『Z世代のための百歳学入門』★『日本一の百科事典派(google検索のアナログ派)物集高量(106歳)』★『百歳は折返し地点、百歳までは予習時代。これからが本格的な勉強ですよ』
物集高量氏(もずめ・たかかず)
明治十二年(一八七九年)四月、東京生まれ。号は梧水。七歳の時、病気で左目を失ったため小学校にも行けず、独力で四書五経、英語、数学を学び、三高から東大史学科を卒業。明治二十五年一月、東京朝日新聞の第一回懸賞小説に『罪の命』が一等に当避、八十九回連載された。中学教師、新聞記者、雑誌編集者等を経て、父と協力して『群書索引』『廣文庫』を編集した。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%A9%E9%9B%86%E9%AB%98%E9%87%8F
●いままでは予習、勉強はこれから
九十八歳。天涯孤独。あばら屋で自炊しながら悠々、読書と思索を楽しんでいる″板橋の仙人″物集高量さんが、今、話題になっている。
俳優座の福田豊土氏が作っていたドキュメンタリー映画『ひょっとしたら二百歳まで生きるかもしれません』も、この七月十日には完成、近くテレビで放映されるそうだし、九月末には東京作家クラブ(山岡荘八会長)から物集さんに文化人間賞が贈られることになっている。
物集家は代々学者で、祖父の物集高世氏は明治初期の国学者、特に神道および歌学で有名。父の物集高見博士も国学、蘭学、漢学を修め、明治天皇に講書したこともある大学者で、『日本文明史略』、『ことばの林』、『日本大辞林』等薯書多く、言文一致の先駆者として知られている。しかし、最も有名だったのは、長男の高量さんに協力させて編纂(へんさん)した『群書索引』(全三巻)と『廣文庫』(全二十巻)。これは国文学や日本史の研究者、歴史小説を書く人などにとっては貴重なしるべであり宝の山で、福田豊土氏もその恩恵を受けた一人である。
福田さんは、江戸時代中期、秋田で洋画運動を起こし、杉田玄自の『解体新書』の挿絵を描いた小田野直武をモデルに『秋田蘭画コトハジメ』というドキュメンタリー映画をテレビ放送して四年前、民放祭に入賞したが、その原作を書いた時、物集さんの『廣文庫』が非常に役立った。ところが、その物集高量さんが今なおかくしゃくとしてぃるのに驚き、 ″明治の百科全書派″の人生を主体に″物集語録″を入れた映画を作ったのである。
その話題の主を訪ね、まず、名著普及会から復刻再版が始まった『群書索引』や『度文庫』の著作に、父高見博士が取りかかった当初のいきさつを聞いたが、声の大きいのと頭のしっかりしているのには驚いた。
「それが面白いんですよ。親父が編纂を思い立ったのは明治十九年ですから、今からちょうど九十年前。そのころ東大教授でしたが、三四郎の池のほとりにある山上御殿で毎週金曜日、教授連がそろつて昼飯に洋食を食べることになっていた。鹿鳴館時代ですからね。
ある金曜日、親父の隣に座っていた穂積陳重博士(後に学士院長や枢密院議長になった)が″物集君、私は『隠居論』を書きたいと思っている。隠居制度は日本独特に発達したもので西洋にはない。これがどうしてできたのか大学の図書室で一年半調べたが、 一つも出て来ない。知っていることがあつたら教えてくれないか″と話しかけて来た。
物集高量
● 極貧時代には十日間ぐらい何も食べず、水道の水でがまんしたという。
「みんな私を見損なっている。あと二、三年しか生きないように思っているけれども、私はね、もうあと百年ぐらい生きるつもりですよ。
百が折返し点だと思っている。百までは予習時代。二百歳のコースに入ってからですよ、本格的な勉強は。
まあ見ていてください。もう十年たったら私は日本一の学者になるかも知れん。私は今、星学を一生懸命にやっている。それがすんだら数学に移るか、物理に移るか、化学に移るか、とにかく地球の正体を見たいと思っているんですよ。その次には生物――動物とか植物を研究し、そして初めて″人間はかく、すべきものなり″という結論を出そうと思っている」
熱弁をふるっているところへ新聞配達の青年が『サンデー毎日』を配達して来た。
「週刊誌も現代を知ることにおいて必要です。新聞も取っている。テレビも見ていますよ。 一番好きなのは日曜日の朝の政治討論会。それから競馬や野球も面白いですね」
競馬や野球の話になると、ひげづらが、ニコニコしてくる。昔は親友の菊池寛と一緒によく競馬へ行ったそうだ。
「私は何にでも興味がある。本も大好き、女も好き、酒も大好きだ。バクチはもっと大好きだ‥‥‥」
この調子で二時間、大音声でぶたれると、聞いている方がフラフラになる。大変な仙人だ。
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