高杉晋吾レポート⑤ギネスブック世界一認証の釜石湾口防波堤、津波に壊滅ー巨大構築物建設の危険性!④
2011年3月25日
ギネスブック世界一認証の釜石湾口防波堤、津波に役立たず無残な被害<仮説河川・海に巨大構築物建設の危険性を問う>④
[地球が実証した非科性、国の「チリ津波実験」
高杉晋吾(フリージャナリスト)
さて今回は、ダムに起因する地震について述べる。その前に前回までに触れておきたかったことについて少しい足りなかったことを述べておきたい。
私は前回の報告で「湾口防波堤がある場合」と『なかった場合』の被害比較を実証実験などは「できるはずがない無理難題だ」と書いた。ところがこのシミュレーションを国交省は実際に2010年に起きたチリ津波で行っているのである。
指摘しておきたい問題は、国交省は、湾口防波堤があった場合となかった場合の津浪防御の湾口防波堤の有効性について、『仙台空港技術調査事務所』による「2010年チリ地震による湾口防波堤の防護効果について」という論文などで極めて真剣で詳細なシミュレーションを発表しているからである。
この調査結果は2010年4月16日に記者発表し,そのシミュレーションに基づいて、様々に語られ論述されている。つまり私が述べた「できるはずがない『湾口防波堤があった場合となかった場合の被害比較』を国交省がやっていた」のである。
しかし、私は、こんな論文があるからと云って「そんなシミュレーションはできるはずがない無理難題の提起だ」という私の言い分を撤回するつもりはない。
この論文などに対する反証は素人の出る幕ではない。本格的な実証は専門家に任せるが、私はどこまでも素人の立場で一般的に次のように述べて置く。
「この仙台空港技術調査事務所によるシミュレーションは、『湾口防波堤があった場合』の論証ではチリ津浪の現実があった場合を土台にしている。しかし『湾口防波堤がなかった場合』という提起は架空の前提によるシミュレーションである。このシミュレーションは科学的に厳密な実証と言えるだろうか?
この実証実験の結果を仙台空港技術調査事務所は『湾口防波堤の整備により、構内の静穏度の向上を保ち、津波発生時の浸水被害に発生する流れを抑制する効果があった』とまとめている。しかし東北関東大震災の現実はこのまとめを粉砕してしまった。
この論文が科学的であるためには、この実証実験結果が何度やっても同じ結果が繰り返される法則性を持っている必要がある。
このシミュレーションは科学的であったのだろうか? もはや言うまでもない。真摯な防災対策への努力であるのに残念であるが、この研究は科学的であったとはいえない。今回の東北関東大震災は、このシミュレーションが二度と同じ結果を現さないこと、つまり願望ではあっても科学的ではなかったことをこっぱみじんに証明してしまったのである。
続発するダム起因の大災害
史上最悪の事故は一八八九年、アメリカのペンシルバニア州に起きたサウスフォークダム事故で、ジョンズタウンを全滅させ、2200人以上の死者を出した。
フランスのマルバッセル・ダムがダム堤体とそれを支える基礎岩盤ごと崩壊した。
一九七五年に完成したばかりのアメリカ西部アイダホ州のテイ―トンダムから、約3000億トンの水が一気に流れ出し3メートルのダム津波がレックスバーグ方面に押し寄せ、4万平米の肥沃な土壌を洗い流し、11人の死者、数千戸の家屋を破壊、一万三千頭の家畜を溺死させた。
このダムには建設反対運動が続き、その反対運動の指導者であるラッセル・ブラウン氏によれば「一九六一年アイダホには深刻な干ばつに見舞われ、続いて一九六二年には史上まれな大洪水が襲った。
その機会に政治家たちのダム必要論と反対運動が展開され一九六二年に議会公聴会が開催され、一九六四年には主だった環境団体の反対を押し切って、州開拓局はテイ―トンダム建設を認可した。
ここで注目すべきは、テイ―トンダムで問題になったのは「岩盤の安定性」だけではなく、『水分の土壌透過性』だということである。こうした様々な被害の要件は八ッ場ダムの災害要件と同じである。
八ッ場ダム「二〇〇三年ダムサイト地質解析業務報告書」をみるとダムサイトは『地表付近では斜面と平行な割れ目が多いが、深部では比較的低角度の割れ目が多い』。「ダムサイトの開口割れ目は、長期間の吾妻川の浸食に伴い、長期間かけて上載荷重除荷による生じた」と「高透水帯・地下水位の検討」という項目に記述している。
一九六三年のイタリーのバイオントダム地すべり事故は実に2000人の死者を出した。だから品木ダムの中和生成物が奔流となって関東に流れてゆくという光景は決して妄想ではない。浅間は噴火を続けているし、吾妻川対岸の白根火山の活動は現在でも非常に活発なのである。
一九六三年(昭和三八年)にコイナダムが建設されたデカン高原は、六五百万年前頃、ちょうど恐竜が絶滅したころに噴出した溶岩で熱く覆われており、もともと地震は少ない地域である。
貯水はダム完成の前年(一九六二年=昭和三七年)から始まった。繰り返し地震が起きるようになり一九六七年(昭和四二年)九月一三日には、マグニチュウド6.5の地震が発生した。コイナナガル町では大半の家が壊れ、死者180人に及んだ。この地震でダム本体に亀裂が生じた。
ダムに起因する大地震の実例
フーバーダム。
(アメリカ・ネバダ・アリゾナ州),一九三五年着工、周辺ではそれまでの35年間、有感地震はなかったが、三六年に21回、三七年には116回と激増し、以後数年間も数十回ないしは数百回の地震が起こった。
ヌレックダム
(ソビエト連邦=タジク共和国)高さ315メートルに及ぶ巨大ダム。一九七一年に水位が60mに達したところで、付近の地震が活発化。さらに100メートルを超えるとM4,6の地震が発生。
カリバダム(ローデシア=現ジンバブエ)
一九五八年より貯水を始めた高さ105メートルのダム。61年に初めて地震が起こり始め、62年にはm5,1―m6.1 の地震が立て続けに発生した。
新豊江ダム(中国広東省)。
一九六九年(昭和四四年)に貯水を開始した高さ105メートルのダム。すぐに地震が起こり始め、六二年にはM6.1の地震が発生。その後も地震はつづき、10年間で25万回も地震を記録した。
一九六三年、黒部川ダムの人造湖が完成してから周辺でM4.5の地震が発生、その後微小地震が連続発生、水位が上がれば地震発生することが明らかになった。
これらのダムと地震との関係については拙著「谷間の虚構、八ッ場ダム」(三五館)に
詳細に記述しているので参照していただきたい。
河川、海中に巨大構築物を作るのは、滅びの原因となる
その他誘発実験ではダムが地下水圧を変え地震を誘発することは証明された。
しかし、以上に紹介した事例の中に海底の地盤構造や、海中に構築された巨大構造物による地震や津波の実例は紹介されていない。だが自然と巨大構築物の関係からの類推で、海中の巨大構築物が地盤に与える影響は仮説として成り立つだろう。
地球の地盤構造は巨大ではあるが、巨大なプレートとプレートはぎりぎりの押し合いの力関係で成り立っているから、その成立基盤は、至って微妙で繊細なものでもある。そのような微妙な自然の中で巨大構築物を海中に作ったらどうなるだろうか?
繰り返しになるが釜石港湾事務所の説明では
『ケーソンは、16,000トン(ジャンボジェット機約44機分と同じ重さ)、高さ30メートルの超大型で、一つ造るのに要する時間は、約16カ月間。働く人員は延べ7,400人になる。このケーソンの基礎石の石の使用量は、700万立方メートルで、11トンダンプで約100万台分、東京ドーム約7つ分にあたる』とある。
ダムが地震を誘発するように海中で地震が発生し、津波が発生する。そういう仮説に基づく研究を学者たちは手掛けるべきではないだろうか?
此処で私が提起している問題は、『超巨大ダムに下流の住民が税金を払うのはもったいない』などと云う下流都市論理の主張ではない。下流の問題は副次的な問題なのである。
産業革命以来の超巨大システム、超巨大構築物によって、自然を克服したかのように錯覚している人間の超巨大哲学が終わったと云っているのである。そのような思考方法の大転換の問題でないと、『湾口防波堤が壊れたから、もっと巨大な防波堤を作ろうとか、さらに沖合に二重三重の防波堤を作ろうという話になりかねない。
私はそういう話になることを許すわけにはいかない。此処でまたまた、妙なたとえ話を持ち出そう。
津波をスキージャンプの選手やモーグルの選手に例えていうならばこの湾口防波堤の巨大化、あるいは複雑化を大喜びするだろう。なにしろ大型ジャンプ台を作ってくれるというのだから:飛距離が飛躍的に伸びるぞ!と張り切る。モーグルの選手ならば、コースが複雑になって技の見せどころがと増えるぞ、と。
さぞや「巨大構築物を作りたい」鉄やセメント、ゼネコン業界と其の下請システムである官界、政界から大きな抵抗が、この超巨大構造物の建設についての批判の文章に対しては批判が起きるだろうが、私としては大歓迎である。大いに批判していただきたい。
もっとも、「仮説」の提起くらいはお許しいただけるだろうが。
(おわり)
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