終戦70年・日本敗戦史(82)大東亜戦争の真実「ドイツ依存の戦争実態」<他力本願の軍首脳部の無能ぶり>②
2015/05/28
終戦70年・日本敗戦史(82)
敗戦直後の1946年に「敗因を衝くー軍閥専横の実相』で
陸軍の内幕を暴露して東京裁判でも検事側の
証人に立った反逆児・田中隆吉の証言②
前坂俊之(ジャーナリスト)
なぜ、この田中隆吉の証言の連載をやっているのか。それは、大東亜戦争には歴史の教訓がいっぱい詰まっているからである。しかも、その失敗のケースは日本人、日本国のDNAにしっかりと組み込まれていて、現在にも引き継がれているからだ。東条内閣の失敗例を安倍首相の経済財政再建の取り組みで繰り返してはならない。
景気の回復した時こそ、借金は思い切り早く、できるだけ多く返すのが鉄則である。ここにきて、いまだ先延ばししている「死に至る病」から脱却せねば、経済敗戦はさけられない。なぜ、そのことがわからないのか。
1千兆円にのぼる世界史上最悪の借金を積み上げながら、安倍内閣の「財政再建の取り組みは」は緩く、欺瞞だらけである。東条内閣の開戦誤算、数字水増し、他力本願の失敗の轍から学ばねばならない。
「経済財政諮問会議の「ゆるい議論」を許すなー「成長の夢」追い、歳出削減の文字見当たらず」
http://toyokeizai.net/articles/-/61348
財政健全化のためには「削減」なき歳出改革は絶対にありえない。
「名目年3.5%成長でも、2020年度9.4兆円赤字」の現実
「削減」なき歳出改革では、2020年度の基礎的財政収支黒字化は実現不可能だ。実現できないことを恐れてか、2020年度の財政健全化目標を、基礎的財政収支黒字化ではなく別の目標にすり替える欺瞞を行っている。
3.5%を超える名目成長率を実現することは今の日本ではムリなのは誰もが承知のこと。ところが、厳しい状況を、経済財政諮問会議は直視したくないので、架空の実現不可能な数字遊びをやっている。それをメディアも厳しく指摘しない。敗戦病のパターンを繰り返している。
「ドイツ依存の戦争の実態」ー他力本願の軍首脳部の無能>
戦争勃発の直前、東条首相は、いわゆる大将会、即ち在京せる在郷の陸軍大将全部を陸軍省に招待し、当時の陸軍々軍備の状態と欧洲情勢の説明を行った。出席しなかったものは宇垣一成大将だけであった。ほとんど同時に貴衆両院議員中の有力者を招待して同じく説明を行った。此頃ドイツ軍は、モスコーの郊外に迫り、今一歩の所で、厳寒の襲来とソ連の反撃を興しタヂタヂと成っていた。ただレニングラードの包囲のみは未だ解かれていなかった。陸軍側からは東条首相、武藤軍務局長、岡本参謀本部第二部長が交々起って説明した。武藤氏は言った。
「ドイツ軍は今やレニングラードを完全に包囲しておる。恐らく数ヶ月を出でずして、世界戦史上未だかつてその例を見ない飢餓による二百万市民のせん滅戦が行われるであろう。かくして独ソ戦はドイツの勝利に終るであろう」と。岡本氏は言った。
「ドイツの明年の春季攻勢は、コーカサスの石油地帯に向って行わるであろう。この石油地帯にしてドイツの手に帰せんか、ソ連は潰滅し、ドイツの欧洲制覇は完成されるであろう」と。
当時参謀本部の総務部長であった若松只一少将
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8B%A5%E6%9D%BE%E5%8F%AA%E4%B8%80
は私の同期であるが、此頃「何故に開戦を主張するのか」との私の質問に対し「やらなければ勝つべきドイツが負けるからだ」と答えた。
これ等の席上、東条首相の説明に依る陸軍航空部隊の第一線幾は一千五百、その月産機数は五百であった。私の記憶にして誤らなければ此時すでにアメリカは月産四千機であった。
これを要するに大東亜戦争の開始を決意した陸軍の首脳部は、ドイツが必ず勝つことを前提としておったのである。即ち昭和十七年の秋までにはソ連はドイツに屈服すべく、その結果。英米は戦意を喪失すべく、かくして日本は最後の勝利を獲得すると云う判断に基いて開戦を決意したものである。
極言すれば、ドイツの対ソ作戦が既に失敗の段階に入りつつあるにも拘らず、依然としてドイツの国力を過信しバスに乗り遅れるなーとしたのである。他力本願の決意であったのである。東条首相が、あの奇妙なアクセントで絶叫した、必勝の信念と英米の撃滅は実はドイツの勝利に依存した信念であり、撃滅であった。「国力が不足でやれないと云うならば仕方がない。少々不足でもやれるならやる」と言った氏の言葉は明かにこれを実証する。
従って開戦当時に於ける我国力の算定は、開戦を正常化するために、虚偽と欺瞞に満ちたものであった。先づ戦争をやると決意し、然る後、この決意を裏付けする如く辻褄を合わせたものである。
戦争に必要なる物資の量は、最悪の場合を予想し、如何なる事態においても、取得し得る量を基礎として算定するべきものである。然らざれは近代戦の特質たる長期戦を行うことは出来ない。
大東亜戦争遂行に必要なる国力の算定に当って、政府当局はこの原則を無視し、最良の場合を想定して算定した。先づ食糧は仏印、シャム、ビルマの米と満州の大豆を充つれば余裕しゃくしゃくたりと見た。銅の不足はフィリッピソの銅を以て補い得るとした。マレーにおける、ゴム、錫、蘭印におけるキニーネの独占は、我が需要を充し得るまでに止まらず進んで英米の死命を制するに足るものと考えられた。蘭印(インドネシア)の石油は二年後においては、我軍需のみならず、民需をも充して余りあるものとした。
此等の物資の輸送に欠くべからざる船舶の量は、戦争の第一年度に於て、約八十万トンを喪失すべきも、拿捕し得る船舶と、国内の新造船を以て十分に補充して余あり、第二年度以降においては逐次増加するものとして算定せられた。
これは然し開戦後三ヵ月にして、画ける餅に過ぎなかったことが明かとなり、当局の狼狼はその極に達した。即ち、船舶の喪失が三ヵ月を出でずして八十万トンを超え、拿捕せる船舶の量は、予想の三分の一にも達しなかったからである。
支那事変勃発以来、無理に無理を重ねた内地の鉄道はレールの多くが疲労の極に達し、新規のものと交換するにあらざれは、輸送は減退の一路をたどるの外なき哀れなる状態であった。
戦争の遂に最も必要なる鋼鉄の算定に当っては、実に許すべからざる欺瞞が行われた。開戦約一ヵ月前、私は企画院のブレントラストの一人である勅任詞査官、毛里英於菟氏と夕食を共にしたことがあった。
毛里氏は満洲以来の友人である。毛里氏は語った。
「詳細に調査して見ると、我国の鋼鉄の生産量は最も有利に見て一年四百三十万トンが最大限である。然るに今、上司から、英米と開戦した場合には、陸海軍の軍需と民需とを合して四百八十万トンが必要であるから四百八十万トンに成る様に研究せよとのことである。如何に研究しても無から有は生じない。屑鉄と民間の鉄を回収することにして辻褄を合わせることにした」と。
開戦六ヵ月にして、戦争第一年度の鋼の生産量が四百万トンは愚か三百万トン内外を上下することが判明した。当時の陸軍省兵器局長菅晴次中将http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8F%85%E6%99%B4%E6%AC%A1
は私に耳話していわく「実際のことを言ふと年産三百万トンも困難だ。深刻に考えたら死ぬか、逃避の外はない」と言った。
開戦当時の外務大臣東郷茂徳氏は、何うして開戦に成ったかとの私の問に答えて「栗栖大使の持って行った譲歩案に対するアメリカの所謂最後の通牒が来たとき、陸海軍が開戦を主張するから、大丈夫勝てるのかと聞いたら、東条も嶋田繁太郎
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B6%8B%E7%94%B0%E7%B9%81%E5%A4%AA%E9%83%8E
も、必勝疑なしと答えたので、この通牒を拒絶することに成った」と語った。
当時武藤軍務局長は局長会報で「アメリカの最後通牒はこれを受講するならば日本は将来ヂリ貧と成って亡びる」
と言った。私は不幸にして末だその最後通牒の詳細なる内容を見たことがない。仄聞するに、それは①、支那大陸より軍隊及警察等一切の武力を撤退せよ、但し急速を要せず、② 三国同盟を破棄せよとの2項が骨子であったらしい。若しこれが真実であるならば満鮮を擁する日本が、果してヂリ貧で亡びたであろうか。当時右翼の一部で叫ばれた「戦うも亡び、戦わざるも亡ぶ。如かず一戦を交えて死中に活を求めんには」との宣伝は果して真実であったろうか。
冷静に考えれば、戦わんがために国民を欺瞞したものとしか思われぬ。
要するに陸海軍の主脳部の開戦決意は、ドイツの必勝を確信し、ドイツと共に戦わば、かりに我日本に国力なしとするも、最後には英米共に戦意を失い、日本の勝利を以てを結ぶことを得るとの他力本願のものであった。しかも我国力の算定は開戦を正当化せんがための無知と虚偽との累積であって砂上の楼閣に等しいものであった。
つづく
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