日本興亡学入門⑥ 「インテリジェンスゼロは≪ガラパゴス日本≫の伝統病」
2015/01/02
日本興亡学入門⑥ 2008,12、20
インテリジェンスゼロは≪ガラパゴス日本≫の伝統病
前坂 俊之
(静岡県立大学国際関係学部教授)
「一寸先は闇」「来年の話をすると、鬼が笑う」とか。未来予測ほど難しいものはありませんね。半年先はもちろん3ヵ月後さえ見通すことは容易ではありません。2008年12月には、世界一の利益を上げていたトヨタがわずか3ヵ月で大幅な下方修正から赤字に転落する「トヨタショック」を誰が予想できたでしょうか。
トヨタのトップさえ100年に1度というこの経済大恐慌のスピードと、劇的な変化を予測できなかったのですから、われわれ凡人が呆然自失、世界の消費が一挙にシュリンクしたことは無理からぬことです。
それだけ、未曾有の大転換期に今、世界は遭遇しているということでしょう。
2999年新年の週刊誌、ビジネス誌、マスコミなどでは派手な見出しで「出口の見えない世界大不況に突入」「日本経済は最悪の10年に突入する」「経済は半分のハーフ経済になる」「オバマは米軍のイラク戦争撤退は容易ではない、駐留は長期化する」など、例によってセンセーショナルな予想(反対に読めばウソよ)がはんらんして、消費者心理に水をぶっ掛けています。
1・・金融恐慌の波及力はぺタ、テラ級
ほとんどが、日本のみの視点で書かれている点は相変わらずの日本のメディアの視野狭窄症ぶりです。今回の同時不況の特徴は金融恐慌と同時にインターネット・デジタル・メディア不況そのもので、その爆発力・波及力はメガ級からギガ、ぺタ、テラ級に巨大になっています。
日本人、米国人、中国人というように抽象的な人類や世界人はこの世界には存在しておらず、具体的に各国の国民としてしか、存在しえませんが、今回の経済大変動はいやおうなく世界は金融、経済では緊密不可分に一体化しており、世界、人類は運命共同体に収斂していることに改めて強く気づかせてくれました。
この同時不況が吹き飛ばした感じの地球温暖化の問題ですが、20世紀型の自動車産業による大量生産、大量エネルギー消費社会とそのシステムが行き詰まったこと、「このまま欲望追求型の資本主義を続けていては、われわれの母なる地球は持ちませんよ。瀕死の重症ですから」というCO2排出社会から、低炭素社会への脱皮、移行が必要なことに初めて気づかせてくれた点でもよかったのではないでしょうか。
不幸中の幸いというか、人は不幸になってはじめて、何が原因でこうなったのか、何が幸せかを考えるものなのです。国単位でものを考え、その国民もその国の価値観だけで行動していると、とんでもないしっぺ返しがくることが、世界の富と繁栄と軍事力を一手に支配していたブッシュ・アメリカが身をもって大失敗をやらかして、世界中に不幸を撒き散らしたことで、考えるきっかけとなりました。
今後はいやおうなく地球にすむ人類としての一日本人、世界の中の1つの国としての日本はどう行動すべきなのかーを考えるようになるでしょう。その点では大いに教訓となりましたね。
未来予想に有効な1つの方法として過去のビジョンの再検証にあります。過去のビジョンが結果がどうなったのかを5年、10年後にもう一度検証して、どこがどう外れたか、どこが間違ったかをチェックすることです。
今年起こると予想される1つは日本の政権交代です。自民党長期政権はいよいよ崩壊し、麻生首相が最後の将軍になる可能性は高まっています。アメリカは初めての黒人大統領が誕生して、米国の国家、経済政策としてのイラク戦争と暴走金融資本主義、地球環境無視(京都議定書批准せず)のに国民はノーをつきつけました。
2・・日本は今だに中央集権・徳川幕藩体制とかわらず
つまり、20世紀の旧いアメリカを『チェンジ』した21世紀の米国を目指したのです。この変革の世界的ウエーブは日本を津波のように襲って、20世紀型、さらに遅れた自民党一党支配、中央集権官僚独裁政権(これは徳川幕藩体制と同じ)をひっくり返すことでしょう。
いずれにしても日本の今の政治・経済体制がインターンネットグローバル情報社会の、今の時代にあっていないということだけは確かです。行政改革、天下り、省庁の外郭団体の無駄な組織、二重行政、税金のムダ使い、ムダ使い。中国共産党の中央一党独裁支配とあまり差のない日本型統治システム。この国民誰もがおかしいと思っていることを一向に変えるだけの政治にパワーが全くないのです。情けない話です。全員、政治家失格、公務員失格です。
ここで、200年という歴史軸の中で、政権の崩壊過程と、その危機対応を振り返っておきたいと思います。
ちょうど、150年前に230年続いた徳川幕藩体制は鎖国をやぶる黒船の来航によって崩壊します。今のグローバリズムの大波で日本丸が転覆したのと同じ状況です。
黒船の来航については唯一、門戸を開いていたオランダの国王から事前に「数年後に米国が開国を求めていくので、鎖国について考え直したらどうか」との親書が届きます。
ヨーロッパ列強が中国の植民地争奪戦をしているという状況も「阿蘭陀(オランダ)風説書」でも知らせてくれたのです。これは年1回、オランダ政府からヨーロッパの政治、外交、国際状況を当時、新聞ニュースなどからまとめて幕府に知らせてくれた報告書といっていいものです。
これに対して、幕府や老中(今でいえば内閣)は比叡山・延暦寺などに命じて「なんとか黒船が来ませんように・・」という大祈祷をさせて、神仏に祈らせたのです。
親切に知らせてくれたオランダ国王には失礼なことに「もう、こんな不吉な情報はよこしてくれるな」との返事をだして以後の連絡を拒否しました。迫る危機にたいして、対策ゼロどころか、三猿主義(見ざる、聞かざる、言わざる)に徹するというバカな態度です。インテリゼンスゼロ、まったくの情報無知です。
これは元寇の役の際に、日本の国難に当たって、時の北条時宗が神仏に熱心に祈って、まったくその結果によるもではないのですが、台風シーズンだったために、襲ってきた台風によって攻めてきた元の軍船団がことごとく沈没して、これこそ神への祈りが通じた「神風」(カミカゼ)であるとの伝説がうまれた古事に倣ったものです。幕府は合理的な思考能力はゼロで、もっぱら神頼み、仏頼みだったのです。近代人以前です。
このあと黒船が来航して、ハリスが初代米駐日領事として下田に住むことになります。このハリスの凄腕の交渉能力と脅しによって、時の大老(今の総理大臣)井伊直弼は通商条約を仕方なくを結ばされてしまいます。これに対し水戸藩の志士たちが「桜田門外の変」を起して、井伊大老を暗殺して討ち取った首を持ち去ります。
幕府は驚愕して、この事実をひた隠しにして、井伊は生きていることにして約2ヵ月間老中不在のままで、「幽霊井伊が政治をつかさどる」というマンガ状態が続きます。老中も約1年間に合計10人が次々にかわるいという政権末期症状、指導者不在の国家漂流状態が続いたのです。
無能だった幕府がグローバリズムに飲み込まれて、適切に対応できず国際関係に無知のまま結んだこの不平等条約に、その後30年以上も明治政府は悩まされることになりました。国のリーダーの危機対応能力の欠如が国益を大きく損なうのです。
国家の興亡、経済の興亡もコンドラチェフの波ではないですが30年、60年単位といわれます。明治維新から約30年後に日露戦争の勝利によって日本は東洋の一小国から列強の仲間入りして、アジア唯一の大国となり、一挙にオゴリが出てきます。それから約30年後にアジア・太平洋戦争によって完膚なきまでに敗北して、亡国したのですよ。
これは徳川幕藩体制とよく似た日本軍閥体制による国の崩壊ですが、この戦争末期にも驚くべき情報無視、グローバリズムへの無知、神頼み、無責任体制があります。何百年も続く情報音痴ぶりと無責任体制、日本人のDNAの深くしみついた体質なのです。さびしくなりますね。
3・・・・インテリゼンスゼロ
「無敵海軍」などといばっていた昭和戦前期。太平洋戦争前から米軍は日本の暗号解読に成功し、真珠湾攻撃の外務省の外交電報もすべて暗号は解読されて,筒抜けだったことはよく知られています。
戦争末期の昭和18年(1943)4月、日本海軍のエースの山本五十六連合海軍司令長官が暗号を解読されて、乗っていた軍機が撃墜されました。これが「海軍甲事件」ですが、海軍は暗号が解読されているのではないかとの疑惑をもって、調査をしましたが、「その疑いなし」との結果を出して、そのまま米側につつぬけの暗号を使い続けたのです。無敵海軍の日本の暗号が破られることはありえないというオゴリと無責任体制からのものでした。
このあと、さらに山本の後任の古賀峯一連合艦隊司令長官一行が乗った軍機も同じく暗号が解読されたのに、そのままバカの1つ覚えで変更もせず再び撃墜され死亡。
一緒に飛行していた福留繁参謀長の軍機もフィリピンのセブ島に不時着し、福留は米のゲリラ部隊の捕虜になり、最高機密書類を奪われるという前代未聞の失態を犯しました。
これが「海軍乙事件」です。当然、「生きて虜囚の辱めを受けず」と強要した「戦陣訓」からいえば、切腹、自殺ものですが、福留参謀長は機密文書は米側には漏れていないと責任回避の抗弁をして、ゲリラ側との交渉によって、あろうことか、生きたままノコノコと帰国してきました。
あわててたのは海軍トップで急きょ、査問委員会を設けて、福留参謀長から事情聴取した結果、本人は徹底して漏えいを否定し、委員会側も処置に困り、責任逃れに終始して、「情報漏洩はなかった。捕虜も米側ではなく、フィリピン原住民のゲリラであって米軍でない」との結論をだして、この不祥事を隠ぺいして、逆に、福留を第二航空艦隊司令長官へ栄転させました。
こうして漏えいした最高機密(「あ」号作戦、マリアナ沖海戦)は米側に筒抜けとなり、作戦変更もせず、日本側は大敗北を喫し、多数な犠牲者を出すというまったく無謀な利敵・裏切り行為を海軍参謀トップが起こしたのです。
戦後、米国が公開した文書では、ゲリラ隊は米側に属したもので、なくした機密書類は米軍側に渡り、福留が自分の失敗を隠蔽していたことが明白となったのですが、あくまで福留は否定続けたのです。
福留のような海軍大学校首席卒業組は今でいえば、東大法学部卒で国家公務員上級職試験に合格したキャリア官僚の特権組と同じで、真のリーダーやエリートではなく、公僕精神に欠け、自己保身に汲々とした無責任人間が多いのです。
中央省庁のトップから数年ごとに何ヵ所も天下りを渡り歩いて、税金を食い物にするキャリア官僚たちは江戸時代から連綿と続く官僚国家日本、封建国家日本の中枢に巣食うシロアリとまったく同じものなのです。
2世3世議員は封建時代の世襲大名と同じです。民主主義の世の中に、封建時代の大名が威張って県、地方(昔の諸藩)の代表として存在しているとしたら、マンガの世界ですが、今の日本はそんな「ガラパゴス国家」なのです。
もういい加減にしてもらいたいですね。
関連記事
-
-
日中北朝鮮150年戦争史(44)『来年(2017)はアジア大乱、日米中の衝突はあるか」●『120年前の日清戦争の真相ー張り子トラの中国軍の虚像を暴露』(上)
日中北朝鮮150年戦争史(44) 宮古沖で日本を挑発する中国の狙いは「日中開 …
-
-
日本リーダーパワー史(299)原発報道と対中韓歴史認識では満州事変の横田喜三郎、石橋湛山の予見的な言説を活かせ⑥
日本リーダーパワー史(299) –3.1 …
-
-
『オンラインクイズ/全米の女性から最高にモテたファースト・イケメン・のサムライは誰でしょうか!?』★『イケメンの〝ファースト・サムライ〟トミー(立石斧次郎)は、全米に一大旋風を巻き起こ、女性からラブレター、ファンレターが殺到し、彼をたたえる「トミーポルカ」という歌までできた』★『ニューヨークではサムライ使節団を一目見ようと約50 万人の市民がマンハッタンを埋め尽し「トミー!こっちを向いて!」「トミー、バンザイ!」の大歓声。ジャパンフィーバー、トミー・コールが続いた(『ニューヨーク・ヘラルド』1860 年6 月17 日付) 』
『今から160年前の1860年(万延元年)2月、日米通商条約を米ホワイトハウスで …
-
-
『Z世代のための日本近現代興亡史講座(下)』★『「日露戦争の日本海海戦で英海軍ネルソン提督を上回る完全勝利に導いた天才参謀・秋山真之のインテリジェンス②』★『ジョミニ(フランスの少将)、クラウゼヴィッツ、マハン、山本権兵衛の戦略論』
ロシア海軍を視察、極秘中の極秘の「一等戦艦の図面」を1分間ほど見せてくれたが …
-
-
『オンライン講座/明治維新は誰が起こしたか』★『高杉晋作の国難突破力』★『植民地中国・上海租界地には「犬と中国人は入るべからず」の看板に日本の運命に危機感を募らせた』★『内乱を抑えるために、外国の経済的、軍事的援助を受けることが国を滅ぼす』★『大砲を搭載した蒸気軍艦(12万3千ドル(約7万両)を長州藩に無断で購入、幕府軍を倒すことに成功した、倒幕の第一歩!』①
2017/11/16 /「戦略思想不在の歴 …
-
-
日中北朝鮮150年戦争史(45)『来年(2017)はアジア大乱、日米中の衝突はあるか」●『120年前の日清戦争の真相ー張り子トラの中国軍の虚像を暴露』(中)『日清戦争は偶発的な豊島沖海戦から始まった。』●『「高陞号」を撃沈した『浪速』艦長は東郷平八郎大佐であった 』●『「東郷平八郎の撃沈は正当」―ロンドン・タイムスの一声に鎮まる』
日中北朝鮮150年戦争史(45) 宮古沖で日本を挑発する中国の狙い …
-
-
★新連載<片野 勧の戦後史レポート>②「戦争と平和」の戦後史(1945~1946)②『婦人参政権の獲得 ■『金のかからない理想選挙』『吉沢久子27歳の空襲日記』『戦争ほど人を不幸にするものはない』 (市川房枝、吉沢久子、秋枝蕭子の証言)
「戦争と平和」の戦後史(1945~1946)② 片野 勧(フリージャーナリスト) …
-
-
日本の「戦略思想不在の歴史⑽」『高杉晋作の機略縦横と突破力③』明治維新に火をつけたのは吉田松陰、徳川幕府を倒したのは高杉晋作である』★『男子は困ったということだけは、決していうものじゃない』
明治維新に火をつけたのは吉田松陰であり、230年惰眠をむさ ぼった …
-
-
片野勧の衝撃レポート(77)★原発と国家【封印された核の真実】(1981~84)⑬■官房副長官として7人の首相に仕えた 石原信雄氏の証言(下)
片野勧の衝撃レポート(77) ★原発と国家―【封印された核の真実】⑬ (1981 …
-
-
『F国際ビジネスマンのワールド・ウオッチ㉖』『アジアでの米国のプレゼンスに隙が出来れば、中国軍は電光石火の早業に・・
『F国際ビジネスマンのワールド …