも対外的に誇りを忘れずにやっていきたいと思いますよ。
箱根会談の折に、ラスク長官が寄ってくれてね。いろいろ話して行ったんですが、その時、日本がリーダーとなって、東南アジアのユニティ(統合)を図ってくれというんですよ。それは請け合いかねる。日本の国内のユニティが出来ないで困っているくらいなんだからと云って断ったんですがね。
『文芸春秋』1962年2月号「私は隠居ではない」
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