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片野勧の衝撃レポート(81) 原発と国家― 封印された核の真実⑬(1988~96) 「もんじゅ」は世界に誇れる知恵ではない(下)小出裕章氏へのインタビュー『いまだに放射能汚染は続く』

   

 

片野勧の衝撃レポート(81)

原発と国家――

封印された核の真実(1988~96)

もんじゅ」は世界に誇れる知恵ではない(下)

小出裕章氏へのインタビュー『いまだに放射能汚染は続く』

3・11。その時……

3・11「東日本大震災」。午後2時46分。小出さんは京都大学原子炉実験所の放射線管理区域の中で放射性廃物の処理の仕事に従事していた。

夕方、会議のため、管理区域を出て、会議のための部屋に行ったら、巨大地震の映像が流れていた。普段、テレビをまったく見ないのだが、堤防を越えて町を呑み込む真っ黒な津波、押し流される仙台空港……。

“こんな大きな地震が来て、福島原発は大丈夫だろうか”――。

小出さんの脳裏をかすめた。しかし、この日、「原子力安全問題ゼミ」のためにチェルノブイリからお客さまがくるというので、関西空港に到着した来客と一緒に食事を共にして、この日は床に着いた。

翌12日の朝。「これはただごとではないと思いました」。論理は明快。無駄な形容詞を決して挟まない小出さんの言葉だけに、受けた衝撃の大きさがうかがえる。

午後には1号機建屋が白煙を上げて爆発した。14日には3号機建屋が水素爆発。15日には2号機で格納容器の圧力抑制室が破損し、また4号機も火災が発生、と発表された。

電話がひっきりなしにかかってきた。小出さんはその都度、電話を取り、相手に懇切丁寧に説明した。

「原子炉を溶かさないために水を供給し続ける、それだけです」「4号機の使用済み燃料プールは水が干しあがって空焚き状態になると、大量の放射能が環境に出て大変なことになります」……。

インターネット情報は「玉石混交」という小出さん。良いものも悪いものも区別されず入り混じっているものが多いため、基本的にはかかわらない。「しかし……」。言葉を継ぐ。

「そんなこと言っておれませんでした。とにかく大勢の人たちに、『もっとひどくなるはずだ。破局的事態です。逃げられる方はすぐに逃げてください』と、情報を発信しました」

■日本にも飛んできた放射能―チェルノブイリ事故

小出さんは30年前のチェルノブイリ原発事故で環境に放出され、8千キロ以上離れた日本に飛んできた放射能を、大阪府熊取町にある実験所内で測定した。

以来、小出さんは原発事故から出る放射能汚染に警鐘を鳴らし続けてきた。しかし、それが現実に繰り広げられたのが、福島第1原発事故だった。

大震災から1週間経った3月18日、実験所で「原子力安全問題ゼミ」が行われた。1980年6月の第1回から、もう110回を数えていた。

ここには実験所OBで小出さんとともに「熊取6人組」と呼ばれた今中哲二氏や海老澤徹氏、小林圭二氏、川野眞治氏の姿もあった(もう一人の瀬尾健氏は1994年に逝去)。

この「安全問題ゼミ」で小出さんは福島第1原発事故から3日後の3月15日、東京都内の空気中から採取した放射性物質の量を測定した結果を発表した。

「ヨウ素、テルル、セシウムなど、1立方メートルあたり数十ベクレルありました。チェルノブイリから8千100キロ彼方の日本に飛んできたときの100倍です。東京の皆さんが吸い込んでいた空気からの内部被曝は、1時間で約20マイクロシーベルトになってしまいます」

話す側の小出さんは原子力の“プロ”であることは当然だが、聞く側の方も“筋金入りのプロ”だ。長年にわたって各地で原発反対の市民運動などに取り組んできた人たちだ。会場からは声にならない呻きのような反応が広がった(細見周『熊取六人組―反原発を貫く研究者たち』岩波書店)。

■なぜ、プルトニウムを手に入れたいのか

――日本では原発事故は日常茶飯事のように起こっていますが、その中で特に印象に残っている事故は? しばらく腕を組んで考え込む。1秒、2秒、3秒……数秒後に小出さんは語り始める。

「二次系配管から蒸気が漏れ、作業員4人が死亡した美浜原発3号機の事故も痛ましいものがありました。しかし、ナトリウム漏れ事故で火災を起こした高速増殖炉『もんじゅ』も大変な事故でした」

高速増殖炉「もんじゅ」は冒頭でも述べたが、1995年12月、原子炉を動かそうとした途端に事故を起こし、停止した。この年は「もんじゅ」事故や住専問題、薬害エイズ、沖縄問題、金融スキャンダル、宗教法人法改正など、カラスの鳴かない日があっても、権力スキャンダルは連日、新聞やテレビで報道されていた。

この高速増殖炉は、作るのが大変難しい原子炉である。というのは、本来、原子炉は水で冷やさなければならないが、高速増殖炉は水が使えないためにナトリウムを使う。

しかし、ナトリウムは空気に触れると発火し、水に触れると爆発する、と小出さんは自著『原発と憲法9条』(遊絲社)に書いている。それほど難しい原子炉なのに、原子力に夢を抱いた日本は、それに挑戦した。

高速増殖炉からアメリカは撤退。ほかにイギリス、旧ソ連、フランスも失敗したあげく、計画自体がつぶれてしまった。

しかし、日本だけは挑戦し続けたが、「もんじゅ」はナトリウム漏れ事故を起こして失敗。数十年間、停止したままとなっているのだ。

日本は「もんじゅ」につぎ込んだだけでも、すでに1兆円のお金を捨てたという。では、できないから、これで終わりにすればいいのか。「ことはそう簡単ではない」と小出さんは言う。

「問題はウラン燃料再処理です。今、日本はイギリスとフランスの再処理工場に送ってプルトニウムを取り出してもらっていますが、それは『高速増殖炉で使う』という名目で取り出してもらっているのです」

メドもまったく立っていない高速増殖炉「もんじゅ」。では、どうする?

「高速増殖炉でなく、現在使っている原子力発電所――熱中性子炉=サーマルリアクター――で燃やしてしまおうと考えているようです」

いわゆる「プルサーマル計画」である。ところで、日本は現在、プルトニウムをどれだけ懐に入れているのか。小出さんの試算は「80メガトン。長崎原爆は21キロトンだから、長崎原爆が4000発つくれる量」と。

もちろん、日本ではプルトニウムを兵器として使うことはできない。国際社会も許すはずがない。いずれにせよ、福島でこれほどの事故を起こしておきながら、まだあきらめない。

いまだに日本は原子力発電をやり続けよう、高速増殖炉だってやり続けるといっている。なんで、こんなバカげたことをいつまでもやり続けるのか。小出さんの証言。  「それは核兵器をつくるためです」(小出裕章『前掲書』)

■いまだに放射能汚染は続く

――いまだに放射能汚染は続いています。それなのに再稼働することについては? 小出さんは怒りを込めて、こう語る。

「正気の沙汰とは思えません。常軌を逸しています。慰謝料も賠償金も仮設住宅の家賃負担も、いつまで払い続けるかわかりません。ならば、いっそのこと、原子力緊急事態宣言下にあるうちに、避難している人たちを帰還させようというのが、国と東電の考えなのでしょう」

つまり、汚染された元の土地に避難者を押し込んで、表向きは復興が進んでいるかのように装う。そのうえで原発を再稼働して実績をつくり、「日本の原発は安全です」と宣伝して海外に原発を売り込む。

要するに、経済最優先で、政治も企業も金の亡者になっていると小出さんは主張する。

――福島第1原発で起こった事故はどれほどの規模のものなのですか。

「法治国家として法律を守るのであれば、東北・関東地方の約1万4千平方キロメートルの土地は放射線管理区域にしなければなりません。そこには少なくとも千数百万人が住んでいます。

もし、この人たちを法律通りに強制避難させて、ちゃんと補償しようとすれば、何十兆、何百兆という金額では済みません。日本の国家は倒産するでしょう。東電が倒産するのではなく、国家が倒産するという、それほどの事故なのです。人々をきちっと移住させるべきです」

日本の法律では1平方メートルあたり4万ベクレルを超える物体は、どんなものでも放射線管理区域の外側に存在させてはならない、と定められている。その法律を厳密に適用するなら、東北・関東のかなりの地域が放射線管理区域に指定しなければならないと小出さんは指摘する。

――東京は大丈夫でしょうか。

私の質問に対して、小出さんはこう言う。

「大丈夫という言葉を使ってはいけません。安全、安心という言葉も使ってはいけません。放射能はどんなに微量でも危険を伴うからです。東京の下町、たとえば葛飾区や江戸川区などの一部に、放射線管理区域にしなければならないほど汚染されているところがありました。

奥多摩もそうです。片野さんのお住いの立川はまだよかった(笑い)。でも、立川も汚染がないわけではありません。測定すれば、何がしかの数値は検出されます。基本的に大丈夫ということはないのです」

■偏西風に乗って太平洋の上空へ

――日本は怖いので、海外に移住しようという人もいるようですが……。

重い空気が流れた。小出さんは話を続けた。

「被曝に安全量なんてありませんので、地球上のどこに逃げたところで被曝することになります。日本は北半球温帯に属しており、上空へ行くと、偏西風が吹いています。恐らく、8、9割、放出された大量の放射性物質は、偏西風に乗って太平洋の上空へと流れました。

現に、米国の西海岸やカナダの西海岸の方がひどい被害を受けました。ですから、日本が怖いからといって、海外へ逃げたとしても、場所を選ばなければ、余計被曝します。放射能から見たら、県境もなければ、国境もないのです」

――原発事故で苦しんでいる人たちの思いを繰り返さないためにはどうしたらよいか。間髪入れず、こう答えた。

「責任ある人を処罰することです。そもそも汚染の正体は、れっきとした東京電力の所有物ですから、まず東電に責任を取らせるべきです。それから国、原子力産業、マスコミ、裁判所、学者が皆、グルになって原子力発電を進めてきた巨大な「原子力マフィア」も処罰すべきです。

法律に触れる罪を犯した人間は、通常はその罪を裁かれ、償うために刑に服さなければなりません。しかし、東電をはじめ、原子力を推進してきた政財界の人たちは、一人として何の責任も問われることなく、人脈も予算も温存されたままです」  権力は、より強い権力から処罰されない限り、安泰なのか。

最後に、もう1つ、質問を!

――小出さんにとって、原発の問題とは何ですか。

「差別の問題です。その差別にまつわる1つ1つの課題に皆さんが取り組んでくれるなら、それは私がいま闘っている原子力の問題と、必ず通底していると思います。そして、もし『差別の世界』を超えることができるなら、原子力は必然的になくなります」

原発に反対する根本の理由は、自分だけがよくて、危険だけを他人に押し付ける社会が許せない。電力を使用する都会には原子力発電をつくらないのもそうだし、原子力発電所で働く労働者は底辺で苦しむ労働者が多いのも、その理由だと小出さんは語る。

首都直下型地震が30年以内に70%の確率で発生すると予想されている。「日本は原爆を落とされるまで負けを認めなかった。その愚を再び繰り返すつもりなのか」「科学技術は本当に原発に打ち勝つことができるのか」――。松本城の桜を見上げながら自問した。

(かたの・すすむ)

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