日韓和解のための歴史コミュニケーション②最初の日韓衝突・パーセプション(認識)ギャップはこうして起きた②
2015/01/01
日韓和解のための歴史相互コミュニケーション②
最初の日韓衝突・壬午事変はなぜ起きたのか②
前坂 俊之(ジャーナリスト)
明治維新当時の世界の国際秩序「万国公法(国際法)秩序」は、西欧列強による地球規模での植民地の獲得競争だった。
アジア、アフリカなどの有色人種の国はいずれも西欧列強の植民地、属国、勢力下に圧迫されていた。
植民地にされる危機感をもった日本はいち早く鎖国から開国し、文明開化、殖産振興によりこの国際秩序に仲間入りした。
だが、朝鮮とその宗主国・中華帝国は西欧とは異なる独自の「冊封朝貢秩序」を古来から維持していた。天下の中心は中華であり、周辺国は中華の徳を慕って朝貢する。中華との距離によって遠く離れたベトナム、日本などを夷狄(いてき一野蛮人)と蔑んでいた。
朝鮮国王・李太王の実父で実権を握る大院君は中華思想により日本を蔑視、日本が鎖国を解いたのは中華秩序への挑戦とみなした。
「朝鮮史」(大久保天随著、明治38年刊、博文館)によると、以下が日韓コミュニケーションの最初の衝突の経過である。
明治新政府の成立したあとの明治元年(1868)11月、日本は朝鮮に修好を求めて対馬藩主の宗重正を派遣して,政体の変更、天皇の即位を告げる国書を出したが、その書中に「大日本天皇詔勅」などの文字があるのに朝鮮側は驚いた。
「幕府時代の旧例とは相違する」「皇は中国皇帝にしか使われず、天皇が朝鮮国王の上に立つことを意味する」と大院君は強く反発、使節と国書を拒否した。
翌2年2月、5月、10月に再度面会と国書を提出したが、いずれも拒絶、4年3月、宗重正が交渉談判に行くが、両国官吏の接見する礼館を閉鎖して、日本との絶交の態度を示した。
5年8月に明治政府は「廃藩置県」の結果として、対馬藩がなくなったため、外務大丞花房義貞をつかわし、対馬の宗氏を廃免したこと告げて。外交官を釜山の草梁館に駐留させた。
ところが、朝鮮側の外務関係者は日本人を卑しんで草梁館の門に次のような張り紙を出した。「日本は欧米の文化を輸入し、欧米の制度を受けて、昔の形を変えて、恥じようとしない。近頃、草梁館にくるものはその形貌、衣服は日本人ではない。
一朝、簡単に制度をかえて、天下の笑いものになるのも、てんとして恥じない。われわれは堂々たる礼儀の国として、彼らのために警告する」と。
同じ年に,清国宮廷から「日本は征韓を企図している」ので海防を厳重にして日本人遠ざけるようとの指示があり、鎖国にこり固まっの大院君はこれを受けて、日本の要求を一切拒絶し、日本官吏をおどし、草梁館の襲撃をにおわせるまでに対立はエスカレートした。
当時の朝鮮の様子について「横浜ヘラルド新聞」(明治5年3月2目)
『朝鮮の排日』はこう書いている。
朝鮮人はその国に居留せる日本人に無理非道なる取扱ひをなし、通詞(通訳)の外は絶て交接することを許さず、たまたま日本の商人と話しせし女ありければ、忽ち捕へて入牢せしむ、朝鮮人の日本人を悪(にく)むこと甚しく、かく無礼なる処置あるは、日本敵対せんとする志あるか、
もし両国兵争にいたちはその勝負果して如何ぞやとあり、按ずるに朝鮮国は古より港を鎖して、海外諸国と交りを結び商を通ぜず、自ら足れりとして、頑固の風、更に改まらず、偶々外国人のその国に到ることあれは、之を愛することを知らず、或は之を殺害することあるに到り、既に仏国の教師を殺し、問罪の軍艦を引受けるに至り、罪を知り非を悔ひず、開化に進む人民を忌み嫌ひ、如何なる国となるべきや、飽くまで暗昧頑愚にして自ら衰凶に陥るを知らざるか。」
こうした対立から、日本で征韓論が噴出する。両国ともエスノセントリズム(自民族・自文化中心主義) から、相手国が無礼な態度をとったと敵意を増幅させたのである。
この時期、タイミングが悪いことに、朝鮮では鎖国、攘夷の風が吹き荒れており、大院君は西欧列強のフランス、米国を侵攻を退けたと過信して、得意絶頂の時期だったのである。
明治維新の2年前の1866年(慶応元年―2年)2月、フランス人神父9人と、カトリック信者8000人を捕えて大虐殺した。(丙寅教獄)10月16日には江華島へ侵攻したフランス艦隊を撃退した「丙寅洋擾」
1866年7月、アメリカから通商を求めて大同江を遡上してきた米商船ジェネラル・シャーマン号事件、朝鮮側の奇襲により沈められ船員全員20人が虐殺された。米国は、1871年に謝罪と通商を求めて米アジア艦隊での朝鮮に派遣、江華を攻撃、朝鮮軍は240人以上が戦死した。『辛末洋擾』
米側は江華島を占領したが、大院君は要求に応えず、持久戦に持ち込んで、撤退させた。
この結果、1868年4月、大院君は西洋人を野蛮人として、各地に「欧米列強が侵犯しているのに戦わずして和親するのは売国だ」との内容の「斥和碑」を建てて鎖国・攘夷政策を誇示していた。
あまりにもタイミングが悪すぎて、日韓対立は一層エスカレートしていくが、その根には
日本へは秀吉の文禄・慶長の役(朝鮮では壬辰倭乱、丁酉倭乱、1592~98年)以来の積年の恨みもあった。
明治7年(1874)5月、見くびっていた日本が台湾出兵によって勝利した
のに驚いた朝鮮政府は8月、明治元年に日本側が出した国書「日韓は各々完全なる独立国として平等に交際する」を検討したいと
回答してきた。
このため明治8年2月、明治政府は外務参事官2人を京城に派遣したが、またもや参内を許さず、その洋服姿を拒否したので、書面を侍従に投げつけて帰国した。再三の拒絶に日本側は沿岸測量を名目に軍艦雲揚を派遣して挑発した。明治8年(1875)9月20日、雲揚が江華湾内の領海内で砲台から砲撃を受けたため、これに応戦して砲台を破壊し占領した。ペリー黒船の砲艦外交を見習って、その通り実行したのである。
この砲撃の責任を追及して票田清隆全権が軍艦2隻とともに朝鮮に乗り込んで翌年2月、日朝修好条規(江華条約)を締結した。日本では初めての外交条約で、第一条には朝鮮を独立国とみなす明文をもうけて清国との宗属関係を否定した。
つづく
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