片野勧の衝撃レポート(61) 戦後70年-原発と国家<1952~53> 封印された核の真実ー「すべて公開にすべき」武谷三男②
片野勧の衝撃レポート(61)
戦後70年-原発と国家<1952~53>
封印された核の真実ー「すべて公開にすべき」武谷三男②
「すべて公開にすべき」武谷三男
学術会議は白紙に戻った。ただ、被爆国日本にとって、核兵器への抵抗は強かったが、科学者の多くは原子力そのものを否定しているわけではなかった。むしろ、原子力の平和利用を支持する科学者は多くいた。その中の一人に理論物理学者の武谷三男がいた。
彼は1952年、原子力研究3原則(自主・民主・公開)の基になるものを提唱した人。『改造』(1952年11月号)で、こう書いている。
「日本人は、原子爆弾を自らの身にうけた世界唯一の被害者であるから、少なくとも原子力に関する限り、最も強力な発言の資格がある。原爆で殺された人々の霊のためにも、日本人の手で原子力の研究を進め、しかも、人を殺す原子力研究は一切日本人の手では絶対に行わない。そして平和的な原子力の研究は日本人は最もこれを行う権利をもっており、そのためには諸外国はあらゆる援助をなすべき義務がある」
武谷は戦時中、仁科芳雄の陸軍原爆開発計画「ニ号研究」に参加した一人。また反ファシズムを標榜する雑誌『世界文化』『土曜日』に参加したとして2度、検挙された。警視庁の留置場から特高室へ引き出されて看守の部屋を通った時、ラジオから流れてくるショパンのピアノ曲は最も美しかったと武谷は語っている(武谷三男『聞かれるままに』思想の科学社)。
その後、武谷は1975年、高木仁三郎らとともに「原子力資料情報室」を設立し、反原発運動に身を投じた。その原子力資料情報室は原子力に依存しない社会(「脱原発」)を目指してつくられた民間のシンクタンク。 政・財界から独立した市民の立場から原子力利用の危険性を世界に発信している組織だが、その武谷ですら当時は原子力の平和利用に理解を示していたのである。
だから、伏見・茅提案に対して慎重だった。その根拠として武谷は3つ挙げた。第1は、原子力研究は通常の研究に比すれば桁違いの予算を必要とし、また各部門の専門家を動員するために、政府による研究統制を助長する危険性があるということ。
第2は、そのために自由な研究を圧迫し、さらに他部門の研究をも圧迫する。第3は、秘密の問題が起こること。これによって自由な討論が阻まれ、学問の雰囲気がはなはだしくこわされ、学問の進展をおさえるので、公開にすべきというのである(『原子力と科学者』武谷三男著作集②)。
原子力再開への道を開く
武谷は人類の将来に原子力が大きくかかわりをもつことは十分に予想されることだったから、平和利用に限定して原子力研究を行うことを主張していた。しかし、日本は被爆国なるが故に、原子力を平和利用に限定して研究すべきという論理は、皮肉にも原子力再開への道を開くきっかけになったのである。
しかも、当時は米ソ冷戦下。1950年の朝鮮動乱以降、米ソ両国の軍備拡張競争がし烈を極め、原爆貯蔵量は絶え間なく増加していた。その意味でも軍事利用に歯止めをかける原子力の平和利用は、平和を目指す戦後日本の理念にもかなっていた。
しかし、原子力の軍事利用か、平和利用か――日本の多くの科学者たちが揺れ動いていた、そんな時、世界を揺るがすニュースが海の向こうから飛び込んできた。
「平和のための原子力」アイゼンハワー演説
「Atoms for peace(平和のための原子力)」――1953年12月8日、米ニューヨークで開かれていた国連総会で、この年の1月に就任した米大統領アイゼンハワーは歴史的演説を行ったのである。アイゼンハワーは第2次世界大戦で在欧連合軍の最高司令官を務め、戦後はNATO軍最高司令官も務めた軍人。この演説の要点は次のようなものだ。
「先進4カ国による核兵器開発競争が世界平和にとって脅威になっている。原子力の忌まわしい秘密と恐ろしいパワーはわれわれだけのものではない。この状況を変えるためにもアメリカは世界各国に原子力の平和利用の促進を呼びかける」
こう言って、アメリカは原子力の平和利用に関する共同研究と開発を各国とともに進めるため必要な援助を提供する用意があると呼びかけた。さらに核保有国が持つ天然ウランや核分裂性物質などを国際社会が共同管理する国際機関(のちの国際原子力機関:IAEA)の設立も提案したのである。
アメリカの真の狙いはどこに?
アイゼンハワー演説は、この国際原子力機関に天然ウランなどの資源を供託し、農業や医療、発電など平和目的に利用させようというものだった。しかし、アメリカの真の狙いはほかにあったのではないのかという懸念も。
アメリカは当初、アメリカだけが原爆を持って世界を支配する状況をつくりたかった。しかし、アメリカは1952年11月1日、エニウェトク環礁での水爆実験に成功すると、ソ連は翌53年8月12日、ソ連内陸部のセミパラチンスクで水爆実験に成功し、たちまちアメリカに追いついた。
原爆の時はソ連が追いつくまで4年を要したが、水爆はわずか9カ月しかかかっていない。もはや、アメリカだけで核兵器を独占するというわけにもいかない。そこでアイゼンハワー米大統領は原子力の平和利用を持ち出し、「原子力は確かに悪用すれば、原子爆弾になるが、平和利用すればすばらしいエネルギーになり、人類の未来を開くことができる」と大々的にキャンペーンを張ったのである。
原子力関連技術を同盟国と第三世界に供与
早稲田大学教授の有馬哲夫は著書『原発・正力・CIA』(新潮新書)にこう書く。少し長いが、引用する。
「アメリカが原子力の軍事利用においてリードを保つことはもはや困難だ。また、国際社会は広島型や長崎型の1000倍もの威力を持つにいたった核兵器の存在に大きな不安を抱いている。アメリカが核兵器の開発に邁進すればするほど、世界平和の破壊者としてイメージは悪くなる。……(中略)第三世界のなかにも、核兵器の開発や原子力関連の研究に参入する国も出てくるだろう。もはやそれを止めることはできない。
それならば、アメリカのもつ原子力関連技術をむしろ積極的に同盟国と第三世界に供与し、これらの国々と共同研究・開発を行おう。そうすれば、これを誘い水として第三世界を自陣営にとりこみ、それによって東側諸国に対する優位を確立できる。
さらに、自らの主導で原子力平和利用の世界機関を設立すれば、この機関を通じて世界各国の原子力開発の状況を把握し、それをコントロールすることができる」
米国の思惑はどうあれ、このアイゼンハワー大統領の提案に議場はさざ波のような拍手が広がったという。朝日新聞は10日の朝刊で「冷戦打開に手懸り」として賛辞を送った。英紙の論調は「原爆恐怖の解消へ一歩を踏み出した」とたたえた。
国連演説の後も核実験を続けた
これを見る限り、核燃料の共有によって軍事的な広がりを抑え、核技術を社会開発のために利用し、エネルギーなど平和利用に大きく舵を切ったかのように思えた。しかし、実際はこのあともアメリカは水爆実験を続け、核兵器の威力を大きくする技術を開発し続けた。
現にアイゼンハワー演説の3カ月後にビキニ環礁で水爆実験を行い、第五福竜丸事件を起こした。その後も、核実験を止めなかった。アイゼンハワーは大統領在任中、就任時に千発だった核兵器をその20倍以上の2万2千発に増やした。
こうした米ソ両国の原爆貯蔵の増加に対して、原爆製造の父・オッペンハイマー博士は、一つのたとえとして「2匹のサソリを一つのビンにいれたようなもので、どちらも相手を殺すことができるが、その代わり、おのれの命もそれにかけねばならぬ」(『フォリン・アフェアーズ』1953/7)と述べている。
つまり、核戦争は食うか食われるかでなく、お互いに食われてしまう戦争だというのである。
こう考えると、アイゼンハワーの真の狙いは、平和利用という隠れ蓑の下に原子力技術を供与することで、世界の核アレルギーを和らげ、大量の核配備を進めることだったのだろう。
この演説は、原子力エネルギー産業に決定的な役割を果たした。しかし、その一方、核をめぐる状況は極めて複雑化している。
アイゼンハワー演説「アトムズ・フォア・ピース」の世界戦略は戦後70年を経た現在も、この路線に変わりはない。というより、ますます強化され、拡大されている。日本もアメリカの世界戦略の中に組み込まれて抜け出せないのは、そのためだろう。
世界で運転中の原子炉は426基
(社団)日本原子力産業協会によると、2014年1月1日現在、世界で運転中の原子炉は426基、利用国は31カ国・地域だという。国際原子力機関(IAEA)のモハメド・エルバラダイ事務局長は、「2020年までにインドは原子力発電能力を8倍、中国は6倍に伸ばす。ロシアは2倍だ。インドネシアやトルコ、ベトナムなど比較的大きな途上国や、原子力の保有は無理とみられる小国からも多くの関心が寄せられている」と語っている(『ニューズウィーク日本版』2007・1・3/10付クリストファー・ディッキー論文)。
軍事利用については現在、9カ国がなんらかの「核爆弾」を保有。実質的な核保有国になりうる力をもつ国は数十カ国に達していると言われ、軍事利用と平和利用の境界線はあいまいになるばかりである。
冷戦下で仕組んだアメリカの「罠(わな)」
人類が原子力によって自滅するか繁栄するか――という重大な岐路に立たされていた、そんな中、世界を駆け巡ったアイゼンハワー演説は世界に大きな波紋を投げかけた。しかし、それは「原子力の夢」を与えるという、冷戦下で仕組まれた「罠」でもあった。 (かたの・すすむ)
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