『オンライン講座・日本リーダーパワー史(1232)』-桂太郎の研究➂『日露戦争を勝利に導いた戦時宰相』★『桂太郎と孫文との秘密会談に同席した戴李陶の『桂太郎論』(1928年)』
日本リーダーパワー史(187)記事再録
『世界史上空前の宰相としての桂太郎―「日英同盟』破棄と「日独・日中同盟」を孫文と密約!?―
――戴李陶の『日本論』(1928年)――
以下に紹介するのは100年前の桂太郎と孫文との秘密会談に同席した戴李陶の『日本論』(1928年)
の「桂太郎論」である。桂は日本の総理大臣では最長の在任期間であり、その間に、日露戦争に勝利するという最大の成果を上げた。しかし、日本での評判は最低で、2流の宰相と位置づけられている。ところが、孫文、戴李陶の評価は全く逆の最高である。
『今年は孫文の辛亥革命』からこの10月10日で100年である。政治家はこの文章を読んで、日中の歴史認識を勉強してほしい。
<戴李陶の『桂太郎論』(1928年)より>
私は叙述にも批判にも一切の遠慮を排して、歯に衣を着せずに書くつもりだから。 民国二年(1913年、大正3)2月、総理中山先生(孫文)=当時は鉄道大臣の肩書き=がわざわざ日本を訪問された。その際、私は総理の秘書として随行し、六十日にわたる滞在中、すべての講演、宴会、交渉に、全部立ち会った。その一つ一つのいきさつを、今でもこと細かに記憶している。というのは、通訳を全部、私がつとめたので、いつでも二度聞く、二度話す機会があったからである。その後は、対日交渉を総理が私に当らせるようになったので開くのも話すのも一度きりとなり、そのため記憶が最初のときよりうすい。
民国二年(1913年、大正3)のときは、東京滞在が四十日、その間、とくに記憶に留めたいのは、ほかでもない、中山先生と桂太郎公爵(1848-1913⊥)との会見である。桂太郎といえば、よく知られているように、日本の軍人政治家中もっとも有能であり、またもっとも長く政権を握った人物である。日本に内閣制度が誕生して以来、かれほど長く総理をつとめた人物はいない。
伊藤博文と比較してみると、伊藤は組閣三度、在任期間は合わせて六年十ヵ月であるのに対し、桂太郎は組閣は同じく三度だが、在任期間の総計は七年十ヵ月に達している。第一次の桂内閣は、明治三十四年六月から三十八年十二月まで続いた。この数年間に、かれは日英同盟と日露戦争という二つの大問題を手がけた。外交史をふりかえってみればわかるように、イギリスは百年来「栄誉ある孤立」を標榜して、いかなる国とも同盟関係を結んだことがなかった。そのイギリスが百年来の伝統的政策である「栄誉ある孤立」を棄てて、日本との同盟に踏み切ったのは、もちろん、これが民族の興廃と国家の存亡とに関する重大事であると認めたからである。
日本側からすれば、不平等条約の束縛から解放されてまだ十年にも満たぬ東方
の一新興国が、世界一の強大な帝国と攻守同盟を結び、さらに世界一の大陸国家(ロシア)を破るという輝かしい歴史を築いたのである。まさに日本民族奮闘の最大の成果というべきだ。それにとどまら、この大事件は全世界を震憾させたといっても過言ではない。日本の戦勝の結果、東方民族は西方民族に勝てないという催眠術から解かれて、全東方民族の動きががぜん活発になった。これを起点として、世界に民族革命の新しい潮流が起こったのである。
また、英仏協商と三国協商も、ロシア敗戦の結果として生まれたのであり・五年にわたり、二千万の犠牲者を出した世界大戦、それにともなうロシア、ドイツ、オーストリア、トルコの四大帝国の崩壊も、すべてここを起点としている。
ことの是非は別として、初舞台の四年七ヵ
に桂太郎があげた成果は、貰史上空前の偉観であった。桂太郎の事績として世間に知られているところは、およそ以上である。だが、一般には知られてい
ないが、かれは日露戦争後の計画として、驚くべき腹案をもっていたのである。
かれの高い見識、鋭い洞察力、臨機応変の才覚は、たしかに最近の日本の政治家など及びもつかぬものがあった。中国で排満革命が成功したとき、かれはわざわざ中山先生のもとに使者を送り、親近の意を表している。
中山先生の日本訪問に際しては、たまたま、第三次内閣の総理であったかれは、ひそかに中山先生と二回にわたって密談をとげた。この二回の密談では、双方とも腹蔵なく意見を交換したといえる。これ以来、かれと中山先生とは、互いに深い敬愛の念を抱き、互いに大きな期待を寄せるようになった。
桂太郎の訃報に接したとき、中山先生はため息をもらして、「もはや日本には、ともに天下を語るに足る政治家はいなくなった。今後、日本に東方政局転換の期待をかけることはできない」といった。
また桂太郎は死の直前、つき添っていた、ある親しい人物に、「孫文の蓑世軌打倒を援助して、東方民族独立の大計を達成することができなかったのは、わが「生の痛恨事である」と語ったという。
二人のことばに込められた感慨から、桂太郎の胸中を察し、その気魄を感じとることができよう。一人は帝国の軍閥の領袖、一人は民国をひらいた革命の領袖、「方は軍国主義の権化、他方は三民主義の指導者、この対極的な二人が、どうしてこれほど相互理解を深めえたのか。それは、かれらの相互理解と相互信頼とが、学術思想あるいは国家思想の上ではなく、東方民族の復興を中心とする世界政策の上にあったからである。桂太郎と中山先生との密談は、のべ十五、六時間に及んだが、そのときの桂太郎の発言の要旨は、ほぼ次のようなものであった。
「清朝政府の時代は、もちろん東方の危機が極点に達した時代であるが、同時に失望が極点に達した時代でもあった。あの腐敗した朝廷と政府には、存立発展の可能性は見出しようもなかった。しかるに西方からの圧迫は強まるばかり、とりわけ、軍国主義の大陸国ロシアは強大無比の武力によって北方から、海上の覇王イギリスは強大無比の経済力によって南方から、それぞれ圧迫を加えてきた。
当時の日本は、自力で生存を図る以外に道はなかったのである。自力生存のためには、イギリスとロシアの双方に同時に抵抗することは、絶対にできない。さいわい、アジアにおけるイギリスとロシアは利害が鋭く対立していたので、われわれはこの対立を利用して、イギリスと同盟を結び、ぎょうこうにも
ロシアを破ることができた。
ロシアという敵は、東方にとって最大の敵ではなかったが、もっとも急を要する敵だった。ロシアを破ることによって、当面の危機は救われたが、こうなると、東方がイギリスに独占される恐れが生じた。日本の海軍力はイギリス海軍の敵ではないし、日本の経済力はイギリスの足もとにも及ばない。自分は日露戦争までは、日英同盟を実現すべく極力つとめたが、日露戦争の結果がすでに明らかとなった今では、もう日英同盟の役割は完全に終わった。
今後の日本に連英策は不要、イギリスにとっても連日策は不要である。
いまや太平洋における英島国は、完全に敵対関係にある。今後の日本の活路、および東方民族の活路は、ただ一つ、英露の連警分断し、対独連繋を強化すること、これだけである。日英同盟にかえるに日独同盟をもってし、対露作戦にかえるに対英作戦をもってして、是が非でもイギリスの覇権を打ち倒さねばならない。かくてこそ東方は安泰となり、日本も生命を保つことができる。
日本の生命のみではない。ダーダネルス海峡(トルコ西端、エーゲ海とマルマラ海を結ぶ)から太平洋までの全東方民族の運命が、この計画の成否にかかっている。
今日の世界の大問題といえば、トルコ、インド、中国、この三つである。この三国はいずれも、イギリスの武力と経済力の制圧下にある。しかし、武力の圧迫さえとり除けば、経済力の圧迫のほうは問題でない。
三国はそれぞれ豊かな生産国となりうる条件があるからだ。もっとも、この三国に、日本との協力関係は望めない。中国には、協力関係が望めるはずであるにもかかわらず、ここ数十年来、内政は索乱をきわめ、利権は取られ放題、しかも日本に対しては遠交近攻の政策をとる。
かりに日清戦争のとき、中国がもっと強かったならば、絶対に日露戦争は起こらなかったろう。もし中国が強かったとすれば、日・中・露の戦争となるか、中・露の戦争となって、日本だけが犠牲を引き受けずにすんだはずだ。これは断言してもよい。
この二回の戦争では、日本は人民の生死を賭け、国家の存亡を賭けて戦ったのである。これを侵略と呼ぶのは当らない。中国が弱いばかりに、ヨーロッパの侵略を甘受し、日本までが存亡の危機に追い込まれるのは、まことに残念である。
このように考えて、自分は先年モスクワを訪問した。この訪露について世間では、日露同盟を締結するのではないかと臆測していたが、自分としては、ロシアとの友好は結構であっても、同盟ができるわけはないし、また何の役にも立たない。じつは自分が計画したのは、日独同盟である。このことは他人にまかせるわけにいかない。
またドイツに行ったのでは人目をひく恐れがある。そのためドイツ政府と打ち合わせて、モスクワで画策することにした。ところが折から先帝の病篤く、モスクワに着いたとたんに、しきりに電報で帰国を促された。かくてこの計画は今日まで棚上げになっている。
まことに痛恨事である。しかし自分は、政権の座にある間に、いつかはなしとげたいと思っている。これは自分の最大の秘密であり、また日本にとっても最大の秘密である。万一、この計画が少しでも洩れたとなると、日本に非常に不利な立場に追いこまれる。日独同盟ができる以前に、イギリスが全力をあげて日本に対抗すれば、日本はとても太刀討ちはできない。
さきほど対日政策についての先生のお考えをうかがい、ご忠告を受けたが、まさにわが意を得たりである。これまで国内では自分の政策を理解してくれる同志にめぐり会えなかった。今日、先生の話をうかがって天にも昇る思いである。中国に孫先生あるかぎり、後顧のうれいはない、今後は、われわれ両人の相互信頼によって、この目的を達成するのみである。すなわち中国、日本、トルコ、ドイツ、オーストリアの間に同盟を結んで、インド問題を解決したいと思う。
インド問題さえ解決されれば、全世界の有色人種はいっせいに息をふきかえす。この事業がなしとげられれば、日本はもはや移民地や貿易国の心配はなくなるから、中国侵略などという拙策は絶対にとらないだろう。大陸に関して絶対的保障を獲得して、アメリカ、オーストラリアにおける発展に全力をつくすことこそ、日本民族発展の正道である。大陸の発展は中国が責任を負うべきだ。日中両国が提携すれば、東半球の平和が保持できる。中国、日本、トルコ、ドイツ、オーストリアの五国が提携すれば、全世界の平和が保持できる。この成否は、ひとえにわれわれ両人の努力いかんにかかっている。
今日、中国は逆境にあり、国力は不足し、先生の雄飛も困難である。さきほど蓑世凱援助云々の話がでたが、私の見るところ、蓑は結局、民国にとって忠実な政治家ではなく、やがては民国の敵、また先生の敵となる存在である。しかしながら、いまただちに事を構えるのは百害あって一利ない。
先生のお考えのとおり、しばらく中国の幹線鉄道網の整備に全力をあげるのが、もっとも肝要である。幹線鉄道網の完成は、自分も全力をあげて先生を援助しよう。現在の世界で、イギリスに対抗し、これを倒せる者は、自分と先生とドイツ皇帝、この三人をおいてほかにない。」
右の対話は、政治道徳の立場から、中山先生も私も終始秘密を守ってきた。
桂太郎が他界し、欧州戦争が勃発して、日本がドイツに宣戦するに及んで、はじめて先生はこのことをごく親しい同志にもらした。いま、この桂太郎のことばを、欧州大戦前後の情勢に照らし合わせてみるに、もし桂太郎が生きていれば、東方の局面は必ずや今日と様相を異にしていたにちがいない。いまの日本は、政府の大臣であれ政党の領袖であれ、すべての政治担当者が、その日ぐらしの無気力、無意志、無計画の凡庸政客ばかりである。政権の獲得と保持だけに日夜、汲々としており、日本民族の将来も、世界の将来も、かれらの念頭にないのだ。このように政治の人才の払底している日本は、前途はなはだ危険である。
ひるがえって中国はといえば、これまた政治にたずさわる人間が、ろくすっぽ本も読まないか、たとい読んだとしても、読んだ一句をすぐスローガンにして吐き出してしまう連中ばかりだ。政治とは、民族の生死存亡にかかわる大事業である。こんなことで果してどうなるか、なげかわしい現状ではないか。
関連記事
-
『Z世代のための百歳学入門』★『物集高量は(元朝日記者、大学者、106歳)は極貧暮らしで生涯現役、106歳の天寿を果たした極楽人生の秘訣①』★『父・高見は「学者貧乏、子孫に学者は出さぬ」と遺言したが、息子・高量のハチャ、メチャ流転人生』①
『日本一の大百科事典を創るため土地、家屋、全財産をはたいて破産した明治の大学者( …
-
スクープ動画!ー鎌倉材木座海岸に「カゴメ大軍団越冬組」が集結、シラスを狙って大乱舞、大合唱だ!(22023年1月18日午後5時40分)」★『鎌倉材木座海岸ぶらぶら散歩はいつも感動に満ちている!』
30年前から鎌倉材木座海岸で釣りをしたり、カヌー、海水浴で遊んでいるが、こんな数 …
-
百歳学入門(183)-現在、65歳以上の人は「2人に一人が90歳以上まで生きる時代」★『義母(90歳)の『ピンコロ人生』を見ていると、「老婆(ローマ)は1日にしてならず」「継続は力なり」「老いて学べば死しても朽ちず」の見事な実践と思う。
百歳学入門(183) 老いて学べば、死しても朽ちず(佐藤一斎) 今年の「敬 …
-
百歳学入門(35)―『百歳長寿名言』グリコ創業者・江崎利一(97歳)『健康法に奇策はない』
百歳学入門(35)―『百歳長寿名言』 長寿経営者の健康名言・江崎利一(97歳) …
-
『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』⑱』『開戦4ゕ月前の『英ノース・チャイナ・ヘラルド』の報道ー『日露紛争ーロシアの行動を正当化するもの』●『日本は急速に経済面でも教育面でも,朝鮮の実質的支配者の地位を占めつつある。すでに実質的に日本のものになっている』★『その日本の進出は,朝鮮における他の国々の利益に対する脅威であり,朝鮮自身に対する脅威だと,日本では考えられていないのだろうか?』
1903(明治36)年10月9日 『英ノース・チャイナ・ …
-
『オンライン講座/60,70歳から先人に学ぶ百歳実践学入門』★『私の調査による百歳長寿者の実像とは・・』★『「生死一如」-生き急ぎ、死に急ぎ生涯現役、臨終定年/PPK(ピンピンコロリ)をめざそう』
長寿学入門(219)ー日本ジャーナリスト懇話会(2018/3/23) 『60,7 …
-
現代史の復習問題/日中韓150年史の真実(10)ー日清戦争の原因の1つとなった朝鮮の防穀令事件とは一体なにか』★『この朝鮮流の詐術外交(数字のごまかし、引き延ばし、ころころ変わる外交交渉)に手こずってきた歴代内閣は強硬手段をちらつかせた。』
2016/04/24 記事再録日本リーダーパ …
-
『百歳学入門』(166)『大成功した人たちが毎朝7:30前にしている7つのこと』★『 1日に3時間超の公演を次々こなす97歳、金子兜太の力の源泉』●『【書評】残酷な延命治療で「死なせてもらえない」高齢者たち』●『「もういい歳だから」が口癖の人ほど、どんどん老け込んでいく訳』●『目が死んでいる、早期リタイアした人々。その意外なデメリットは』●『10人に1人が100歳以上、イタリア「長寿村」の秘密 研究』●『ピンピンコロリの長野県、長寿日本一の秘密』●『なぜ、世界共通で「男性よりも女性の方が長生き」なのか?』
『百歳学入門』(166) 大成功した人たちが毎朝7:30前にし …
-
日本メルトダウン脱出法(894)【日米首脳会談】海外メディアはどう報じた? 安倍首相の抗議を「驚くほどの強い言葉遣い」と米紙』●『アングル:オバマ大統領の広島訪問、核なき世界への一歩か』●『サミット:世界経済「クライシス」の認識に異論、表現を最終調整へ』●『オピニオン:伊勢志摩サミット成否の分かれ目=竹中平蔵氏』
日本メルトダウン脱出法(894) 【日米首脳会談】海外メディアは …
-
★『 地球の未来/世界の明日はどうなる』 < 世界、日本メルトダウン(1045)>『トランプ大統領、FBI長官クビに!CNN「米国史に残る権力乱用」』★『大統領失格を自ら宣言する権力乱用であり、トランプは弾劾されて、辞任に追い込まれる可能性がより大きくなった。』
★『 地球の未来/世界の明日はどうなる』 < 世界、日本メルトダウン(10 …