『世界が尊敬する日本人⑥初代ベンチャービジネスの真珠王・御木本幸吉(08、05)
2019/02/19
世界が尊敬した日本人(6)
初代ベンチャービジネスの真珠王・御木本幸吉
前坂 俊之
(静岡県立大学国際関係学部教授)
志摩国鳥羽(三重県)の神明湾の養殖場で、 御木本幸吉(36歳)、うめ(29歳)夫婦は人工真珠の種を埋め込んだアコヤ貝を開けていた。莫大な借金をつぎ込み「狂っている?」「大法螺吹きや!」と 周囲から疎んじられながら、徒手空拳で真珠の人工養殖に取組んできて、早や5年がたつ。
来る日も来る日も何百というアコヤ貝を開くが、一向に変化はない。明治26年(1893)7月11日、妻うめが相島(現在の真珠島)の養殖場でいつものように開けた貝の中にピンクに輝くものがあった。驚いたうめは大声で幸吉を呼んで確認すると、紛れもない半円形の5ミリほどの真珠ができていた。人工真珠を世界で初めてできた瞬間である。
「その時歴史が動いた」風に言えば、105年前のこの明治26年(1893)7月11日こそ、わが国ではじめて世界的なベンチャービジネスが誕生した歴史的な日なのである。
御木本幸吉は安政5年(1858)年1月に 志摩国鳥羽(三重県)でうどん屋の長男でまれた。明治11年、21歳の時、当時、東海道はまだ鉄道が開通していないため、江戸時代と同じく徒歩で11日か けて上京し、文明開化の風が吹く東京、横浜の異人街など、2ヵ月間も商売の勉強と新知識の吸収に出かけた。
ここで、外国人たちがアワビや干魚、海産物 などを高額で買いあさり、中でも天然真珠が世界の王侯貴族、金持ちに愛される女性の最高の装飾品であり、最高級の輸出品であることを知った。商才に長けた 幸吉は世界のビジネスに目を開くとともに、やり方次第で地元の海産物を世界的ブランドにできるとピンとひらめいた。
30歳で東大・箕作佳吉博士の指導を受けながら、全財産をつぎ込み、英虞湾の孤島に一家で移住して、真珠の養殖に取り組んだ。半円真珠の養殖成功に力を得て、さらに天然の真珠に近い真円真珠の開発に悪戦苦闘する。赤潮、冷水の発生によって養殖貝が全滅するなどの大被害に何度も襲われながら、そのたびにさらに大借金と血のにjむような研究開発の努力によって、最終的に真珠養殖の技術が完成したのは明治38年(1905)、幸吉48歳の時であった。
「資源もない」「金もない」「情報もない」「技術もない」ないないづくしの当時の日本で御木本はモノづくりによって外貨を稼ぐ「貿易、技術立国」しかないことを見抜いて、独力で真珠養殖にチャレンジして、成功したのである。
明治38年、 明治天皇が伊勢神宮に行幸した際に、御木本は「世界中の女の首を真珠でしめてご覧にいれます」と大見得を切ったが、その通りミキモト・パールの大部分は海 外に輸出され、外貨を大いに稼いだ。その意味では豊田佐吉と並ぶ独創的な発明王であり、日本人初の国際ビジネスマンであったといえよう。
御木本の独創性は
① 地方のハンディーを乗り越えて、三重県という片田舎の海産物を世界な高級ブランド、高価な輸出品に仕上げたという地域おこし、町おこしの典型的な成功事例であること
② 明治44年のロンドン支店を皮切りにパリ、ニューヨークに出店するなど海外販売網を築き、日本企業の海外進出のさきがけ的な存在となった。
③ 来日した世界のVIPがこぞって真珠島を訪れたが、御木本は大いに歓迎して、真珠と日本を大いに売り込んだPRの天才だった。
④ 異文化コミュニケーションの天才でもあり、外国人とのコミュニケーションに抜群の才能を発揮したーなどである。
昭和2年(1926)2月、欧米視察旅行にでかけた御木本はニューヨークでエジソンと会見、「私はダイヤモンドと真珠だけはどうしてもできなかった。その真珠を発明されたことは世界の驚異です。おめでとう」と世界の発明王から絶賛され、当時69歳の御木本は大感激した。
もう1つ御木本の偉大さは、明治の経済人の中でも最も長寿であったことで、独自の健康法、食事法を実践して、96歳8月の長寿を保ち、昭和29年9月にその生涯を終えた。
関連記事
-
-
速報「日本のメルトダウン」(509)◎「次の金融危機の引き金を資産運用会社が引く危険性(英FT紙)◎「ミドルパワーによる戦略的調整関係築け」
速報「日本のメルトダウン」(509) ◎「 …
-
-
速報「日本のメルトダウン」(481)『米国は自滅への道を歩むのか』「アルカイダの復活大きく変わる国際テロの様相」
速報「日本のメルトダウン」(481) &nb …
-
-
『縦割り110番/オンライン/デジタル庁はすぐ取り組め動画』ー日本の最先端技術「見える化」チャンネル 『働き方改革』EXPO(幕張メッセ20201/9/16)での「スーパープレゼン」紹介― ドレ ロドリゲス グスタボCEOによるアルバイトの入社手続きをラクに、簡単に、シンプルにできる「WelcomeHR 」(クラウド労務サービス)」
日本の最先端技術「見える化」チャンネル 『働き方改革』EXPO(幕張メッセ202 …
-
-
日本リーダーパワー史(784)-「日本史の復習問題」「日清・日露戦争の勝利の秘訣は何か」明治人のリーダーパワーとリスク管理能力、外交力を現在の昭和人のそれと比較する』
日本リーダーパワー史(784) 「日本史の復習問題」 「日清、日露戦争に勝利」 …
-
-
速報(125)『孫正義氏「自然財団」理事長にスウェーデン・エネ庁長官』『福島原発周辺居住の45%の子供が内部被ばく』
速報(125)『日本のメルトダウン』 『 …
-
-
「核のゴミ」放射性廃棄物の地層処分の研究の現状を日本原子力研究開発機構・野村茂雄理事が会見動画(90分)(6/10)
「核のゴミ」放射性廃棄物の地層処分の研究の現状と課題に …
-
-
『Z世代のための<憲政の神様・尾崎咢堂の語る「対中国・韓国論④」の講義⑫』★『 尾崎行雄の日清戦争(明治27)の「清帝の逃走」論』★『<尖閣、竹島問題で150年前の歴史事実を外国メディアの報道によってチェックする。歴史健忘症の日本、歴史誇大症の中国、歴史恨み、被害妄想症の韓国の3重ネジレを読み解く』
2013/07/02 日本リーダ …
-
-
「Z世代のための日中外交敗戦10年史の研究(上)」★「2010年9月の尖閣諸島周辺での中国漁船衝突をめぐる日中対立問題で、中国側が繰り出すジャブに日本側はノックアウトされた。」★「 明治のリーダー養成法とは ーリーダーは優秀な若手を抜擢し、10年、20年かけて長期的に育てよ」
日本リーダーパワー史(96)名将・川上操六⑭日露戦争勝利の忘れられた最大の功労者 …
-
-
日本メルトダウン脱出法(599)●「誰も触れたがらない“「社会保障改革」●『安倍政権が“火遊び「日本歴史のごまかし」 (NYタイムズ)
日本メルトダウン脱出は可能か(599) …
-
-
日本リーダーパワー史(282)『尖閣問題を巡る世論の高まり、衝突をリスク管理せよ、日中外交失敗を繰り返すな』
日本リーダーパワー史(282) <尖閣諸島問題を考える視点> &n …
- PREV
- 正木ひろしの思想と行動('03.03)
- NEXT
- 「センテナリアン」の研究