前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

百歳学入門(182)-山田恵諦(98歳)の座右銘「勤めは堅く、気は長く、大欲にして心安かれ」 

      2017/10/29

 

山田恵諦(98歳)の座右銘・

勤めは堅く、気は長く、大欲にして心安かれ 

         前坂 俊之
山田恵諦(98歳)明治28年(1985)12月1日―平成6年(1994)2月22日第253天台座主を20年務め、昭和62年(1987)8月3日、比叡山開創1200年を記念して比叡山宗教サミットを開催。カトリックの枢機卿のフランシス・アリンゼら世界の七大宗教の指導者24人が比叡山に集い、世界の平和を祈願した。また「一隅を照らす運動」を推進し、「空飛ぶお座主」といわれた行動的な名僧。

死と向き合って生きる覚悟があるか,長生きの秘訣はない 

人間誰しも長生きしたいと思う。しかし、天海僧正(107歳)の言われたように長生きをしようと思っても,長生きできるものではないし、長生きした人が若い頃から特別のことをしてきたわけではない。


寿命というのは天からの授かりもの、長くしようと思ってできることではない。これは長命の水だ、若返りの食べもの、元気になるクスリ、サプリメントなどをせっせと飲んでみても同じこと。風呂場で足をすべらして死ぬかもしれぬ、道を歩いていて車にはねられるかもしれない。

なぜ長生きをしたいのか。そこのところが肝心です。何もすることがないのに、ただ長生きしたいとは思わないはずです。
では、何がしたいのか。生きる目標というものがはっきりしたら、余分なことは考えなくなる。人間に達しさが出てくるのです。毎日の生活が楽しくなる。朝日が覚めると、「有難い」という気持ちになれる。

今日一日にできることは、だいたい決まっている。その日のうちにできること、なすべきことを、きっちりとやればいい。昼休みをとったらいい。どうしても今日一日では無理ならば、明日に延ばして、区切りのいいところでかたをつけておけばいい。
人生だって同じです。自分で立てた計画を自分で守ってやっていくしかない。
やがて日は暮れるし、努力して最大限に自分の能力を発揮したとしても、与えられた範囲、情況というものは、ある程度定まっている。

そのためには、

毎日続けてもあきない趣味が人生を楽しくさせる 

 たとえば、六畳一間を与えられているとすると、その場をいかに活用し、住みやすくするかが大切なのです。よそさまが十二畳に住んでいるからといって、あんなとこに住みたい、となりの芝生をうらやんでみたとて仕方がない。自分の六畳、4畳半のアパートであっても、余分なものは置かず、きっちりと整えてあれば、快適な生活ができる。
心の支えになるような趣味を持つことが長生きの秘訣です。

日本最長寿の名僧・天海の養生訓

『気は長く 勤めは堅く 色うすく 食細らして 

心広かれ』 

いままでの天台僧の中で、l番の長生きの年齢は百八歳です。
私も百八歳まで生きて説法をし、見事に-百世紀を飛び越えたいと思っています。人間いくつになっても生きる目標は必要で、それがないと頑張れません。百八歳まで説法をしたいいまから十年ほど前、米寿(八十八歳)を祝ってくださるというのをお断りし、卒寿(九十歳)としてのお祝いならさせていただきたいと思いました。

卒というのは、卒業の卒でありますけれども、兵卒の卒でもあって、一兵卒としてみなさんのお役に立ちながら、修行を続けていくという意味も含まれているからです。
私は一八九五年に生まれで、満年齢でいうと九十八歳ですが、人間として母親の胎内に宿った時から数える、人間としての本当の年齢である数え年でいうと九十九歳、つまり百には一つ足らん白寿ということになる。

天台僧の中で一番の長命者は、三百五十年ほど前の、天海大僧正です。織田信長に焼かれてしまった比叡山の復興に力を尽くし、百八歳の天寿をまっとうされました。
天海さんは徳川家康公に長寿法は何かと問われ、『気は長く 勤めは堅く 色うすく 食細らして 心広かれ』と答えたと伝えられています。また、三代将軍の家光公には、次のようにも伝授されている。

長命は 粗食 正直 日湯 陀羅尼 時折ご下風遊ばさるべし 

 日湯というのは、毎日の入浴のこと。陀羅尼(だらに)は信仰心を失わず、毎日ご真言を唱えて、禍を転じ福となすように祈念せよ、ということです。
ご下風はおならのことで、時折は、腹にたまったガスを放出しなさいという。
ここのところが面白いではありませんか。理想ばかり追い求めて、難しいことばかり言うのではない。

私どもは、現実に肉体というものを持っとるのですから、たまにはおならでもして、そのことを思い出さないとあかんと。ただガスを放出するという効用だけではなしに、ユーモアのある、深い教えがあると思うのです。
天海さんは寛永二十年(1643年)、百八歳でありながら江戸から日光へ行き、東照宮の落慶法要をされて再び江戸に戻り、三カ月ほど寝込まれて亡くなった。

長命のお坊さんとしてもう1人、忘れ難く、深く尊敬申し上げるのが、清水寺の貫主を務められた大西艮慶さんで、やはり百八歳まで生きられ、十数年前に亡くなられました。

お2人が偉いのは、たんに長寿であったというだけではなしに、百歳を超えてなお、最後の最後までご自分のつとめを果たされたことです。良慶さんは、亡くなる三カ月前まで、自坊から観音堂へ足を運ばれ、説法を続けられました。

私もこのお二方を見習って、何とか百八歳まで元気で説法をしたいと願うています。実は私にとって百八歳というのは、尊敬するお二方に並ぶということとは別に、もう;野心があるのです。それは坊さんとしての、幅跳びの世界記録です。つまり、私が百八歳になるのは二〇〇二年ですから、二十世紀を見事に飛び越えたことになる。

こんなに上手に一世紀を飛び越える人は、そうはおらんでしょう。人間いくつになっても生きる目標は必要で、こういう野心を持つと、何とか頑張ってみようという気になるものです。

「勤めは堅く、気は長く、大欲にして心安かれ」 

しかし、この歳になると、そう元気というわけにもいかなくて、今年初めには入院生活もいたしました。いろいろと内臓の方を検査してくれた医者は、「いまのところどこにも異常はありません。まあ、六十代ですな」とおだてたあと、「病気には、よくなるために養生する方法と、悪くならんように養生する方法とがある。あなたの場合は、悪くならんように養生するより仕方がないでしょう」と、なかなかうまい忠告をしてくれました。

何もないということは絶対にないわけで、「養生することを怠られたら、だんだんと深みにはまります。だから養生だけは怠らずにして欲しい」と言うのです。

応えるのは、やはり手足の疲れです。不思議なことに、座っておりましても、立っておりましても、横になってじっとしておりましても、同じように疲れる。ということは、動くより仕方がない。じっとしておったんでは駄目なんだと気づくわけです。動いておれば体の養生にもなるということでしょう。

動くというても、そう簡単に動けるものやありません。私の仕事というのは、どちらかと言えば、じっとしとる方が多いのです。しかし、動けなんだらいくら寿命があっても意味がありませんから、動ける身体を維持できるように、養生せなあかんのです。

寿命というのは与えられるもので、いくら頑張ってみたところで、自分で寿命を足すわけにはいかんし、どうなるやわからんことですが、できる限りの養生をせんならん。

私は座右銘を『勤めは堅く 気は長く 大欲にして 心安かれ』

という言葉に置き代え、座右の銘にしようと思うています。全体の意味としてはそう大きな違いはないのですが、「色うすく、食細らして」ということは、いまの私にはあまり関係がないので除いてある。その代わりに、「大欲にして」という言葉を加えたのです。

説明するまでもないでしょうが、大欲というのは、世間で言う己の欲望が深いということではありません。人類全体、宇宙全体の平和と幸せを願うという意味での大欲です。そういう大きな欲を持たないと、大乗仏教の精神に合うた生活ができません。


悪事がはびこると寿命が縮むだけ‥
 
世の中に、悪心がはびこっています。こんなふうでは、仏教が言っているよう10歳をもって、人間は壊滅してしまうのではないでしょうか。そうならないためには、自己中心の考え方を改めなけりやならんのです。

人間の寿命は、最初は二万歳であったと、仏教では説いています。善心ばかりで、悪心がなかったから、二万歳まで生きられたというのです。それが悪心が増すと共に、寿命が減ってきた。現在も悪心が増長しておりますから減り続けているわけで、やがて、人寿十歳をもって、人間は壊滅してしまうと教えているのです。

(山田恵諦『和して同ぜず』大和出版、1993年)

山田恵諦座主の言葉

http://homepage1.canvas.ne.jp/minamihideyo/essay-yamadaetai%20no%20kotoba.htm

 - 人物研究, 健康長寿, 湘南海山ぶらぶら日記

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
知的巨人たちの百歳学(127)<カルピス王・三島海雲(96)の健康長寿・生涯現役\経営術>モンゴルで緬羊(めんよう)事業に着手、中国の排他主義で悪戦苦闘ついに事業から撤退、裸一貫に

   知的巨人たちの百歳学(127) <カルピス王・三島海雲(96)の …

no image
百歳学入門(171)-『生死一如ー 鈴木大拙師(96歳)を偲んで』★『敢えて、今日から明日へ、来年また来年と、将来に希望をかけることが私の九十三歳の健康法だ』●『特別に健康のことを考えて暮らすわけではないが、わしは過去のことは考えんな。いつも未来のことを考えておる。あれをしなくてはならぬ、これをしなくてはならぬとな』

 百歳学入門(171)-生死一如   鈴木大拙師(96歳)を偲んでー敢えて、 今 …

『Z世代のための昭和100年、戦後80 年の戦争史講座』★日本で最初の対外戦争「元寇の役」はなぜ起きたか③』★『一国平和主義に閉じこもっていた鎌倉日本に対して世界大帝国『元』から朝貢(属国化)に来なければ武力攻撃して、日本を滅ぼすと恫喝してきた!、国難迫る!』

2019/10/01『リーダーシップの日本近現代史』(68)記事再編集 日本の「 …

オンライン講座ー★人生/晩成に輝いた偉人たちの名言②』●『日本一『見事な引き際・伊庭貞剛の晩晴学①★『住友財閥の中興の祖『幽翁』伊庭貞剛の経営哲学』★『部下を信頼して「目をつぶって判を押さない書類は作るな』★『人を使うには4つのしばりつけに注意すべきだ』★『 リーダーは『熟慮・祈念・放下・断行』せよ』

  2021/11/24  『オンライン …

『オンライン/渋沢栄一講座』★経済最高リーダー・渋沢栄一の『道徳経済合一主義の経営哲学に学べ』<晩年は社会慈善公益事業に財産を還元せよ>

日本リーダーパワー史(88回)   2010/08/20&n …

no image
●「 熊本地震から2ヵ月」(下) 『地震予知はできない』ー政府は約3千億円を つぎ込みながら熊本地震まで38年間の『 巨大地震』の予知にことごとく失敗した。(下)<なぜ地震学者は予知できないのか。ゲラー氏は 『地震予知は科学ではない』という>

  「 熊本地震を考える」 『地震予知はできない』ー政府は約3千億円を つぎ込み …

no image
日本リーダーパワー史(721)『強中国夢』(中華思想単独覇権主義)をめざす習近平共産党政権は「近代中国の父・孫文」の『覇道より王道をめざせ」という日本への遺言を読み直さねばならない。<孫文「大アジア主義」の演説全文を再録>②

   日本リーダーパワー史(721) (再録)日本リーダーパワー史(204)『辛 …

『京都名刹・名園ぶらり散歩動画は楽しいよ」★「静かに名園、長谷川等伯を観賞できる穴場の『智積院』(ちしゃくいん)はステキだね」

京都名刹/名園ぶらり散歩(2017年9/3)ー静かに名園、長谷川等伯を観賞できる …

no image
★(まとめ記事再録)『現代史の復習問題』★『ガラパゴス国家・日本敗戦史③』150回連載の31回~40回まで』●『『アジア・太平洋戦争全面敗北に至る終戦時の決定力、決断力ゼロは「最高戦争指導会議」「大本営」の機能不全、無責任体制にあるー現在も「この統治システム不全は引き続いている』★『『日本近代最大の知識人・徳富蘇峰(「百敗院泡沫頑蘇居士」)が語る『なぜ日本は敗れたのか・その原因』

★(まとめ記事再録)『現代史の復習問題』★ 『ガラパゴス国家・日本敗戦史③ 』1 …

no image
<F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ウオッチ(207)> 『7年ぶりに、懐かしのアメリカを再訪,ニューヨーク めぐり(5月GW)⑤』 『2階建バスツアーでマンハッタンを一周』ブルックリンブリッジを通過、 イーストリバーを右手に、国連ビルを見上げ、 トランプタワーを見て、セントラルパークに向かう➀

 <F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ウオッチ(207)> 『7年ぶりに、懐 …