日本リーダーパワー史(301)今、ジャーナリストは戦時下の認識を持ち>原発報道と日中韓歴史認識と『国際連盟脱退』を比較する⑧
連盟報告書の誤謬を正すためとして政府は11月18日、意見書を国際連盟事務総長あてに提出した。満州国を承認し、その育成を計ることこそ紛争を解決し、極東並に世界の平和を招来すべき最善の策であると強調した。 リットン報告書の出された翌日の各社は一斉に国連を非難し、激しく罵倒した。冷静、客観的であるべき社説にはヒステリックで挑戦的な見出しが並んだ。
『東京日日』も普段の二倍の2段見出しで「誇大妄想も甚し」というセンセーショナルな社説を掲載した。今、歴史のなかで眺めてみると、どちらが、「誇大妄想」であり「錯覚」「曲弁」「認識不足」があったか、考えさせられる。
「報告書は満州国をもって日本の作り上げたものだと断じているが、それは実に憶断も甚だしいものである。……かくの如く提言と称するものの2,3挙げてみても、調査委員がユートピアを夢みているのではなく、身心羽化して既にユートピアの中にいるとしか思えない。吾等はこの結論を読みて、来るべきジュネーブ会議に日本が十分の用意と断乎たる決意をもって臨むべきと教えられたといって差支えないと思う。吾等は政府が理として争うべきはあくまで争い、しかして後、徐々に我国の最後の態度を決すべきことを主張する」
三日は「容認し能はざる点多く解決提案は断じて不可」と題して「事変勃発当時の我軍の行動を自衛手段と認むるを得ずとなし、また満州国新国家の発生を自発的運動の結果とみず、日本の文武官憲の行動によるものの如く断ぜるは、許すべからざるところである。……我国としては調査報告の如何にかかわらず、断乎として既定の方針をもって邁進し、連盟をして、我が正しき主張と現存の事実を承認せしむるにあるのみである」と述べた。
先に紹介した『新聞及新聞記者』(1932年11月号)の「軍部は言論界に斯く希望す」という特集のなかで、新聞記者が書いたと思われる江川楓亭の「軍部の新聞操縦-ペンは剣よりも鋭し」という文章がある。 江川は当時の新聞人の情けない態度を嘆いて、こう書いている。
3・・毎日は脱退論を強硬に支持、朝日は慎重
『朝日』は止めようにも止まらない全体の流れの中で、連盟脱退には慎重であった。ただ、その態度もしばらくして変わってしまう。一方、『毎日』は軍部と一体となって連盟脱退論を打ち上げて世論づくりに貢献した。まず『朝日』をみると、国際連盟脱退論が大きくなってきた段階で、軽々しく脱退論をはくことを戒めている。
連盟は規約第一条第三項で「連盟国は2年の予告を以て連盟を脱退することを得、但し脱退の時までにその一切の国際上及び本規約上の義務は履行せられたることを要す」と規定している。
「日本の根本最高の政策たる満州国正式承認の歴然たる大事実を無視し、幾度びとなく中外に宣言して来たわが本質的主張の主旨を全然顧みないで、日本の態度を故意に正反対に解し、その諒解の逃避を質問し来るがごとき非礼を敢てするに至った。(中略)連盟自らかく日本の誠意を容れず進んで和協手続を放棄せんとする以上、日本としては最早交渉の余地なきもの……よろしく我が全権は速かに引揚げて然るべきである。
再び、極東の事態は9・18事変以前以上の混沌に逆転し、延いてはいかなる世界的先機を発生せんも、測りがたき状態となっても、それはわが日本の関り知るところではない。こうなっては、日本はただ静かにジュネーブの交渉舞台から退場し、国民は絶大の困難に対する覚悟と決心とをもって、ゆきつくところまでゆきつくの外はないのである」
「今回は世界中の大小国悉くが日本の味方ではなく、日本は文字通り孤立状態に陥るのおそれがある。日本が今日の如き国際的危機に直面せるは開闢以来ないのである。吾人はかくの如き危機が避け得られんことを衷心切望し、またそれを未然に解消すべく努力しなければならないが、若し万一不幸にしてそれを避け得られなかったならどうする。わが国民はこれを回避する最善の努力をすべく政府者を鞭達すると同時に、他面また最悪の場合につきても考究を怠らず、これに処するの方途を十分に講じて置かねばならぬ」
「連盟はすっかり調子にのった。強きを扶ける白人の心理として、当然の出方であり、かくて日米の正面衝突は不可避の事態と醸され来る。居ながらにして、満州国の不承認を黙諾しうる日本ではあるまいし、脱退か否か代表部の凝議、納まるところは論理明白である」
即ち、連盟がリットン卿一行の調査団を送り、日本圧迫の報告材料を漁りつつある最中において、東日は『連盟を脱退すべし』との長論文を二十回にわたり執筆せしめ、脱退論に関する全面的検討を行い、国民をしてよるところを知らしめた。これと平行して社説において、堂々と連盟脱退論を公にした。
「連盟の挑戦に答うるのみ」(二月二十二日)では「報告書がいかに不正義不条理にして、わが国の立場を無視せるのみならず、わが国の国家的生存を終熄せしめんとする不隠暴戻のものであるかを断ずることが出来る。即ち十九人委員会は直截鮮明にわが国に挑戦し来れるものであって、わが国はやむなくその挑戦に応ずるに至ったまでである」「不当報告書の採択」(二月二十六日)でも再び「光栄ある孤立と自主独往」の覚悟を国民に求めた。
1937(昭和十二)年12月、人民戦線事件で検挙された大森義太郎(経済学者)は満州事変以来の新聞の果たした役割、特にリットン報告書、国際連盟脱退までの経過について1933(昭和八)年1月号『中央公論』の「新聞時評」で、センセーショナルに排外熱をあおり、事実を曲げて報道したとして、特に『東京日日』【現・毎日】をやり玉にあげて批判した。
25日の『東日』社説「光栄ある自主独往」では連盟脱退は〝孤立無援″ではなく「光栄ある自主独往」と断じ「もとより前途は多難であろう。
わが国民はよろしく軽挙を戒め、不撓不屈の精神を発揮して、敢然その運命に直面し、光栄ある自主独往を完成に導かねばならぬ」と主張した。
「張作霖爆殺事件の真相」
http://maesaka-toshiyuki.com/top/detail/1470
関連記事
-
『5年前の記事を再録して、時代のスピード変化と分析ミスをチェックする』-『2018年「日本の死」を避ける道はあるのか⑤』★『アベノミクスで政権100日は成功、この難題山積のナロウパス (細いつり橋)を素早く突破しなければ、日本の明日は開けない』★『スピード突破できずTimeout、釣り橋から落下の運命が迫りくる?』
★『2018年「日本の死」を避ける道はあるのか ー―日本興亡150年史』⑤― < …
-
日本リーダーパワー史(538)「FOREIGN AFFAIRS REPORT」(2015年1月号)からの『ゾンビ日本」への警告
[amazonjs asin=”4622078767″ …
-
日本メルトダウン脱出法(886)『世界中の中央銀行は「巨大」になりすぎている 、独善的になって暴走すると金融危機の再来も』●『国民への「バラマキ」をフェアかつ有効に行う方法はあるか?』●『「日本流おもてなし」は外国人観光客に本当に好評か』●『中国バブル崩壊は「必ず起こる」中国の著名大学教授が主張』●『企業経営:「弱小レスター」優勝の教訓 (英エコノミスト誌)』
日本メルトダウン脱出法(887) 世界中の中央銀行は「巨大」になりすぎている …
-
「知的巨人の百歳学」(145)―『世界史を変えた「真珠王.御木本幸(97歳)の長寿健康法」★『「ないないづくし」の三重県の田舎の海で、日本初代ベンチャービジネス王に輝いた御木本の独創力をエジソンも大絶賛。ノーベル賞級の大発明!』★『ミキモトパールの発明が20世紀・中東の「石油の世紀」きっかけとなった』
世界史を変えた「真珠王.御木本幸(97歳)の長寿健康法」 &nbs …
-
速報(91)『日本のメルトダウン』ー脱原発に動き出した世界、何をしてよいかわからず『座して死を待つ』状態の日本
速報(91)『日本のメルトダウン』 脱原発に動き出した世界、何をしてよいかわから …
-
『日本敗戦史』㊱『近代最大の知識人・徳富蘇峰の語る『なぜ日本は敗れたのか➁』「リーダーシップ・長期戦略の欠如」
『ガラパゴス国家・日本敗戦史』㊱ 『来年は太平洋戦争敗戦から70年目―『 …
-
高杉晋吾レポート⑬「脱原発」「脱ダム」時代の官僚像ー 元国交省エリート、宮本博司がダム反対に変ったのは?(下)
高杉晋吾レポート⑬ ダム推進バリバリの元国交省エリー …
-
日本リーダーパワー史(491)自由民主党のルーツ<幻の名著『『閥族罪悪史』<細井肇著、大正8年刊>を一挙公開
日本リーダーパワー史(491) …
-
現代史の復習問題/「延々と続く日韓衝突のルーツを訪ねる⑥ー日清戦争敗北後の中国紙『申報』1895(明治28)年2月21日付『『日本が中国と講和すべきを建議す』
2011年3月15日の記事再録中国紙『申報』が報道する『日・中・韓』戦争史 &n …
-
日本メルトダウン(995)ー『1930年代化する世界にファシズムは再来するか(池田信夫)「アメリカの平和」が終わり、日本が自立するとき』●『ジョセフ・スティグリッツ氏が語る「ドナルド・トランプが非常に危険な理由」●『不動産帝国の実態:ドナルド・トランプの利益相反 (英エコノミスト誌 2016年11月26日号)』●『新国防長官候補、マティス氏は本当に「狂犬」なのか 次期政権の人事案に秘められたトランプ氏の深謀遠慮』●『ソ連崩壊と同じ道を再び歩み始めたロシア ロシアとの安易な提携は禁物、経済制裁の維持強化を』●『「韓国に謝れ」産経に圧力をかけていた日本の政治家(古森義久)ー内なる敵がいた産経ソウル支局長起訴事件』
日本メルトダウン(995) 1930年代化する世界にファシズムは再来するか(池 …