産業経理協会月例講演会ー2018年「日本の死」を避ける道は あるのか-日本興亡150年史を振り返る②
2015/01/01
2013年6月12日
2018年「日本の死」を避ける道は
あるのか–日本興亡150年史を振り返る–②
ジャーナリスト/静岡県立大学名誉教授/
前 坂 俊 之
日本衰退の根本にあるもの
こうして日本は敗戦に向かって突き進んだ結果、第2の敗戦を迎えることとなった日本は、その後1960年代の高度経済成長を経て、先進国の一角を占めるようになります。1980年代にはバブル経済の絶頂期を迎え、株価についても1989年12月29日の最高値3万9,800円まで一本調子で上昇して行きました。
『日経新聞』は言うまでもなく、『ダイヤモンド』あるいは『実業之日本』といった経済誌などにも「株価は10万円になる」といった楽観的、能天気な論調が踊っていました。その段階で、私なども一種の危惧を抱いていたのですが、案の定、1990年の正月大発会から暴落に次ぐ暴落で、結局、2008年にはピーク時の5分の1、すなわち8,000円台まで下がって行きました。こうして日本経済はバブルの清算に追われることとなり、その後の「失われた20年」を迎えることになります。
日本は戦後の廃虚の中から立ち上がって奇跡的な経済成長を遂げ、1963年にはすでにGDPで世界第2位になっています。廃虚のゼロからスタートし、18年間で世界第2位の経済大国にまで上り詰めたわけです。その後も高度経済成長を続け、2時にわたる石油危機にも耐え、1989年には一応個人のGDPベースでアメリカを凌ぐまでになりました。
もちろんそれはバブルの為せる技であったのですが、ニューヨークはもちろんアメリカ一国をも買うことができるといった驕った言説すら聞かれた程です。それが一転、バブルの崩壊によって奈落の底に落ちる破目となったわけです。
この背景にあるのはやはり、長期的な観点なり見通しなりの欠如、あるいは国家戦略の欠如であったと思います。国家繁栄のキーワードは、何といっても人口ボーナスがどの時点まで続くかであり、同時に技術力、教育力、また総合的なインテリジェンス能力の高さにあります。
前頁のグラフは国土交通省のホームページに掲載されているもので、過去1000年間の日本の人口動態を表示したものです。見られる通り、徳川時代は3,000万人前後で推移していたのですが、明治維新の段階では3,300万人となり、太平洋戦争敗戦の1945年には7,000万人前後に達しています。その後の経済成長は若年労働層の人口増によって築かれ、経済と同時に人口も一本調子に増加していることが分かります。
そして2004年12月に12,784万人でピークを迎えた後は、人口の減少と若年労働層も減少が同時進行することになります。こうして2030年には11,522万人、そして2050年には9,515万人といった具合に急激な減少に見舞われることが予測されており、これが日本の国力衰退の基本的な構図を示しています。こうなると経済成長も当然、鈍化せざるをえません。
しかも、人口が減少するという量的側面だけではなく、高齢者の構成比が高まるといった質的変化が同時に進行します。グラフは1990年から2060年に至る人口ピラミッドの変化を示したものですが、65歳以上の高齢者を支える若い人の厚みが狭まって行く様子が明らかです。1990年の段階では5人で1人の
老人を支えていたのですが、そう遠くない2025年には、1.8人
で1人を背負うことになります。そして2060年には1.2人で1人という状態になるのですから、これでは年金も高齢者の医療も賄えるはずがありません。
このような超高齢者社会の中で特に増えていくのは、前期高齢者ではなく、75歳以上の後期高齢者、85歳以上の末期高齢者(何という名称でしょうか!)で、寝たきりの状態になる方も増加するはずです。しかも、厚生労働省の研究班が最近発表したように、現状でも65歳以上の高齢者のうち、認知症と認められる人が462万人に達し、軽度認知障害(MCI)という予備軍が400万人に達しているのですから問題は深刻です。
このように日本は人口減少社会で悩んでいるのですが、その一方で、現在70億人を数える世界の人口
は、2050年には96億人に達します。この人口ボーナスの恩恵を受けるのはアジアであり、アジアの人口は52.84億人、世界全体の54%に達することになるようです。それに次ぐのは、10.51億人から倍増して23億人になるアフリカです。
ヨーロッパ、北米は概ね横這いとなる予測となっています。このような深刻な状態が予測されるにもかかわらず、日本の人口政策はいっこうに進展を見ず、移民を受け入れるかどうかという、肝心の論議が全く先送りされています
成長戦略において最も肝心な点は、この人口減少をいかに食い止めていくかという問題であるはずです。
特にいかにして高度な技能を持った労働層を増やしていくという課題を真剣に考えなければなりません。世界の投資家から見た場合、そのあたりの論議を先送りし、何ら具体的な進展が見られないことこそ、日本没落の主要要因と映っているのではないでしょうか。
しかも日本の財政状態も先行きは真っ暗です。というのも、1990年代から赤字国債、建設国債が増加の一途を辿っているからです。次頁のグラフに示されるように、まさに一本調子の増加であり、今やその残高は960兆円を突破している状況にあります。
これは度重なる景気浮揚対策がその後のGDPの推移、成長率の推移に見られる通り、ほとんど効果がなかったことを示しています。その結果、日本国家の債務はGDPの約230%となり、ギリシャの170%をはるかに超えた水準にあります。
世界の歴史でGDPの2.3倍の借金をした国はかつて存在したことがありません。そうした困った事態に陥っているわけです。
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