前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

日本リーダーパワー史(955)大隈重信の人格と人心収攬術、談話と交際の名人、125歳まで長生きするという智慧

      2018/11/29

日本リーダーパワー史(955)

物集高見(107歳)の思い出話は超リアルだよ。

大隈さん(大隈重信1838―1922)は私が惚(ほ)れこんだ人物の、まあ筆頭ってとこでしょうねえ。

けど、今もってどこがそんなによかったか、と考えると、よくわからないんですよ、これが。ただね、なんとなく大隈さんのそばにいると、自分まで輝いてくるって感じがしましたね。まあ、それほど魅力的な人物だったってことでしょうかねえ。

大隈さんに初めてお目にかかったのは、日露戦争が終った明治三十八年九月でした。このときは親父に連れて行ってもらった。

大隈さんの風采はね、顔がタンスのように赤黒くって大男、ロをへの字に結んでいるの。で、髭はというと、これがちっともない。それでも、やっぱし日本の大将って顔に見えるんですよ。

二度目はその年の十一月で、こんときはあたし一入で行ったんです。当時は、(東大)文科などを出ると職が見つからないんですねえ。そいで、大隈さんに就職を頼みに行ったってわけ。

大隈さんが来客と会う場所は広い洋間なんですが、大隈さんは一段高いとこにテーブルを前にしてどっしり腰掛けている。だから、学校の先生のようなんですねえ。

でそばには大きな松葉杖が立てかけてある。これは、テロにやられた右足が義足になってるからなんです。この時代の政治家なんて、それこそ命がけだったんですよ。

そいでね、そのテーブルの前には、椅子が20ほどあるんですが、これが来客用なんです。あたしが行ったときも17人ほどの先客がいましたよ。

なにしろ客が多いから、一人ひとり会ってたんじゃ、さばききれないんでしょうね。だから、ほかの人との対話がすっかり聞こえちゃうんです。

ある人がね、

「閣下のお宅の庭は坐ったままでも、ずいぶん遠くまで見渡せますねえ」と話を切り出す。すると大隈さんは、「ああ、これは西洋式の庭園なんだよ。日本式だと、築山があって池があり、途中、東屋で休んでというような歩く庭園だろう。そんなのは面倒だから、ワシは坐ったままで楽しめる西洋式にしたんだ」といちいちこと細かに答えるんです。

「ところで、お前の用件は何かね」と次々に指名していく。

「はい、わたしはヤギの乳を売ろうと思っている者でございます。ヤギの乳は牛のものと違い、味もよく、また大変に飲みやすいように思われます。そこで、ぜひ閣下にご試飲いただいたうえで、閣下が愛用という宣伝文句を使用させていただきたく存じまして」

「そうか、よしよし、そんなことならワシを大いに利用してかまわんよ」

別の人が「このあいだお伺いしたとき、閣下のお宅の玄関先に観音様の像がありましたが、きょうはございません。いかがなさったのでしょう」と聴いた。

するとね、

「あ、あれか。欲しいという者がいたので譲ってやったよ。大隈のうちの玄関に置いとくと、くだらない物でも立派に見えるらしい。キミたちも何か売りたいものがあったら、オレのうちの玄関に置いとくといいよ。骨董なんてものはね、その置き場によって値がつくもんだ。人間だってそうだよ、坐っている椅子によっては、そいつの価値がいろいろと変ってくるのさ」との軽妙な答えに物集さんはすっかり魅了された。

今度は物集さんに「ところで、君は何しにきたのかね」と指名された。

「はい。大学(東大)を出て今後の進路を見つけるにあたり、まず、社会というものを知らなければならない、その社会を知るには、新聞記者になるのがいちばんだ、と父が申します。大隈閣下は東京毎日新聞をやっておいでになるので、ぜひ就職をお願いたしたく参上いたしました」

すると大隈さんは即座に

「よしわかった。田中穂積(後の早稲田大総長)だから、あの男に紹介してやろう」

そういってね、「ちょっと、ワシについてこい」と松葉杖をつきながら廊下に出たんです。

そいで、廊下の高いとこにある電話に手を伸ばすと、大隈さんは、自ら新聞社に電話をかけ、田中穂積さんを呼び出してね、

「いまから、物集の小倅(こせがれ)がなァ、お前のところとへ行くから、いいように取り計ってやれ」っていってくれたんです。このときは嬉しかったですねえ、大隈さんほどの人が、わざわざ不自由な足を運んでくれて、見てる前で就職を頼んでくれたんですものね。結局、これは実現しませんでしたが、。

次にあたしが大阪朝日に入社してすぐのころの明治四十年六月に、大隈さんが大阪に来た時に『はなや』という超一流の旅館に泊まっていたところを取材に行きました。ここでも同じように大勢の人が集まっていた。清国留学生学部が出来ていた早稲田大学だけあって中国(清国)の話題になった。

大隈さんはこんな話をしてました。

「日本が中国を攻めるなんて、こんな愚なことはない。中国は四億の人間、一日に一万人ずつ殺したって、とても殺しきれるってもんじゃないよ。そういうパカなことをするよりも、金を使って片ッ端から中国の土地を買い占めた方が利巧だね」と、

ま、なんとも物騒な話で、内容的には賛成しかねましたが、その合理性には秀れたものがあったと思いますねえ。

たとえば大隈さんは、新開とか雑誌などを自分じゃ読まないっていうんです。みな、秘書に読ませて肝腎なとこだけを聞く。それはねえ、新聞や雑誌などを読めば無駄な記事も目に入る、その時間がもったいないって考え方なんですよ。

最後に大隈さんにお会いしたのは、明治四十二年の一月元旦でしたね。

国府津の別荘に訪ねたんです。そこは駅から五、六丁行ったとこにあってね、海に画した豪華な平屋建てでしたよ。そこでも、やっぱし大勢の訪問客なんです。

で、あたしは新年のご挨拶も早々に、すぐ帰ろうとすると、奥さんが、「物集さん、ちょ?とお残りになってください一っていうんですね。で、何ごとだろうと思っていると、「これは鶴のお雑煮ですから、ひとつ召しあがれ」ってお膳が出されたんです。普通、お雑煮といやァ、かしわなんか入れましょ、それが、これは本物の鶴の肉を入れたもんなんです。(鶴は千年、亀は万年という長寿の縁起物)

http://kotowaza-allguide.com/tu/tsuruwasennen.html

といったって、別に美味しかありませんでしたが、沢山の客の中からあたしだけが選ばれたってことが嬉しくってね、感激しながら食べたもんです。後にも前にも、鶴の肉を食べたのは、このとききりでした。

ところで、大隈さんは会うたびごとにこんな話をよくしてましたよ。

「ワシは百二十五歳まで生きるつもりだ。なぜかといえば、動物は己れの成長期の五倍はきるのだから、人間の成長期は25歳なので百二十五まで生きてあたり前なんだ」

あたしゃ、そのころは漠然と聞いてましたが、今にしてみれば、まんざらデタラメとも思えませんねえ。ただ、大隈さんは八十いくつかで亡くなっちまいましたから、自説を証明するってことはできなかったわけです。

そういえば、あの大隈講堂の高さっていうのは、百二十五尺(一尺は30㎝)あるそうですねえ。してみる大隈さんは本気で125歳までいきるつもだったのかもしれませんね」

物集高見著『百歳は折り返し点ー軽妙な筆舌と書き下ろし自伝』(日本出版社、1979年、23ー28P)

 - 人物研究, 健康長寿, 戦争報道, 現代史研究, IT・マスコミ論

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
日本リーダーパワー史(287)タフネゴシエーターの大隈重信①英国のパークス公使と堂々と対決して、議論に勝った30歳の大隈

日本リーダーパワー史(287)   <外交ディベート、タフネゴシエータ …

『Z世代のための米大統領選挙連続講座⑫』★『ミネソタ州・ウォルズ知事が副大統領候補の指名受諾演説を行った。』★『心にしみる「名演説」で選挙のテーマは「自由」,「リーダーとは何か」「あなたが求める人生を自由に送るために闘う」』

米民主党の全国党大会は8月21日、3日目を迎え、ミネソタ州のティム・ウォルズ州知 …

no image
最高に面白い人物史⑩人気記事再録★『全米の少女からラブレターが殺到したイケメン・ファースト・サムライ』-『大切なのは英語力よりも、ネアカ、快活さ、社交的、フレンドリー、オープンマインドだよ』

2004、11,1 前坂俊之(ジャーナリスト) 1860年(万延元年)6月16日 …

no image
速報(104)[海に流れでたトリチウムは雨になって戻ってくる』『寂しい日本人が求める新しい形の安らぎ』

速報(104)『日本のメルトダウン』 [海に流れでたトリチウムは雨になって戻って …

no image
池田龍夫のマスコミ時評(65)●自民党総裁選をめぐる過剰報道に物申す(9・26)●日米同盟強化に基づき、グアムで軍事共同訓練

           …

no image
日中朝鮮150年戦争史(49)-副島種臣外務卿(外相)の「明治初年外交実歴談」➀李鴻章との会談、台湾出兵、中国皇帝の謁見に成功、『談判をあまりに長く引き延ばすので、 脅してやろうとおもった』

 日中朝鮮150年戦争史(49) 副島種臣外務卿(外相)➀ 李鴻章との …

no image
 日本リーダーパワー欠落史(747)対ロシア外交は完敗の歴史、その歴史復習問題)  欧米が心配する『安倍ロシア朝貢外交の行方は!?』★『歯舞、色丹返還は「笑止千万だ」…民進・野田氏』◎『ロシア上院議長、北方四島「主権渡さず」』◎『北方領土「主権渡せぬ」 プーチン露大統領側近が強調、安倍晋三首相とも会談』●『  対ロ協力、30事業で合意』●『コラム:プーチン大統領「パイプライン政治」は時代遅れ』◎『英情報機関トップが語る「ロシアの脅威」、多様な工作に警戒』◎『  安倍政権に激震 日ロ首脳会談は北方領土“ゼロ回答”確実に』

   日本リーダーパワー欠落史(747) 対ロシア外交は完敗の歴史、その歴史復習 …

no image
日本メルトダウン脱出法(769)「世界初の原発ごみ最終処分場建設へフィンランド」●「米国超大物スパイが明かす、中国「世界制覇」の野望」●「「中国崩壊」論は、単なる願望にすぎないーそれでも中国経済は日本の脅威になる」

    日本メルトダウン脱出法(769)    「世界初の原発ごみ最終 …

no image
現代史の復習問題/「延々と続く日韓衝突のルーツを訪ねるー英『タイムズ』など外国紙が報道する120年前の『日中韓戦争史④』<清国新聞『申報』<明治27年(1894)8月20日付>『日本の謀略がすでに久しいことを諭す』

  清国新聞『申報』<明治27年(1894)8月20日付> 『日本の謀 …

no image
日本メルトダウン(903)『 チャイナリスク・お笑い「中国劇場」の一席!』 だから、中国は嫌われる「前近代・共産党独裁 人権低国・習近平皇帝・封建国家」のお粗末!

   日本メルトダウン(903) チャイナリスク・お笑い「中国劇場」の …