小倉志郎の原発レポート(3)「原発は事故を起さなくても危険きわまりない」(10/05)
2015/01/01
「原発は事故を起さなくても危険きわまりない」(10/05)
小倉志郎(元・原発技術者)
9 月27 日、東電は柏崎刈羽原発6号機と7号機の再稼動に向けた審査を原子力規制委員会へ申請した。
これで、申請中の原発は電力5社の14基になる。審査は去る7月に施行されたばかりの新しい規制基準によるが、同基準は体裁だけのもので、中身は審査の判定基準とは言えないしろものであることは、去る6月にこのブログへ投稿した拙文で指摘した。その最大の欠陥は、今後、各原発を襲う可能性のある地震の最大の大きさ(地震動)が示されていないことである。
にもかかわらず、マスメディアの報道を見るかぎり、審査は粛々と進んでいるかのようである。その審査をめぐって展開されている原発利用を続けようとする政府や電力会社と脱原発をめざす人々との間の問答の現状を見ていると、審査対象の原発が重大事故(炉心溶融事故)を起す可能性や、万一重大事故が起きた場合に原発から環境へ放出される放射能の量などが注目されている。
たとえば、前者については、津波対策として追設する高い防潮壁、仮設非常用電源の配置が本当に有効なのか。後者については、原子炉格納容器に追設されるフィルター付きベント装置で環境への放射能放出をどのくらい防げるのか。重大事故が起きた時に住民は安全に避難ができるのか。などなどである。
このようなやりとりを観ていると、重大事故さえ起きなければ原発はOKなのか、あるいは、重大事故が起きても放射能が漏れなければOKなのか、という錯覚に陥ってしまう。本当にこれでいいのだろうか。
昨年の9 月20 日に初版が発行された「原発をやめる100の理由-エコ電力で起業したドイツ・シェーナウ村と私たち-」(著者=「原発をやめる100の理由」日本版発行委員会)という本を私は丁度1年前の10月1日に読み終わった。そこにはさまざまな角度から見た原発の問題点がわかり易く書かれ、ドイツの人々が脱原発への道に着実に踏み出している経緯が描かれている。時間のある方にはこの本を一読されることをお奨めする。
ここでは、原発にかかわる多くの問題点の中から特に重要な次の問題点をピックアップして私の意見を述べたいと思う。即ち、
1.フクシマやチェルノブイリのような環境に大量の放射能を放出する重大事故の可能性がある。
2.事故は起さなくても、運転中に低レベルの放射能を環境に放出する。(*注参照方)
3.運転を継続するには保守・点検・補修などの維持作業に携わる人々が被ばくする。
4.運転をすれば使用済核燃料(高レベル放射性物質)を必ず生み出す。
5.運転を永久に止めても、過去に原発によってつくられた放射性物質(高レベル・低レベルとも)を安全に保管・処分する方法が見つかっていない。
(*注:低レベル放射能は安全という説が日本の中にかなり流布されているが、これは根拠のない宣伝なので信じてはいけない。少量での放射性物質を身体に取り込んだ結果の「内部被ばく」は非常に危険である。そして、このことは世界中の原子力推進勢力によって徹底的に隠されてきたことを知る必要がある)である。
もし、原発を利用するというなら、少なくとも上記の各種の問題をすべて解決しなければならない。だから、仮に「地震や津波によって重大事故を起さない原発」をつくることができたとしても、それは上記の第1項の解決に寄与するのみで他の第2~5項の解決にはならない。
しかも、今、原子力規制委員会によって審査されているのは重大事故を防止するための「必要条件」であって「十分条件」ではない。そのことは規制委員会自体が「この規制基準の条項を満たしたからといって、絶対に安全ということではない」と公言しているから確かである。
先月15 日、関西電力の大飯原発4号機が停止して、日本の運転中の原発はゼロになった。このまま1基も再稼動せず、運転原発ゼロが続くならば、第1~4項の問題の解決にはかなり寄与する。
ただし、停止している原発でも最低限の保守・点検は必要なので作業員の被ばくはゼロにはならないし、作業員が使った作業衣や防護具類を洗濯する際に出る低レベル放射性排水の環境への放出は続く。
運転原発ゼロが続いても、まったく解決できないのは第5項である。各原発の使用済燃料プール、及び、中間貯蔵施設に既に沢山の使用済核燃料が溜まっているから、その使用済核燃料が破損したら、やはり大量の放射能が環境に放出される可能性があるからだ。
以上、複数の視点から原発問題を観察すれば、普通の感覚をもっている市民ならば、日本に限らず、どこの国であっても、安心して暮らすためには脱原発へ向うのが当然と判断できるのではないだろうか。
しかし、現実には、昨年末に誕生した安倍晋三首相が率いる日本政府は原発推進を掲げ、冒頭に記したように、各電力会社はこぞって原発の再稼動をめざしている。
原発にかかわる技術者であった私の眼からみると、政府や電力会社の判断は、科学技術の範囲を超えた別の動機に基づいてなされているとしか思えない。
つい2・3日前に私の親友から示唆された表現を借りると、3・11フクシマ事故の悲劇を見ながらなお原発を利用しようとする人々は「原発ありがた教」という宗教の信者と呼ぶべきではないだろうか。
ここまで拙文を読んでくだったことに感謝すると同時に、読者のみなさん一人ひとりには、「原発ありがた教」の信者たちがありがたがっているものは何なのかを考え、それに対して脱原発を実現するためにはどうしたらよいか、どんなことでもいいので声をあげてくださるようお願いする。
(2013年10月1日)
小倉志郎(おぐら・しろう)氏の略歴
1941年東京生。慶大工学部卒、同大学院機械工学修士。
日本原子力事業(後に東芝が吸収合併)に入社。35年間、原発の開発・建設・運転の全過程に従う。退職後、論文「原発を並べて自衛戦争はできない」http://chikyuza.net/n/archives/8887執筆を機に、平和・反原発運動へのコミットを深める。「3.11」以後は、講演会などに多忙な日々を送る。「軍隊を捨てた国コスタリカに学び平和をつくる会」世話人。
●<小倉志郎の原発レポート(2)★『地震に対する原発の安全確保のための規制は無きに等しい現状』 (6/6 )
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