日本興亡学入門 ③ 米金融資本主義の崩壊による世界大恐慌へ突入!
2015/01/02
cccccccccc
日本興亡学入門 ③ 08年10月20日
米金融資本主義の崩壊による世界大恐慌へ突入!
前坂 俊之
(静岡県立大学国際関係学部教授)
1・・・「だからいったじゃないの」。
ついに世界中が心配していたことが現実となりましたね。世界大破局に突入です。サブプライム問題が引き金となった米国の金融崩壊は大津波となって世界中を巻き込んで、大恐慌へとなだれ込んでいます。
08年度ノーベル経済学賞を受賞したクルーグマン教授やグリーンスパンFRB前議長の「米国は世紀に一度の金融危機に突入し、グローバルな実体経済に甚大な影響を及ぼす」との指摘通り、実体経済の崩壊が始まった。
正しく『グロバーリゼーション』の大暴発であり、20世紀に続いた「パックスアメリカーナ」「米カジノ資本主義」の終り、アメリカ金融帝国主義の終焉を今、目の当たりにしているのです。21世紀の巨大なパラダイムシフトを告げる大地震であり、世界はいっそう混沌とした視界ゼロの乱気流に入り、グローバル経済はダッチロール状態で墜落の危機も高まっています。
歴史の転換を告げる号砲は突然始るものではありません。数10年、100年という長いスパーンで、因果関係、発火点をマクロにつきとめることが必要です。
大地震が長い年月をかけて徐々にマグマが堆積して噴火し、ヒズミやプレートを一挙に破壊するように、今回の一連の金融恐慌はブッシュ大統領による8年間の政治、外交、経済政策の失敗のツケがたまりにたまって一挙に噴き出したものです。
いわば、行き過ぎた金融カジノ資本主義の暴走に、ブレーキをかけなかったことで自国の経済の底を割り、世界を巻きぞえにした経済恐慌のクラスター爆弾をばらまき、任期8年の最後に大破裂するというタイミングの一致は、何とも因果応報という感じですね。
「だからいったじゃないの。カネも貯蓄もないのにローンで大きな買い物し、借金漬けになっていると今に、破産しますよ」と。「だからいったじゃないの。対外収支の赤字が雪だるまなのに、これ以上、膨脹すると経済崩壊、国家破産しまうよ」と。「だからいったじゃないの。ヘッジファンドの暴走を野放しにしていると、遠からず大暴落して米国発の世界同時不況、大恐慌がきますよ」と。
十数年も前からクルーグマン教授や数多くの識者が何度も警告を発してしていましたよね、日本に対しても。「だから、いったではないか、いつまでも米国追随を続けていると、アメリカと抱き合い心中するしかない」と・・・・。
事態の急展開にパニックを起こしていては、混乱するばかりです。事態への緊急対応と早急な対策の実施と、原因の究明を同時にやる必要があります。
今回はさまざまな要因が重なった複合恐慌ですが、何といっても最初の引き金はブッシュで政権のイラク戦争の失敗とその影響です。短期の占領で、「イラクの民主化」「中東の民主化」は実現するとの見方は完全にはずれて、5年を経過した戦争は泥沼化して米軍は引くに引けない状態となりました。
2・・「先制攻撃主義」「米国の一国支配」というブッシュドクトリンは完全に失敗しました。
この5年間の総決算では、米兵の死亡者は約4千人を突破、イラク市民の犠牲者は最低8万人から最大112万人にのぼります。「中東を民主化する」ことに失敗したどころかメチャメチャにして、新たにイランとの核開発をめぐる緊張をエスカレートさせるなど、テロを拡散してより大きな混乱を世界にまき散らしました。しかも膨大な戦費負担、石油危機の誘発で、石油価格は高騰し、ヘッジファンドや過剰流動性を野放した結果、世界中にインフレを起こす、経済大混乱のタネをまいたのです。
2001年度ノーベル経済学者・ジョセフ・E・スティグリッツ教授は「世界を不幸にするアメリカの戦争経済 イラク戦費3兆ドルの衝撃」(徳間書店、2008年刊)の中で、イラク戦争での戦費、経済的な損失を計算していますが、米国民1世帯あたりのイラク戦争負担金額は4,100ドル、戦争の長期的費用見積額は3兆ドルにのぼり、イラクとアフガン戦争の総コストは、最終的には5兆ドル以上(500兆円)を超えるとはじいています。
これが米国の財政赤字をより深刻化させたのです。現在、米国の累積の財政赤字は約11兆ドル(約1200兆円)を突破していましたが、今回の金融崩壊がさらに追い打ちをかけ、09年度は単年度だけでも公的資金の注入により1兆ドル以上の財政赤字が積み上がる見込みで、合計12,3兆ドルという危機的水準へより一歩近づいているのです。
第二は追い込まれたブッシュ政権はあわてて金融安定化法を出して、公的資金を銀行に投入することになりましたが、大部分の国民は強く反対し、株価は大暴落しました。米国民の多くは政府は自由経済に介入すべきでないと考えており、特に空前の利益をあげていた金融業界に救済の手を差し伸べることには強く反発したのです。
07年度にゴールドマン・サックス(GD)、リーマン・ブラザースなど米証券大手5社の全社員へのボーナスの合計額は390億ドル(約4兆円)で、社員1人あたりでは約2,121万円。GDCEOからブッシュ政権財務長官についたポールソンは約500億円以上の報酬を得ており、倒産した住宅金融抵当会社のファニー・メイとフレディマックのCEOは32億円、23億円という途方もない報酬を受け取っていたのですから、反発も当然です。
3・・ヘッジファンド「小さなマーケットの中の大きなクジラ」
これ以上に大きいのは投資銀行、ヘッジファンドによる過熱な金融資本主義の暴走です。この20年間で、米国ではGD、モルガンスタンレー、リーマンなどの投資銀行が一挙に巨大になりました。これにミニ投資銀行といってよいヘッジファンドが増えて〇六年になると、5年前の20倍以上の一万ファンド、一兆五〇〇〇億ドル以上にも肥大化、実需を超えて価格の決定権を握りました。この結果、株価、為替、不動産、各商品市場などで原油、穀物価格なども高騰も、価格の振幅、混乱要因となり、まさにヘッジファンドは「小さなマーケットの中の大きなクジラ」と化して、大暴れしてマーケット自体を破壊したのです。
ヘッジファンドは集めた大量の資金のリスク分散のため証券化し、IT技術と金融工学を駆使して複雑なデリバティブ(金融派生商品)に仕立て上げ、レバレッジ( テコの原理を使用することで、他人資本を借りて、自己資本に対する利益率を高めること)をかけ、少ない自己資金で30倍以上という巨額な資金を動かし、この巨大なバーチャルマネーが短期の利潤を追求して世界中のマーケットを駆け巡ったのです。
いわば金融資本主義という名のカジノマネーの大暴走です。いかにリスクヘッジを謳っても、ハイリターンの裏のハイリスク(レバレッジ効果)によって相場の急変には、より大損失をこうむるのです。サブプライム問題が引き金となり不動産バブル、信用(クレジット)バブル、レバレッジバブルが四重、五重にバブルをふくれ上がっての核爆発です。
この核爆弾の背景にあるのがファンド王・ウォーレン・バフェットが金融の大量破壊兵器となづけたクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)などです。
CDSとはクレジット、ローンのデフォルト((債務不履行)をヘッジした保険であり金融派生商品の1つです。倒産や回収不能などのリスクに備えて保険料をはらって、実際にデフォルトした場合には補償をうける証券化商品。このCDSがこの10年間でなんと60倍以上に膨れ上がって、残高(想定元本)は07年末で62.2兆ドル(6500兆円)あったのが、08年6月末ではベア・スターンズ破綻の影響などで54兆ドル(約5500兆円)と初めて減少しました。 金利デリバティブ取引高の全体では07年末時点で382兆3000億ドルに上ります。
それにしても天文学的な数字ですが、このCDSを日本の銀行その他が約10%を抱えているといいますから、そら恐ろしい限りです。バフェットの警告の通り、金融の時限核爆弾のCDSがどこまで爆発するかが、恐慌の行方を左右するのです。
4・・・天文学的に膨れ上がった信用パニック
大国の興亡の歴史を眺めると、古代ローマ帝国が「パンとサーカス」で滅んだように、大国のおごりとぜいたくが没落の始まりなのです。米ブッシュ政権のこれまでの世界戦略は、イラク戦争では国際協調や多国間主義を重視せよという国連や各国の反対を押し切って、一国覇権主義から、戦争に無理やり突っ込み、新自由主義の名のもとに米金融界の暴走を加速させて、ウオール街は空前の繁栄と、乱痴気騒ぎにうかれていました。
そのときに自爆テロのように金融クラッシュが爆発したのです。スティグリッツ教授の言葉ではないですが、世界に不幸をまきちらした「アメリカ一国支配」の終焉を告げているのです。
1930年、世界大恐慌に突入した段階でケインズは「われわれは混乱に迷い込んでしまった。あるデリケートな機械の操作を間違えてしまったのか、その働きを理解できないでいる」と書いています。今も、全く同じ状態で、グローバル化したシステミックリスク(金融システム全体を麻痺させるようドミノ倒し的なリスク)の原因を十分、各国の政策当局者が理解できないことこそが問題なのです。
しかも、70年前と比べてメディア、IT情報技術環境は一変しています。電気と電話、新聞などが富裕層にやっと行きわたった先進国の初期資本主義の時代から、いまはグローバルなインターネットが世界中をすみずみまで結び、天文学的に膨れ上がった信用パニック、恐怖心理の伝播、拡散、増幅のスピード、範囲はこれもまた天文学的な倍率になって双方向にはね返ります。
70年前はそれこそ小さな通常爆弾だったのが、いまは核爆弾以上のバーチャルワールド(仮想現実)と化したヘッジファンドは巨大すぎて当人たちも全体が全く見えない構造になっており、これをコントロールする側の米政府、世界各国の指導者、金融当局者はそれ以上に全体を把握することはやっかいなことなのです。
デリバティブの新手法を開発した金融工学の第一人者の97年のノーベル経済賞のマートン、ショールズの2人が設立したLTCMというファンドを破綻させ金融界を混乱させてのはついこの前のことです。ソロスも人間はまちがった行動に陥りがちだと述べています。100年に1度のこの難局に、いまこそ人類の英知が試されているのです。
(禁転載)
関連記事
-
◎現代史の復習問題『日韓150年紛争の歴史はなぜ繰り返され続けるのか、そのルーツを検証するー「英タイムズ」「ニューヨーク・タイムズ」など外国紙が報道した「日韓併合への道』の連載②(11回→20回まで)』
記事再録/日本リーダーパワー史(872) 「英タイムズ」「ニューヨ …
-
★『 地球の未来/世界の明日はどうなる』 < 東アジア・メルトダウン(1070)>★『北朝鮮の暴発はあるのか?』★『人間は後ろ向きに未来に入って行く(ヴァレリーの言葉)』●『過去の歴史的な知見にたよりながら未来を想像し、後ろ向きに歩むので、未来予想は誤りやすい』★『それでも、北朝鮮の認識と行動のルーツを知ることは一歩前進ではあろう』
C 1894(明治27)年の日清戦争のそもそも原因は、朝鮮に起因する。 という …
-
辛亥革命(1911年10月10日)百周年―逆転日中関係歴史情報③―『孫文革命を日本の新聞はどう報道したか』③
辛亥革命(1911年10月10日)から百周年 ―逆転した …
-
『オンライン/明治外交軍事史/読書講座』★『森部真由美・同顕彰会著「威風凛々(りんりん)烈士鐘崎三郎」(花乱社』 を読む②』 ★『川上操六陸軍参謀次長と荒尾精はなぜ日清貿易研究所を設立したのか』★『鐘崎三郎は荒尾精に懇願して日清貿易研究所に入ったが、その「日清貿易研究所」の設立趣旨は欧米の侵攻を防ぐためには「日中友好により清国経済の発展しかない」という理由だった』
2021/06/01 日本リー …
-
『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』⑤ー1903(明治36)年3月l日、光緒29年葵卯2月3日『申報』 『アジア情勢論』『ロシアと日本、互いに憎み合う』
『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』⑤ 1903(明治 …
-
『日本の最先端技術「見える化」チャンネル』★「インターネットのようにドローンが世界を変える」ーー「国際ドローン展』(動画4本)と『ドローン最新情報8本」
『日本の最先端技術「見える化」チャンネル』 ★「インターネットのようにドローンが …
-
『リーダーシップの日本近現代興亡史』(224)/★『世界天才老人NO1・エジソン(84)<天才長寿脳>の作り方』ー発明発見・健康長寿・研究実験、仕事成功の11ヵ条」(下)『私たちは失敗から多くを学ぶ。特にその失敗が私たちの 全知全能力を傾けた努力の結果であるならば」』
』 2018/11/23 百歳学入 …
-
★10 『F国際ビジネスマンのワールド・ カメラ・ウオッチ(175)』2016/5『ポーランド・ワルシャワ途中下車–ワルシャワ中央駅周辺』を見る①新しく清潔な空港施設と地下鉄、案内人など 観光客誘致に地道に取組み『魅力的な都会』
★10 『F国際ビジネスマンのワールド・ カメラ・ウオッチ(175)』 201 …
-
日本リーダーパワー史(537)三宅雪嶺の「日英の英雄比較論」―「東郷平八郎とネルソンと山本五十六」
2015/01/15日本リーダーパワー史(537)記事再録 &nbs …