前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

人気リクエスト記事再録『百歳学入門(196)』-『超高齢社会日本』のシンボル・『クリエイティブ長寿思想家』の徳富蘇峰(94)に学ぶ②』★『蘇峰先生の日常―78歳・壮者を凌ぐ精励ぶり』★『午後3時、いつもきまって紅茶』★『英書購読、記憶魔、博覧強記!、古書マニア、英国流のガーデニアン』

   


『百歳学入門(196)』

『長寿思想家』の徳富蘇峰(94)に学ぶ②

<以下は『日本電報―電通40周年記念号 1940(昭和15)年12月刊行』>

『蘇峰先生の日常―78歳・壮者を凌ぐ精励ぶり』

なお先生は民友社の古い社友K翁の居眠りを笑われるが、先生自身もなかなかもので、余儀なくつまらない講演を聴いている時や、つまらないお芝居を観ている時には、泰然として覚めている如く、眠っている如き様子をして眠ってをられる。これも「随処作主」の極意の一かも知れない。

午後3時、いつもきまって紅茶

とコロンパンのビスケット四つが先生のお3時として出る。これは先生があまりお腹をすかして帰られて、急にお夕食をとられては差障りがあるというので、昭和七年から今日まで続けて頂いている。

今では先生も楽しみにしている日課の一つであり、来客などで一寸控えていると、催促されたりする。
これを持って行くと、待ち兼ねた様に、「いやどうもありがたう」といふが早いが、大きい手で小さいビスケットを掴む様にして口に入れられる。

英字新聞を読んだり雑誌を読んだりされながら、先生の口がモグモグ動いている。必らずビスケットを食べ経ってから、紅茶茶碗をお匙でズルズルとかき廻して、それから飲まれる。先生はどちらかといえば猪首なので番茶なども少し冷めてから飲まれるのである。

何時かリプトン紅茶が切れて、和製を製出したところ「これは三井の紅茶だね」と云はれて、吃驚りしたことがあった。(先生と味覚はとても鋭いのである。)

もちろん、昨今はリプトンなんかないから、すっと日本製であり、また日本製を喜ばれる。用事があって下げずにいたりすると、食べ経った後は御自分でお盆を私共の机まで持って乗られて恐縮することが度々である。

 記憶魔、博覧強記!

先生の記憶のいいこことは寧ろ憎たらしい程で、明治何年何月までよく記憶して話される。

それに一度逢った人のことは、ちゃんと覚えていることもにも驚かされる。私共が度忘れして困っていると「○○さんだらう」と先生に云はれて、「さうく○○さん」と思うふ程で、全く私共はなっていないのである。

語句の出典なども判らないでいると、「それは此の本のこのところにある」と、御自分でその本を取出して、部厚い中からその個所を示される。

当然な様でもあるが、あまり何んでも知っておられて、大学の先生の側に幼稚園の生徒がポカンとしている様なことが多い。

世間ではよく先生が新刊紹介をされるのを見て、あんなに忙しい先生だから、目次位読んで後は読まないだらうという人がある。

その疑問の方は一度先生が紹介した本を見ると、万事諒解する。所々にアンダー・ラインが引かれ時には批評の文字があったり、時には字句の訂正までした赤鉛筆の跡を、歴々と看取出来るのである。

先生は必らずよくこれを読むのである。たゞ読む速力が一般の人と違って全く早いのと、その要領をまとめる力が素張らしいのであって、これは七十有幾年を読書の人として筆と人として一貫して来た先生の偉大さの一面なのである。

英国から十種類以上の新聞雑誌を取寄せて、

全部自分で切抜いて保存

英語の力もまた和漢書に対する如く、民友社には直接、英国から十種類以上の新聞雑誌を取寄せており、必要なものは全部自分で切抜いて保存して置く。その外に新刊書を注文したり、丸善、三越の洋書部や時には教文館、近ごろはグロリアソサエテーからも買入れ、丸善と三越にはひまがあると自分で出掛けて行く。

「あまり面白くて一晩で読んでしまった」など土石はれて、嬉しそうな様子の時を度々見受ける。

古書マニア

古書展漁りも欠かしたことがなく、各百貨店の古書展、神田図書倶楽部、青山会館、厳格堂、一誠堂、文行堂などどこへでも必らす出掛けられる。この時ばかりは時間の経つのも知らずに一所懸命、時に汗を拭きつつ、あれこれと手にして眺めておられる。ただ近頃は先生の飛びつく様な掘出し物がないのが如何にも残念さうである。

熱海楽閑荘は、昭和十四年冬、先生のために青快楼主人が意を用いて新築したもので、一日中陽が暖く部屋一杯にさし入り、眼前に海を眺め、初島や大島を指願の間に見る。
山中湖畔には昭和七年以来、毎夏を過される。そして年毎に愛著を増し、年毎に滞在の期間が長くなる。今年は十月半まで滞在されるらしく、如何に先生が山中湖の風光に執しておられるかが判る。その別荘を双宜荘と称するが、それは先生の詩の一節「湖光岳色両相宜」から来ている。

双宜荘から一寸坂を上って行った上の一廓を双宜園と称し、これは山麓会社から土地を借用して、先生流儀に開墾した山園である。「不風流の虞これ風流」といふ言葉があるが、先生の流儀は雑草も雑木も自然のままにあらしめつゝ、そこに二樺の風韻を成さしめるにある。

英国流のガーデニアン

自然を矯めるのでなく自然の美を自然の美に活かすのが先生の流儀である。附近の人々は双宜園を徳富公園と呼んでいる。

世間の人は山の中から草や木を持って乗るが、先生は東京の自邸から種々の木や草を山の中に運んで、自ら植木屋を指図しながらこれを抱えてゆく。
植木屋は夏中ほとんどお抱えで、先生はよく冗談に「芸者を呼んでもらひましてネ」と云われる。初は吃驚するが先生の芸者は植木屋であった。

以前は先生自筆の額が四阿屋に掬ってゐたり、名札が草木に附せられていたが、発生の自筆と知って持去るので、今では先生の自筆は姿を消してしまっている。

午前五時前、露を踏みなから双宜園の草を分ける先生は、モンペに長靴をはいて、長い杖を突き、古ぼけたカンカン帽を被っておられる。

如何にも村夫子然たる姿で、佐藤秘書と植木屋を従へながら、枯枝を落したり、自ら枝を払ったり、なかなか忙しいのである。

林間の宿鳥は発生に朝のあいさつを送るが、暁煙は高原の天地にこもり富士も未だ薄紗を掩うており、牛湖も暁の夢にまどろんでいる。

山国の暁露も先生の短衣を湿し、乱れ咲く野草の色が一入濃かである。やがて暁色が催すや、蓮嶽に旭光が映えて、それこそ美しい富士の姿が現れるのである。

野花随意没。 野鳥自然吟。

 - 人物研究, 健康長寿, 現代史研究, IT・マスコミ論

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
★『オンライン/天才老人になる方法➅』★『世界天才老人NO1・エジソン(84)<天才長寿脳>の作り方』ー発明発見・健康長寿・研究実験、仕事成功の11ヵ条」(下)『私たちは失敗から多くを学ぶ。特にその失敗が私たちの 全知全能力を傾けた努力の結果であるならば」』

 2018/11/23  百歳学入門(96)再録 …

『オンライン講座/真珠湾攻撃から80年➅』★『 国難突破法の研究➅』★『真珠湾攻撃から70年―『山本五十六のリーダーシップ』ー★『最もよく知る最後の海軍大将・井上成美が語るその人間像』★『山本五十六追悼』(2010年 新人物文庫)』★『きわめて日本的な人情大将で、勝つための戦略ではなく元帥のためならたとえ火の中、水の中、死んでもいいという特攻、玉砕、戦陣訓の「死のヒロイズム」である』

2011/09/27<日本リーダーパワー史(195)記事再録 以下は前坂俊之監修 …

『オープン講座/ウクライナ戦争と日露戦争⓶』★『ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」がウクライナ軍の対艦ミサイル「ネプチューン」によって撃沈された事件は「日露戦争以来の大衝撃」をプーチン政権に与えた』★『巡洋艦「日進」「春日」の回航、護衛など英国のサポートがいろいろな形であった』』★『ドッガーバンク事件を起こしたバルチック艦隊の右往左往の大混乱』

前坂 俊之(ジャーナリスト) 日英軍事協商の目に見えない情報交換、サポートがいろ …

世界が尊敬した日本人(54)ー『地球環境破壊、公害と戦った父・田中正造②「辛酸入佳境」、孤立無援の中で、キリスト教に入信 『谷中村滅亡史』(1907年)の最後の日まで

世界が尊敬した日本人(54) 月刊「歴史読本」(2009年6月号掲載) 『地球環 …

『Z世代のための 欧州連合(EU)誕生のルーツ研究」③』★『欧州連合(EU)の生みの親・クーデンホーフ・カレルギーの日本訪問記「美の国」③★『子供心に日本はお伽話の国、美しさと優雅の国、同時に英雄の国であった③』

2012/07/06  日本リーダーパワー史(275) 前坂俊之(ジャ …

『オンライン現代史講座/日本最大のク―デター2・26事件はなぜ起こったのか』★『2・26事件(1936年/昭和11年)は東北大凶作(昭和6ー9年と連続、100万人が飢餓に苦しむ)が引き金となった』(谷川健一(民俗学者)』

『2・26事件(1936年/昭和11年)は東北大凶作(昭和6ー9年と連続、100 …

no image
新刊刊行。『高校日本史に出てくる歴史有名人の裏話』(共著) 667円、新人物文庫

新刊です。『高校日本史に出てくる歴史有名人の裏話』(共著) 667円、新人物文庫 …

no image
速報『日本のメルトダウン』(3・11)を食い止めるぞ、12日目⑥

速報『日本のメルトダウン』(3・11)を食い止めるぞ、12日目⑥ 前坂 俊之(ジ …

no image
NHK「花子とアン」のもう1人の主人公・柳原白蓮事件(6)「燁子を救うのか私の義務」と宮崎龍介(東京朝日)

  NHK「花子とアン」のもう1人の主人公・柳原白蓮事件(6) 当時の …

no image
 日本リーダーパワー史(752)–『プーチンにやられた12・15 安倍「北方領土交渉」無残な結末 「2島返還+α」から「0島返還」へ』★『 プーチン来日でも進展困難な「北方領土問題」 経済協力活動は主権がどちらかでもめる』●『北方領土返還やっぱりプーチンに騙された“お坊ちゃま首相”』★『トランプ政権誕生で潮目の変わった北方領土 様子見を決め込むプーチン、安倍首相へのお土産あるか』●『CIA調査「トランプ氏勝利のため露が大統領選に干渉」、米紙報道』★『プーチン氏はアスペルガー症候群、米国防総省が研究報告』●『日露開戦までのいきさつーロシアは再三再四の遅延、引き延ばし、恫喝外交を展開、 日本側は妥協し、忍耐して交渉を続けるが、ロシア軍が侵攻した時点で堪忍袋の緒をきって開戦に踏み切る』』

 日本リーダーパワー史(752)– 「日露外交交渉で安倍首相はオウン …