前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『Z世代のための「国際連盟論」講座』★『世界が尊敬した日本人(33)』 ☆『「世界の良心」とたたえられた 国際司法裁判所所長・安達峰一郎』

   

     「世界が尊敬した日本人(33)」 記事再録

☆「世界の良心」とたたえられた 国際司法裁判所所長・安達峰一郎

前坂 俊之 (静岡県立大学国際関係学部教授)

世界の平和の殿堂・国際司法裁判所 ・国際司法裁判所はオランダのハーグにある。 死傷者1千万人以上を出した第 1 次世界大戦の悲劇から国際連盟や不戦条約(パリ条約)ができ、国家間の紛争を国際法によって裁くこの常設国際法廷が設けられた。

2006 年 6 月 12 日、この平和宮の「法衣の間」で 1 人の日本人肖像画の除幕式が行われた。 100 年余の同裁判所の歴史の中で唯一の日本人所長である安 達峰一郎の肖像画である。

安達峰一郎は一八六九年(明治二年)、山形県東村山郡山辺町)、山形県東村山郡山辺町で小学校長の長男として生まれた。

少年時代に山形県令に三島通庸がなり、中央直結の土木事業を強引に進めて逮捕者が相次いだ。その反動もあり、激しい自由民権運動が起こったが、こうした体験から安達は法律、なかでも万国法(国際法)を学ぶ志を立てた。

東京帝国大学法科では国際法を学び、明治25年に卒業後は外交官となり、イタリア、フ ランス、メキシコ、ベルギーにわたって世界を舞台に活躍した。

安達はフランス語、イタリア語、 英語に堪能で, 外務省きっての語学の達人であった。 東大卒業後、一時、和仏法律学校 、和仏法律学校(現、法政大)で「日本の近代法の父」のボアソナード (パリ大学教授)の講義を横にいて、彼のフランス語の話をただちに日本語に訳して学生に伝えたというエピソードが残っている。

外交官となった安達は外交交渉には不可欠な人材として成長していった。

明治三十八年の日露戦争・ポーツマス講和会議には小村寿太郎 には小村寿太郎日本全権の随員として 出席。ロシアのウイッテ全権がロシア語ではなく、フランス語でまくしたてるのを、安達が日本 語に直して、小村全権に伝え、今度は英語で主張するというバイリンガル以上の外交戦が火花を散らした。

外交交渉では国際法の知識と、専門用語を正確に翻訳できる通訳が勝負の決め手になる。同会議は小村全権とその懐刀となった安達、金子堅太郎や外務省、政治家、軍人らトップの一丸となった勝利だが、安達の奮闘も決して小さくなかった。

これ以降、安達の語学力は国際交渉にはなくてならない存在となり、明治 40 年、ハーグでの 平和会議委員会の日本代表となった。大正 8年(1919) のベルサイユ講和会議によって国際連盟が結成され、国際司法裁判所が誕生するきっかけとなった。

国際連盟では日本は常任理事国として活躍、同事務次長には新渡戸稲造がなり、安達は裁判所規程起草の委員となり、10 年には連盟での国際紛争調停手続研究会委員会 の議長を務めるなど国際法の第一人者となった。

安達の能力が高く評価されたのは次の事件であった。 大正13年(1924)年の国際連盟総会では国際紛争平和処理の「ジュネーブ議定書」が審議されたが、英仏が日本、アジアの立場を無視した内容提出したのに対して、安達は「国際社会の良心にのっとり世界の国々は平等でなければならない」 と、敢然と主張して一歩も譲らず、両国の譲歩を獲ち取った。

安達の見事なフランス語の演説を聞いた新渡戸は「安達の舌は国宝だ」と絶賛した、という。 また、昭和 4年(1929)年のハーグでのドイツへの賠償会議の席上、イギリス、フランスが対立 して会議が空転した際に、安達が仲介役となり両国の代表を茶席に招いて説得して、仲直りさせたというエピソードが残っている。

安達の存在は際立っており、昭和 5 年 9 月の同判事の選挙では53ヵ国中の 49 ヵ国から 支持されて当選、翌6年 1 月には同裁判所所長に選任された。 安達は 62 歳。 国連常任理事国という日本の国力と、安達のコミュニケーション能力と国際法への抜群の知識、その篤実の人柄とあいまって、国際司法裁判所のトップに上りつめ、「世界の良心」とたたえられた。

しかし、ここから安達の運命は暗転する。

わずか半年後に、1931(昭和6)年9月、 満州事変が勃発

終戦70年・日本敗戦史(131) 日本を滅ぼしたキーワード「満蒙はわが国の生命線」関東軍の下剋上、 謀略によって再び満州事変を起こした

https://www.maesaka-toshiyuki.com/war/9211.html

『オンライン講座/『終戦70年・日本敗戦史(135)』★『昭和史の大誤算を振り返る』★「国を焦土と化しても」と国際連盟脱退した荒木陸相、森恪、松岡洋右のコンビと、それを一致協力して支持した新聞の敗北』★『日本は諸外国との間で最も重要な橋を自ら焼き捨すてた」とグルー米駐日大使は批判』
https://www.maesaka-toshiyuki.com/war/42823.html

国際連盟は日本非難の嵐となった。昭和8年2月には満州国の承認をめぐっ日本は国連からついに脱退。板ばさみとなった安達は昭和9年夏に病にたおれて 12 月 28 日に亡くなった。

この晩年について書き残されたものは少なく、その心中を察することはできないが唯一、講演録の中で「日本は戦争を国の必要なる仕事として侵略的な考えをもって国策を樹てるものではない。それは全く不利になり不正なる。 日本国にとって国際連盟は最も必要であり、最も有利なる機関である」(伝記「世界の良心・安達峰一郎博士 安達峰一郎博士」に収録)と述べている。

日本軍部の暴走と国連の対立、板挟みとなり本人との思想行動の矛盾に懊悩した結果が病気となり、急死したのではないか。 オランダは安達の死を悼んで国葬の礼をもって安達の永年の国際平和への功績を最大限に讃えた。

「日本が生んだ最高の国際的知識人の 1 人で、外国から国葬をもっておくられた日本人は他に例がありません」

と同財団・佐藤常務は語る。

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究, IT・マスコミ論

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
日本のメルトダウン(527)「安倍首相を望んだことを悔む米政府(英FT紙) 「歴史問題は日本の国際的地位を低下させかねぬ」

  日本のメルトダウン(527)   ●「安倍首相 …

no image
日本メルトダウン脱出法(681)「アトキンソン氏、「新・所得倍増計画」を提言ー2030年、訪日客8200万人」ドローンが新聞配達までやる」など6本

  日本メルトダウン脱出法(681)   アトキンソン氏、「新・所得倍増計画」を …

no image
日本リーダーパワー史(445)「2013年日中韓北・東アジア激震の1年」を国際ジャーナリスト・前田康博氏が徹底分析(130分)(12/19)

 日本リーダーパワー史(445) 「東アジア情勢まとめ解説」 &nbs …

no image
日本リーダーパワー史(64) 名将・川上操六⑩の『最強のリーダーシップ』とは(2)

日本リーダーパワー史(64)   名将・川上操六⑩の『最強のリーダーシ …

★「英国のEU離脱の背景、歴史の深層を読む』「英国のEU離脱へのドイツ、フランスなどの対応』(ジャーナリスト・ディープ緊急座談会)動画80分

  「英国のEU離脱の背景、歴史の深層を読む』① 「英国のEU離脱の背 …

no image
日本メルトダウン脱出法(770)「仏治安当局の悪夢が現実に、パリ同時襲撃事件」★「パリ連続襲撃事件、実行犯は「シリア介入」が動機と語る」★「「イスラム国」が犯行声明、127人死亡のパリ同時多発攻撃」

  日本メルトダウン脱出法(770) 仏治安当局の悪夢が現実に、パリ同時襲撃事件 …

★『日本経済外交150年史で、最も独創的,戦闘的な国際経営者は一体誰でしょうか講座①(❓) <答え>『出光興産創業者・出光佐三(95歳)』ではないかと思う。そのインテリジェンス(叡智)、独創力、決断力、勝負力、国難逆転突破力で、「日本株式会社の父・渋沢栄一翁」は別格として、他には見当たらない』

  『戦略的経営者・出光佐三(95歳)の国難・長寿逆転突破力①     …

no image
尖閣問題・(資料)『日清戦争にみる日中誤解(パーセプション・ギャップ)の衝突③中国は機に乗じ勝利を収める

  尖閣問題・日中対立の先駆報道の研究 (資料)『日清戦争にみる<日中 …

no image
日本メルトダウン(951)『リニア新幹線は「第2の国鉄」になる 安倍首相の「ヘリコプターマネー」は昭和型(池田信夫)』●『大前研一の特別講義「オランダが実践する『選択と集中』の農業」』●『いつでも自由に尖閣に近づける状態にしたい中国 米海軍大学教授、トシ・ヨシハラ氏に聞く中国の狙い(古森義久)』●『「考える力」を育まない日本に未来はあるのか 日本の大学はロシアの小中校レベルだった』●『テクノロジーが変える50年後の社会~ビジネス・経営はどのように変わるのか?』

   日本メルトダウン(951)   リニア新幹線は「第2の国鉄」になる 安倍首 …

★『オンライン天才養成講座/エジソンの発明術を学ぶ』➂ 』★『発明発見・健康長寿・仕事成功11ヵ条」★『私たちは失敗から多くを学ぶ。特にその失敗が私たちの 全知全能力を傾けた努力の結果であるならば』★『臨終の言葉――「将来に信仰を持ちなさい。前進しなさい。私は人々のためにするだけのことはした。もう思い残すことはない。ブルーに輝いた美しい国の人々が待っている。さようなら」』

2018/11/23  百歳学入門(96)再録 「史上最高の …