前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

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ニューヨーク・タイムズで読む日本近現代史 ②明治維新にアメリカ人が見た中国、インド、日本人のカルチャーショックを比較する

   

<『ニューヨーク・タイムズ』で読む日本近現代史
の方がよくわかる
 
明治維新にアメリカ人が見た中国、インド
人、日本人のカルチャーショックを比較するー
―日本人の異文化受容の柔軟性と進歩性―
『ニューヨーク・タイムズ』
1869(明治2)年122
 
                  前坂 俊之(ジャーナリスト)
 
   明治維新と現在を比べると、TPP、FTAなどでいかに日本が遅れて、『内閉化』しており-鎖国状態に逆戻りしているかこれを読むとよくわかる。
   中国人は孝心を表す義務として祖先の箸を使う習慣を固く守り、たとえ「野蛮人」に権力を奪われても,中国人こそ文化の手本だと主張している。
   日本では,完全な意味での現代文明への急激な進歩が見られるが,それは驚嘆と称賛に値する。日本を隣国の中国と比較すると,この進歩の点では,両国間の相違は驚くほど大きい。
④ 140年のペルーのマリア・ルース号事件で司法当局みせた人権擁護、奴隷解放の博愛精神は高く評価される。
 
 
           
  『ニューヨーク・タイムズ』<1869(明治2)122日>
日本の風景―ニューヨーク号による長崎への航海一ヨーロッパ風の
作法をまねる日本人-本社特派員記事・長崎1869年9月14日
 
大君(将軍)に代わり,天皇(ミカド)の都となって以来,江戸の町は新しい魅力に満ちている。しかし、10年前に私は既に今回以上に徹底した江戸の探訪をしたので,貴族とその家臣たちが住む美しい屋敷町や木陰に隠れた近づきがたい寺院,漆で映える商店街,大名行列で輝く各通りの光景をもう1度見る代わりに,今回はニューヨーク号に乗船して内海経由で長崎への航海を楽しむことにした。
 
 
山並みと火山
守護神としてあがめられ、日本帝国の誇りとしてたたえられる富士山が-岬を回って南へ進むニューヨーク号を眼下に見下ろしていた。先端を切り取られた円錐のような頂上は,長い歳月をおいて突然恐ろしい活動をする噴火口を示しているが、そこを除くと完全な円錐形であるこの気高い山(富士山)は平地から1万2000フィートの高さでそそり立っている。
 
真夏でも亀裂の入った斜面には筋のように雪が残っており、もし頂上が人間の頭だとすれば,それはキラキラ輝く王冠を載せているとたとえることができよう。富士山は100マイル離れても望見できる水路標識としてそそり立っており,日本人はこの山の姿を装飾品のデザインに愛用することにより,愛国心と同時に趣味のよさを表しているのである。
 
小さな火山の大島は,いわゆるアイルランド語の用法で「ゆるやかな」活動を絶え間なく続けており,下田港を通過する際に左側にその姿が見られた。
その断続的な噴火を見て,われわれはしばらく前にこの下田の町をあやうく壊滅させかかった地震を思い出した。そのときロシアのフリゲート鑑が停泊地で難破したし,巨大な震動によって起きた大波は,広大な太平洋全体にまたがって打ち寄せたものだ。日本には現在活動している火山の源はおよそ10あると言われており,日本人はそれらを指して仏教の「10の地獄」と言っている。
 
このように日本では大揺れが突然起こるため、私の友人は日本滞在中に体験する地震の数を数えようと試み,2,3日の間に起こった地震を36回まで数えたが,とうとうそこで数えるのをあきらめてしまった。彼には地面が「大地」としての性質を失ったかのように思われ,足下で地面が波打ち震動するため、興奮した彼の頭の中で・それはまるで溶岩の湖の表面に漂う緑色の浮きくずのように思えたのだ。
 
ヨーロッパ風作法をいち早く導入した進歩的な日本人
 
日本人の間で見られるヨーロッパ風作法われわれが乗船した大型の汽船には大勢の日本人が乗っていた。前回報告した議会が散会した,あるいは解散したために,諸侯たちは家臣を引き連れて南国の各領地へ戻る途中であった。帯刀を許されている者たちは一等船室を要求しそこにおさまった。
 
 家へ帰ると決してテーブルで食事をとることのない彼らが,いすに腰をかけ,ナイフとフォークを使って、アメリカ式の正式の晩餐をまじめくさってとっている姿を見るのは楽しいものである。彼らは実際別の離れた食卓についていたが,食事のメニューはどの皿も「外国人」たちと同じものであった。
 
この場合彼らは招待された客として外国の食事をがまんしているわけではなく,日本よりすぐれているとみなしているわれわれの習慣を進んでまねして、支払っただけのものを得ようとしているにすぎない。
 
ヒンズー教徒は,脂を塗った薬きょうの端をかみ切るよう要求されると,とたんにおおっぴらに反抗するし、もし通りかかった白人の影が飯の皿にかかったりすると、その飯をさっと投げ捨てたりする。
 
また中国人は孝心を表す義務として祖先の箸を使う習慣を固く守り、たとえ「野蛮人」に権力を奪われても,中国人こそ文化の手本だと主張している。
 
しかし・日本人とわれわれ外国人との間には,両者を隔てるカースト制度や厳格な習慣などは存在しない。日本人はわれわれと同じ食事をするように、間もなくわれわれのように考え、われわれのように感じることを覚えるであろう。大名たちの食卓を観察していると、こうした内面的変化の兆候が感じられた。
 
船客の1人である日本人高官はすっかりヨーロッパ風の服装をしている。他の日本人は外国製のコートやズボンを身につけているにすぎない。
一方,多くの場合・彼らがヨーロッパ風スタイルに順応しようとしている姿を見せるのは,ただ帽子とか長靴,短靴などの着用によってだけである。長崎では(先取りして言うなら)軍隊が外国式の訓練を受け,外国式の制服を着ている。これらはささいな例にすぎないが、それでも日本の動向の方角を示す点では意味深い。特に諸
侯の1人が新約聖書を受け取り謝辞を述べた事実は,ささいなことではない。なぜなら,2,3年前ならこのような行為は日本人にとって死を意味したからである。
 
 
 
ニューヨーク・タイムズ』<1872(明治5)年11月11日
日本の進歩―中国と比較すると,貿易、西欧文明の
吸収では驚くほど違うー今はどうか?

日本では,完全な意味での現代文明への急激な進歩が見られるが,それは驚嘆と称賛に値する。日本を隣国の中国と比較すると,この進歩の点では,両国間の相違は驚くほど大きい。
 

おそらく共通の祖先を持ち,顔つきや趣味や生活習慣が大変似ている隣同士のこの2つの国が,白色人種と接触するようになってから,彼らのやり方をとり入れる巧みな能力においてこんなに相違があるとは理解に苦しむ。
 
中国を説得して,ほどはどの貿易上の譲歩をさせ,現在中国の支配者が認めている諸外国との交際をさせるのには,何年もの期間と多くの激しい戦闘が必要だった。ところが日本はこれらの点でも隣国とはかけ離れてぬきんでており,15年足らずで,中国が何世紀もキリスト教国と交際しながら獲得できなかった地位と文明開化をかちとったのである。

 横浜にある日本の裁判所での1つの訴訟問題は,この文明への進歩を実証する好例である。裁判所の訴訟は苦しんでいる中国人のために行われたもので,
 
野蛮で脅迫的な苦力(ク―リ―)輸送に一撃を加えたものとして注目と喝采に値するものである。係争中の事件を専門的見地から見て理非をっけると意見が分かれるのはいたしかたないが,日本人官僚の示した精神と意図は大変公正で人道にかなったもので,最近その他の好ましい証言からも分かるようにこの事件は,新鮮で喜ばしい進歩の証拠を示している。
 
ペルーのマリア・ルース号事件
 
回の事件で,日本はペルーと,さらにおそらくはポルトガルとの紛争に巻き込まれる可能性が強い。しかし,日本が,文明国のキリスト教国民に対して高度の博愛主義を弁護するという奇妙な態度をとったこの事件は,いかにポルトガルやペルーの評判を落とそうと,道徳的立場から日本にとって悔やむところは全くない。この事件の概要は次の通りである。

ペルーのパーク船マリア・ルース号はマカオを出発してペルーに向かう途中,天候悪化のため横浜に入港した。
 

船荷は生き物,苦力(ク-リー)たちだった。船が停泊中に,数人の苦力が船から海に飛び込み海岸に泳ぎ着いた。船長は地方当局に逃亡者の引渡しを要求したところ,日本側は初めは要求に応ずる意向だったが,苦力の調査を詳しく行った結果,要求を拒否する
ことにした。結局.船長は残虐行為のかどで起訴され,有罪となった。そこで,船長は苦力たちがペルーでの雇用について,マカオで記入したと主張する契約書の内容の実行を求めて,逆に苦力たちを告訴した。

このいわゆる契約書なるものがポルトガルの司法管轄区内で苦力たちによって署名されていたため,横浜駐在のポルトガル領事は船長を強く支援した。
 弁護側は.その契約はおどされて署名させられたものであり,第1に,その契約が合法的なものであったとしても.苦力たちに対する船上の虐待行為(それは既に立証されていた)はその契約を無効にするもので.また,苦力たちの生命は,船に帰されることによって危険にさらされるおそれがあり,さらに,契約履行を強制するのは法廷の領域ではないこと,また,そのような契約は道徳に反するので履行されるべきでないこと,さらにそのような契約は中国の法律にもとるものであること,などを申し立てた。
 
この訴訟は双方ともイギリス人の弁護士たちが,日本人裁判官の前で弁論にあたった。船長のために弁論された点は次の通りである。その契約はポルトガルの管轄権内で,ポルトガルの法律に従って作
られたものであり,日本の裁判所はそれに口をはさむ権利はなく,船を脱走した船員たちの場合と同じく,日本政府は苦力たちをマリア・ルース号に戻す義務がある。

 裁判は数日かかったが,大江卓判事が判決をさらに2,3日延期したのち下した判決は,苦力たちに有利なものであった。裁判所は苦力たちに帰船を命ずることを拒否する一方で,彼らを特別な監督官の保護のもとに,安全に中国に送還することを命じた。そしてこのことは実行された。
 
ところで,ポルトガル領事はこの判決に対して正式な抗議を提出した。ペルー当局は日本政府に補償を要求するだろうと言われてい
る。もし日本がそれを拒否すれば,日本は,人道主義の推進を肯定する立場をとるわけで,文明開化の道を進む新しい出発からまだ日が浅いのに,2つの外国との紛争に巻き込まれるという奇妙な立場に立っことになろう。

 一部のイギリスの権威筋が論争しているように,大江卓が下した判決は法律技術的に見れば誤っていたかもしれない。しかしキリスト教世界は奴隷貿易まがいの悪しき交易を望みはしないし,それがあらゆる点で,法律上のへりくつで守られることを望まない。
 
また大江卓のような裁判官,あるいは彼が名を高めた国民を糾弾するために,法律上のへりくつが使われるのを見たいとは思わないことも確かだ。アメリカはすべての国民が平和に仲よく共存すること
を望んでおり,ポルトガルやペルーに対しても友好的感情以外のものはいだいていない。
しかしわれわれは,マリア・ルース号事件から深刻な紛糾が生ずるような場合,日本に対して反感をいだくようなことはまずあるまい。われわれは,ここに名指しされたキリスト教両国が思慮分別と威厳を働かせて,彼らが逆行的にして野蛮な立場をとり,日本が進歩的にして文明的立場をとる紛争で,日本を深追いすることはないだろうと考える。
 

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