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『Z世代のための日本戦争史講座』★『東京裁判でも検事側の証人に立った陸軍反逆児・田中隆吉の証言③』★『ガダルカナルの惨敗、悲劇ー敵を知らず、己れを知らず』★『驕るもの久しからず、戒むべきは反省なき優越感とこれに基く慢心である。』

   

  終戦70年・日本敗戦史(85)記事再録

昭和十七年六月、ミッドウェーに勝利を収めたアメリカは、わが海軍の既になすなきを知って、俄然、守勢より攻勢に転じた。この攻勢の第一弾がガダルカナル島に対する侵攻作戦であった。

この頃、大本営はオーストラリアを孤立化させて、英米の南洋諸島に対する作戦根拠地としての価値を減少すべく、すでに我手に帰せるガダルカナル島を根拠とし、進んでフィジー諸島に触手をのばし、この諸島を占領することによって、遠く南アメリカを迂回してオーストラリアに達する海空の連絡線を遮断せんとしていた。

ガダルカナル島には既に海軍陸戦隊の二千名から成る工作員が上陸し、フィジー諸島の進出を掩護するため飛行根拠地の設定中であった。この設定工事が概ね完成した昭和十七年七月上旬、突如としてアメリカ海兵一個師団はブーゲソビル島の東岸に上陸して、わが陸戦隊を蹴散らし、瞬くまにこの飛行場を占領して多数の飛行機を装備した。

アメリカ海兵師団のガダルカナル島占拠は、我大本営に取ってはまさしく寝耳に水であった。それは大本営は当時アメリカ側の戦力を極度に蔑視して、その攻撃転移は早くとも昭和18年の春以後でなければ不可能であると判断し、17年の末までに緒戦において我手に帰した、占領各地域の防備を完成すれば、ここに鉄壁の防衛陣を布くことをできるが故に、爾後、如何に戦争が長期に亘るとも断じて敗れることなしと確信していたからである。

アメリカ軍のガダルカナル島の進出は、この大本営の判断を根底から覆した。大本営は上下を挙げて周章狼狽した。何んとなれば、ガダルカナルの後方、ブーゲンビル、ラバールにおける我防備は当時未だ何等見るべきものがなく、航空基地すらも建設に着手せられていなかったからである。故にもし、アメリカ側にして、ガダルカナルを根拠として、直路ラバールに向って進攻するならば、これらの戦略要点はたちまち、その手に帰することは明らかである。

わけてもラバールの失陥は全南洋諸島失陥の第一歩である。南洋諸島の失陥は、戦争遂行に欠くべからざる石油資源の喪失を意味する。換言すれば戦争の完全なる敗北である。故に此報に大本営が周章狼狼したのもまことに無理からぬ話である。正に青天の霹靂である。陸海軍統帥府は共に極度に狼狽した。アメリカ海軍の反撃が予想外に早かったからである。

我海軍の敵の反撃に対する予想は、軍令部の作戦部長・福留中将

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A6%8F%E7%95%99%E7%B9%81

が、開戦直後航空総監部の河辺虎四郎中将

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%B3%E8%BE%BA%E8%99%8E%E5%9B%9B%E9%83%8E

に語った次の談話によって明かである。

「真珠湾、マレー沖の海戦には成功したが、さて海軍としてはどこでこの戦争を打ち切るか、さっぱり見当がつかぬ。アメリカ海軍は日を経るに従ってその兵力を増加する許りである。しかしわが海軍は昭和17年末ないし18年春までは絶対にアメリカ海軍に比して優勢であるから、この時期までに、アメリカ海軍の現有勢力を壊滅すれば、前途必ずしも悲観は要しない。それが出来ないとしたら問題である」。

仔細にこの談話の内容を検討すれば、海軍部内切っての智謀の将軍も、アメリカ海軍の反撃が、17年の夏に早くも行われるとは思いも寄らぬ所であったことが察せられる。

わが陸軍は直ちにガダルカナルの奪回を企てた。これがために直ちに、ミッドウェー島に上陸すべく準備した、旭川師団の一木連隊をそのままガダルカナルに転進せしめて八月上旬、海兵師団に対する攻撃を開始した。

この一木連隊は本来ミッドウエー海戦に勝利すれば、ミッドウエーに上陸して同島を守る部隊だったが、完敗したため急きょガダルカナルに回されたのである。

実力僅かに二個大隊であって、兵数において海兵師団の十分の一である。火力装備に到っては恐らく五〇対一にも達しなかったであろう。故にこの一木連隊の攻撃は鶏卵を巨岩に投げかけるにも等しいやり方であった。果然この部隊は攻撃開始後直ちに全滅の悲運を見た。

大本営はなぜ、この見え透いた戦法に出でたであろうか。それはアメリカ軍の素質を極度に低く評価し、大和魂をあまりにも高く買いかぶっていたからである。極端に言うならば優秀なる多数の近代火器を以て装備されてはいるけれども、アメリカ兵には大和魂がたいから、カガシと同然だと言う、過まれる優越感に支配せられていたのである。竹槍主義の勝利を盲信していたのである。この頃参謀本部の作戦部長田中新一中将は、「今に見ろ、ガダルカナルのアメリカ兵は武器諸共に全員捕虜にして見せる」と豪語していた。わが陸軍の運命を支配する作戦部長がこれである。他の若手連中がわが陸軍が一兵でもガダルカナルに上陸すれば、アメリカ軍は直ぐにでも手を挙げるかの様な甘い夢を抱いていたことは己むを得ぬ次第である。

一木部隊の全滅にも懲りず、大本営は次でニューギニア方面で偉勲を立てた川口少将の指揮する混成一旅団弱の兵力を急派した。この旅団の実際の兵力は三個大隊であった。この旅団も、瞬く間に全滅に等しき損害を蒙って、その攻撃は頓挫した。

参謀本部の作戦部長田中新一中将のこの豪語も未だかって我陸軍の経験したことのないアメリカ海兵隊の熾烈な火力の前には一たまりもなかった。次に派遣せられた佐野兵団も、惨憺たる敗北を喫した。

私は当時陸軍省の兵務局長であった。見るに見兼ねて、参謀次長の田辺盛武中将

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B0%E8%BE%BA%E7%9B%9B%E6%AD%A6

に忠告して、「航空基地を中心に一ケ師団の兵力を擁するガダルカナルの敵陣地を攻撃するのは、陸軍が海軍の真似をしてミッドウェーの攻撃を繰り返すに等しい。こんな馬鹿な戦争をしていたら、虎の子の輸送船の全部を食われて仕舞う。その結果は三年で負ける所を一年で負ける」

と言った。此最後の言葉は余程、田辺中将の感情を刺激したらしい。

「君は陸軍の兵務局長ではないか。負けるとは何んだ、言葉を慎しめ」温厚な人柄にも似ず、田辺氏は大声で私を怒鳴った。

所要に克たない兵力を逐次に戦場に使用することは、最も拙劣な戦法として、古来兵家が強く戒めている所である。然るに大本営は、この二度の失敗にも拘らず.更に佐野兵団(実力一個師団)をジャバから抽出して之を注ぎ込んだ。この兵団は相当の兵力であった。しかし、この兵団がガダルカナルに到着したときには敵の兵力は二個師団に増力していた。しょせんは焼石に水である。この兵団の攻撃も物の見事に失敗した。十一月十四、十五日両日の出来事である。

この三度に亘る失敗に流石の大本営も遂に我を折った。そして翌十八年二月初旬攻撃を断念し駆逐艦により辛うじて残有兵力を撤退した。収容せられた兵力は二千に充たず、しかも、その全員はマラリアと栄養失調のため.殆んど餓死に瀕しており、兵員の損害は約三万であった。此損害の数は陸軍の全兵力より見れば致命的なものでない。しかしこの戦闘のため、補給と輸送に従事した輸送船舶と潜水艦の損害は莫大の数に達した。

海軍はこれがため優秀なる駆逐艦と潜水艦の多数を失って以後の作戦に多大の支障を来した。又同時に虎の子の輸送船約百万トンはガダルカナルの周辺の海底の藻屑と消えた。この輸送船は概ね一万トン級の最も優秀なものであったためその喪失は戦争の遂行に最も必要なる海上輸送能力に致命傷に近き損害を与えた。

大本営はこの徹底的な敗北を敗北にあらずとて転進であると強弁し、賊ケ岳の合戦に於ける中川清秀

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%B7%9D%E6%B8%85%E7%A7%80

の例を引いて、勝利の前の捨石であると放送した。国民を愚弄するも甚しい。

日清戦争以来我が陸軍は、精強世界に冠たりと自負して来た。事実において、戦って未だ敗れたことなき常勝将軍であった。然るに太平洋戦争おいてひとたびガダルカナルに敗退するや、天は常勝の栄冠をわが陸軍から完全に剥奪し去った。

爾来インドに、ビルマに、フィリッピンに、或はサイパンに、硫黄島に、沖縄において戦い、しかも戦う毎に常に敗れ、無条件降伏の己むなきに到った。中にも降伏前後における関東軍の醜態に到っては互にこれを筆にするに忍びない。かくして祖国の光栄は泥土の裡に蹂躙された。

驕るもの久しからず、戒むべきは反省なき優越感とこれに基く増長慢である。

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