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『リーダーシップの日本近現代史』(336)-「日本の深刻化する高齢者問題―大阪を中心にその貧困率、年金破綻と生活保護、介護殺人、日本の格差/高齢者/若者/総貧困列島化を考える」★『一人暮らしの高齢者の全国平均は26,8%、大阪は41%、東京23区は36%』(中)

   

2016年(平成28324日  講演会全記録  

「大阪の高齢者問題―貧困率、年金破綻と生活保護、介護殺人、日本貧困列島へ」(中)

一般社団法人大阪自由大学理事長   池田知隆(元大阪市教育委員長)

介護殺人―介護職員の専門性を評価すべき

生きていくうえでいろんな人の支えを受けていかなくてはなりません。しかし、周りから孤立し、さきほどの新幹線の事件のように

高齢者が暴走して、怒りまくる人もいるでしょうし、その一方で息を潜めて貧しい食事の中で暮らしている人もたくさんいます。私自身も長く新聞記者をしてきましたが、かつては「金持ちよりも人待ちになりたい」 「いろんな人と出会って、楽しく過ごしていきたいな」と思ってきました。

しかし、年老いてくると、「人持ちだけじゃ駄目だな。お金に余裕がないと暮らしていくのは厳しい」とも思います。「金持ちよりも人持ち」 を自分なりの生活信条にしてきましたけれども、老後になれば、ある程度の資金がないとやっていけないと最近痛切に考えさせられています。

もちろん、「人持ちよりも金持ち」 ではなく、最後支えてくれるのは周囲の人たちであろうという気もしますが・・。

 

周囲の人の支えが必要といいたいのですが、最近、新しい問題が起きました。川崎の老人施設で3人が転落死したという事件です。昨年(2015)の11月から12月にかけて87歳、86歳、96歳がベランダから突き落とされて亡くなりました。突き落としたのは、23歳の施設職員でした。

介護する若い人とお世話を受けるお年寄りの関係がおかしくなっています。この職員は、わずか1年しかこの施設に働いていませんが、お年寄りとの対応の中でストレスが溜まっていたとのことです。そのホームの実態を調べてみると、虐待が日常的に行われていました。施設での職員の労働環境をみると、1年間に14人採用したのに18人が辞めており、非常勤の職員も4人採用して3人辞めています。とにかく、もう半分以上が3年以内に辞めているのです。介護の職業が、全職種よりも平均賃金が10万円は低いといわれていますし、

介護職は善意さえあれば誰でもできるといわれたりして、介護の専門性に対する評価が低いという事情もあるようです。

介護は、それこそ毎日全身全霊でお世話をしたら介護する本人の体ももちません。ある程度、自分をクールに突き放したりしながらお年寄りとつきあうなど修練を積まないとできない仕事だと言われています。しかし、なかなか介護の専門性が評価されていません。

日本という国はどうなるのでしょう。自助だけではなく、共助の関係や周りの人たちの支えにもっと期待していかないとやっていけません。介護の職員に対する待遇を見直さなくてはならないし、保育士に対しても給料が低いからなかなかなり手がいないという問題もあります。

日本全体が子供と年寄りに対する対応が全く出来ていないのです。新聞には介護の仕事をしながら本当に疲れきってしまった人が90%を超えているという記事がありました。暴力的な言葉とか不眠というのも大半の人が感じていて、ケアマネージャーのうち「追い詰められている」と思っている人が6割に及んでいます。一方で、お年寄りがお年寄りを介護する「老々介護」の果てに介護殺人も目立ってきています。

東京、大阪など大都市圏では介護の実態が特に深刻です。例えば東京の江東区という下町がありますけれども、そこの生活保護を受けている人のなんと97%が東京都以外の所で暮らしているのです。東京都内に住むことができず、栃木とか群馬とかの田舎の施設で世話になっている。

深刻な大阪の高齢化と貧困率

ところで、大阪はいったいどうなっているのだと言いますと、それが極めて大変な課題を抱えています。日本が世界の高齢社会の先端だといいましたが、その日本の中でも大阪がその先端の地域です。いわゆる、 少子高齢化社会の先端の地域であり、大阪の子供は増えず、お年寄りはどんどん貧困化を増しています。

そういう深刻な大阪で数年前、橋下徹さんが出てきて、「何とかしてほしい」との大阪の人たちの思いを受け止めるかのようにさまざまな政治改革をやろうとしました。

最終的に、橋下さんは「大阪都構想」を掲げましたが、それには「老人パワー」の力をくみ取ることができなかったようで、橋下さんの夢は崩れ去りました。また再び、その夢がわきあがってくるかもしれませんが、いろんな意味で大阪は注目を浴びています。それだけ大阪の事態は社会的に深刻な問題を抱えているということです。

 

では、大阪はどんな地域社会を目指していけばいいのでしょうか。かつてのように高度成長の夢をもう一度みたいに景気回復だけを祈っても、無理でしょう。人口の構成も、大阪を取り巻く企業環境も変わっていますし、アジアの経済も向上しています。もはや「上り坂」の社会じゃなくつて、「下り坂」 っていうか、そういう中で、そんなにお金は稼げないけれどそれなりに豊かな人間関係がある地域社会をどう作っていくのか。そのことをとことん考えていかなくてはならないという気がします。

大阪の人口構成を見ますと、いま高齢化の基準である高齢化率25%を超えている訳です。高齢者の中でも後期の高齢者がどんどん増えていって、75歳以上が増え、どんどん圧倒していきます。大阪で何が一番の問題かと言えば、一人暮らしの高齢者世帯に占める割合が全国平均より高いということです。

一人暮らしの高齢者は大阪では41%です。全国で25%ですから、とにかく大阪は高齢化率が非常に高い。全国平均を見るとまだまだ半分近くは夫婦だけでなく、子供と一緒に暮らしています。

また大阪の65歳の人が占める割合がどんどん増え、平成に入った時には27%でしたが、いまは41%に増えていっています。全国平均の2倍まではいきませんけれども、そこまでどんどんどんどん大阪の社会の高齢化が高いことをまず踏まえておかなければいけません。

一人暮らしの高齢者の全国平均は26,8%、大阪は41%、東京の23区は36%

それから、都市の比較をしてみると、一人暮らしの高齢者の全国平均は26,8%ですけれども、大阪は41%です。東京の23区の数字

を見ると36%ですから大阪市内が東京都内よりいかに高齢化が進んでいるかがお分かりになると思います。後、神戸市、福周、北九州が続きますけれども。とにかく神戸や福岡などに比べても政令都市の中でもダントツに大阪の高齢化が進んでいるのです。

 

そういう中で経済復興や、景気回復ぽっかり叫んでいいのでしょうか。都心の中で一人暮らしの高齢者が占める割合は、かつて西成区とか浪速区は全国的に高かったんですが、この10年でますます高くなっています。西成区はかつて「日雇い労働者の街」と言われましたが、いまではイメージはまったくなくなり、「福祉の街」になってしまいました。生活保護の受給率は66%で、3人に2人が一人暮らしで高齢化しているといわれます。

 

また、大阪の場合は貧困率も高い。税金徴収は免除しますよという市町村民税の非課税世帯がどれくらいかといえば、大阪が48%、全国平均が31%です。こんな数字を見たら、世も末だな」と思いますが、これが現実なのです。

さらにいえば、要介護の認定者を見ると全国平均が17,8%に対して大阪は23%と高い。大阪の高齢者は要介護になりやすいというのは、一人暮らしが多い、非常に生活環境が厳しいといったこととも関連していて、認知症や介護を受ける状態になりやすいということなのです。

 - 人物研究, 健康長寿, 現代史研究

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