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高杉晋吾レポート③  ギネスブック世界一認証の釜石湾口防波堤、『津波に役立たず無残な被害』②

   

 
2011年3月23日
ギネスブック世界一認証の釜石湾口防波堤、津波に役立たず無残な被害仮説河川・海に巨大構築物建設の危険性を問う>②
 
 
[政官財が考えた『災害』抑え込みの「海中万里の長城」そのもの]
 
高杉晋吾(フリージャナリスト)
 

 
ここでは、釜石港湾口防波堤の建設上の特徴を紹介する。
である。しかし、見出しの湾口防波堤無残という評価はわかりやすいし、正確である。で
 
 
『湾口防波堤の特徴、釜石港湾事務所』
 
 釜石湾口防波堤は、990メートルの北防波堤と670メートルの南防波堤の2つがあります。この防波堤は水深63メートルにつくられていて世界一深い防波堤です。その大部分は海中に沈んでいるために、普段私たちは防波堤全体の高さを確認することはできません。
防波堤は、ケーソンの製作、ケーソンを置く基礎石の造成、基礎マウンド上へのケーソンの据付の順に行われます。
 
ケーソンは、大きな津波でも倒れないように、16,000トン(ジャンボジェット機約44機分と同じ重さ)、高さ30メートルの超大型で、1つを造るのに約16カ月間かかり、働く人員は延べ7,400人になります。 このケーソンの下には基礎となるものをつくりますが、それを基礎石といいます。ケーソンはその基礎石の上に置かれます。
 基礎石をつくるさいの石の使用量は、700万立方メートルで、11トンダンプで約100万台分、東京ドーム約7つ分にあたります。
 ですから、ケーソン1つをつくるだけでもかなりの時間と人数が必要となります。
 このケーソンをいくつも並べて壁をつくり、外海からの大きな波や津波を防護する役目をになうのが、湾口防波堤です。
 

この防波堤は津浪でお終いか? 修復するのか? さらに巨大化するか?または津波を防ぐため
第二第三を建設か?

 
私はこれらの紹介レポートを見て考えた。 
この文章の最大の特徴は、この防波堤の『巨大さ』に対する賛美である。防波堤の巨大さ、素材使用の膨大さ、革新技術動員と集積の巨大さ、ケーソンの巨大さ、基礎石使用量の膨大さ、参加人員の多さ。
この賛美はこの建設に関わった企業の巨大構築物を作ることへの誇りと喜びの声に聞こえる。人々を救おうという誇りと喜びは正しい。
 
しかし地震と津波の後で考えると『巨大さへの賛美』で話は終わらないだろうと気がつく。その「話の終わり方」に問題がありそうなのである。
マスコミの報道の中で、学者らのコメントは今回の災害の現実からもう一度素直に学ぼうというのではなく、逆に湾口防波堤の有効性を、検証によって主張しようという印象である。しかし、実際の検証は大地震と津波が、へ理屈抜きで厳しい実証を伴って行なった。その結果、誰の目にも超巨大構築物が有害無益なものであることについて、説明不要な無残な結末を証明してしまった。
 
こう書くと「有害無益とは何だ!」という怒りが聞こえてきそうである。もう少し具体的に言おう。「防波堤は押し波には無効であった。引波には津波を陸上に引き留めてしまい、有害であったと言えるかもしれない。押してくる波には有効ではない。引いてゆく津波は陸地から引かせない」ということだ。
 
これ以上に厳しい具体的で現実的な検証があるのだろうか?人間が持っていた願望は「港湾防波堤が、釜石市住民の安全安心を百年守ってくれる」という願望だった。その住民の願望は痛いほどよくわかる。今回のような被害を防いでくれたら::。だが結果は事実によって証明された。目を覆うほど無残なものだったのである。
 
私の印象では、学者の云う「湾口防波堤がなかったらもっとひどい結果になっていただろう。だから湾口防波堤が駄目だということにはならない」と云うようなことを負け惜しみ的な『話の終わり方』をしている場合か?、これは危険極まりない。なぜか?
『無駄な抵抗をやめよ』という言葉があるが全く良い言葉である。地球が身震いをしたり、くしゃみをしたり、伸びをしたり、背中を掻いたりすることを止めろと云っても無駄である。この災害は地球が人間に対して出した重大な結論なのである。
 
湾口防波堤で釜石市は津波の害から百年耐えたいという期待は当然である。期待通りではなく二年も持たなかったなら、その素直な反省こそが必要なのである。
「湾口防波堤がなかったらもっとひどいめにあっていた」、と云うのは反省を拒否した論理である。次に必ず出てくるのは「湾口防波堤がなかった場合と比較し湾口防波堤の有効性について検証してみよう」という論議である。
 
八ッ場ダムなどの経験では、そのため『いわゆる学者を動員して有識者会議や検証委員会を作ろう』ということで問題がぼやかされ、延々たる論争が始まる。議論好き、空理空論好きが飛びついて『論争』が始まる。
 
この考え方は「人間があらゆる技術を駆使して造った巨大構築物によって地球の活動を止めることができる」という考え方から始まり、それを批判する人々に対し忍者のような目くらましが基本になっている。これは産業革命以来の「大量生産、大量消費、大量廃棄」の、近代化が齎した人間の地球に対する傲慢さの象徴である。この人間どもの高慢ちきな考えを地球がへし折った。それが今回の地震と大津波である。
原発災害もまた同じ人間の傲慢な思考方法に対する地球の答えである。
 
八ッ場ダムと同様「屁理屈の連鎖」が始まるのか?
 
私は、私が語った大ボラを思い出す。私が九州北部の都市に仕事で行った時、お役所の案内役の女性に大ボラを吹いたのである。 『俺はね、日本一の天気男だから、おれが来れば、天が恐れをなして、必ず空が晴れる。』 ところがこの大ボラの翌日、九州北部には稀な猛吹雪となった。女性は笑いながら「高杉さんの日本一のお天気男も怪しいものね。こんな吹雪になって::」と。

私も負けていない。「なあに。おれがいるからこの程度で済んだ。おれがいなかったら皆凍死していたんだ」女性は噴き出しそうになったが、口元を押さえ、心配そうに私の顔を覗き込んでだまった。彼女の不審を買ったが、こういうジョークは屁理屈のジョークで済む。

 
しかし千数百億円をかけ、チリ津浪にも、三陸津波にも、百年持つと市民に誇号した世界一の湾口防波堤が二年で『全く役に立たなかった』という事実は、『吹雪で済んで良かった!おれがいなかったら凍死していたんだ』というレベルの屁理屈と反論で話を終わらせる訳にはいかないだろう。ギネスブックが記録したのは、湾口防波堤のあきれるばかりの巨大さの記録であって、大津波に対する防御能力が世界一だと云ったわけではない。
 
津波の専門家や、湾口防波堤の事業に携わった人々が云う、『湾口防波堤がなかったらもっと被害は大きかった』と言う理屈は、
釜石市で財産をすべて失い、命からがら逃げた多くの人々、死者500人近く、行方不明者を含めて1000人。
都市部が全滅した釜石市の人々の前で言える言葉だろうか?
 
実は、この問題は、痛烈なダム被害にあった人々が、川辺川や荒瀬ダムのように、ダム反対に走ることへの妨害工作のための忍者活動なのである。お役人と建設業界、政治やたちへの批判を抑え込むため「猫じゃらし」を差し出す。それが〔高水論争〕である。
ダムをつくるにあたって、ダム事業を推進する建設業界、鉄セメント業界、下請け的な役人たち、政治資金が欲しい政治やたちが理屈を言い始める。 「これだけの規模の洪水が過去にあったから、その洪水をカットするために、これだけの規模のダムを造る」 すると、八ッ場ダム裁判リーダーの〔高水論争好き〕の連中など、空理空論好きの反対運動やが噛みつく。
 
「その数字は過大である。この数字が正しい」などと。ダムによる各地の被害は『百年持つ』と云っていた湾口防波堤が〔二年〕しか持たなかったのと同じ現象に満ち溢れている。運動が被害の現実からは離れ空理空論に陥った瞬間に運動は泥沼への道を走り始める。
『こんな被害が出ているのだから、あなた方の言う数字は間違っている』 すると事業屋が云う。
「被害は出たが、ダムがなかったら、もっと被害は大きかった」。そして「ダムがあった場合となかった場合の比較を検証しよう」などと云うダム推進派である委員を招集し、公平公正をうたった有識者会議や検証委員会等々が仰々しく組織される。
 
彼らが必ずいいだすことは「ダムがある場合とない場合の比較検証」である。そしてダムだけが被害から身を守る道だという結論を導き出す。
だが、後述するが、ダムや湾口防波堤がある場合とない場合の比較検証などはできるわけがない。検証できない以上は、現実とは関係がない空理空論になることは請け負いである。現実とは関係ない論議だから、『理屈と膏薬はどこにでもくっつく』というたとえ話の通り、後は果てしない屁理屈の空中戦になる。
 
八ッ場ダム反対運動における高水論争によって議論好きの反対運動のリーダーの裁判指導によって連戦連敗が続いている理由と根源はそこにある。屁理屈の言い合いをしている間に地球が動きだして大災害と云う現実を示してくれる。地球の毅然とした態度、地震と津波という現実によって一挙に屁理屈の言い合いは吹き飛んでしまう。
 
 
 
 

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