日本リーダーパワー史(59)名将・山本五十六のリーダーシップ・人使い・統率の極意とは・・⑤
2015/11/12
日本リーダーパワー史(59)
名将・山本五十六のリーダーシップ・統率の極意とは⑤
前坂 俊之(ジャーナリスト)
① 人使いの要諦―『やってみせ・言って聞かせ・させてみせ・ほめてやる』
山本流人使いの極意がこれで、・「やってみせ」とは模範を示すことである。自分にそれだけの実力がなければ 「正しい模範」を示すことはできない。
・「言って」は説明すること。相手がわかるように、説明しなければならない。・「聞かせて」は相手に納得させること。そのためには、一回だけ説明するのではなく、何回も繰り返して納得するまで、説明しなければならない。
・「させてみて」とは実際に体験させること。何事もやらせてみて体験させないと、説明し、言って聞かせただけではわからない。
体験すると、それまでの過程など、なかったかのように覚えてしまう。
・「ほめてやる」。これは実際うまく行動できた場合の評価である。これが一番大切で、せっかくやらせておいても、このほめてやったり、激励することがないと、相手は動かない。これだけの手間ヒマかけて、手塩にかけないと、人は動かないものである。
② 「ドロをかぶる度胸を持て」
山本長官にかわいがられた幕僚の話。山本のところに書類の決裁をもらいにいくと、黙って決裁する場合と、「これでいいのか」と聞かれる場合と、二つあった。黙って決裁された場合は、山本長官も同意した時である。「これでいいのか」と言った時は、長官は不同意で、「もう一度検討し直したらどうか」ということであった。
長官の心の中まで読めない幕僚たちは「これ以外に手はございません」「これでいいと思います」と答えると、長官は自分の意見は言わず「そうか、それならその通りやってみろ」 と決裁した、という。
ところが、やってみると、なるほど結果は悪い。山本は幕僚たちを実際に体験させて、教育していたのである。作戦が失敗に終われば、長官の名によって行われたものなので、責任は山本に帰せられる 剛腹な山本は幕僚の失敗であっても、自分のものとしてドロをかぶる度胸を持って、人を使っていたのである。
③ 『違う考えをする人間を幕僚にえらべ』
真珠湾攻撃という奇襲作戦を実現したのは〝変人参謀〟といわれた黒島亀人大佐と、その策を採用した山本五十六であった。この黒島参謀は変人・奇人といわれ、ひと月に一回しか風呂に入らない。
真っ黒な部屋でロウソクを灯し、香をたいて、丸裸で二週間も想を練るという風変わりな生活で、評判はかんばしくなかった。
スマートな海軍に中で、アカまみれで一向に平気で、他の参謀とも食事を共にしなかったのが、一層の反感を招いた。一般に海軍も陸軍も、自分と同じ兵術思想を持ったものを幕僚に選びがちである。その方が仕事がやりやすいから。 黒島に反感を持った周りが、「どうしてああいう奇人を幕僚に置いておくのか」と山本を突き上げた。
山本は答えた。「君と僕とでは兵術思想が同じだ。君の考えることは僕も考えるから、僕だけで間に合う。あの男は僕の考えないことを考える。だから、僕の側におくのだ」
④ 部下を徹底して愛せ
山本は部下思いで、情にもろい点は相当なもので、「山本の作戦は失敗だが、統率は申し分がない」と評価する海軍関係者が多い。
山本の統率はテクニックなどではなく、彼の性格、部下思いの人間性そのままの反映であった。山本は戦場に出ていく時、潜水艦や艦船であれば、「時と場所を問わず」にいつも自服を着て「大和」の上甲板に威厳を正して立ち、敬礼を受け、右手で帽子を大きく振って見送った。
乗員は「あれが長官だ」と感激し、いつまでも見えなくなるまで見送ってくれる山本長官の心遣いに泣き、国のため、山本長官のために命を投げ出すことを誓った。
山本は病院船や海軍病院をよく見舞った。ある時、眼をケガして眼帯で両目を覆った少年航空兵が病室にいた。「山本だよ。わかるか」「視神経をやられています」と病院長が説明。全快の見通しは、との質問に院長は沈黙したが、少年に向かって「帝国海軍は決して君を見捨てないよ。海の上でまた会おう」と激励した。少年航空兵は感激のあまり泣き伏した。
⑤ 山本五十六のリーダーシップの心得
一 苦しいこともあるだろう。
二 言いたいこともあるだろう。
三 不満なこともあるだろう。
四 腹の立つこともあるだろう。
五 泣きたいこともあるだろう。
「これらをじっと我慢していくのが、男子たる者の修行である」 というもの。
これと似た〝五省″は戦前の「江田島海軍兵学校」で、生徒に対しての言葉。毎日の行動を反省する言葉。
一 至誠に惇(もと)るなかりしか。
二 言行に恥ずるなかりしか
三 気力に欠くるなかりしか。
四 努力に憾みなかりしか。
五 不精にわたるなかりしか。
(つづく)
関連記事
-
-
重要記事再録/2012/09/05/日本リーダーパワー史(311)この国家非常時に最強のトップリーダー、山本五十六の不決断と勇気のなさ、失敗から学ぶ①
日本リーダーパワー史(311)この国家非常時に最強のトップリーダー、山本五十六の …
-
-
★『明治裏面史』/『日清、日露戦争に勝利した明治人のリーダーパワー,リスク管理 ,インテリジェンス㊿『川上操六が育てた陸軍参謀本部の俊英・明石元二郎と宇都宮太郎のコンビが日英同盟締結、日露戦争勝利の情報・謀略戦に裏で活躍した①』
★『明治裏面史』/ 『日清、日露戦争に勝利した明治人のリーダーパワー, リスク …
-
-
『美しく老いた女性講座/作家・宇野千代(98歳)研究』★『明治の女性ながら、何ものにもとらわれず、自主独立の精神で、いつまでも美しく自由奔放に恋愛に文学に精一杯生きた華麗なる作家人生』『可愛らしく生きぬいた私の長寿文学10訓』
2019/12/06 記事再録 …
-
-
日本の〝怪物″杉山茂丸(すぎやま・しげまる)(一八六四~一九三五)
1 日本の〝怪物″杉山茂丸(すぎやま・しげまる)(一八六四~一九三五 …
-
-
日本リーダーパワー史(870)―『トランプ大統領の暴露本ショックが世界中に広がっている』★『無知で乱暴で品性下劣なトランプ主演の支離滅裂なドタバタC級西部劇を毎日見せつけられて世界中の人々は怒り心頭である』
日本リーダーパワー史(870) トランプ大統領の暴露本ショックが世界中に広がって …
-
-
★『オンライン講義/コスモポリタン・ジャパニーズ』◎『192,30年代に『花のパリ』でラブロマンス/芸術/パトロンの賛沢三昧に遊楽して約600億円を使い果たした空前絶後のコスモポリタン「バロン・サツマ」(薩摩治郎八)の華麗な生涯』★『1905年、日露戦争の完全勝利に驚嘆したフラン人は、日本人を見るとキス攻めにしたほどの日本ブームが起きた』
ホーム > IT・マスコミ論 > & …
-
-
『Z世代への日本リーダーパワー史』『 決定的瞬間における決断突破力の研究 ②』★『 帝国ホテル・犬丸徹三は関東大震災でどう対応したか②』★『関東大震災でびくともしなかった帝国ホテルの建築』★『焼失した各国大使館、各メディアは帝国ホテルに避難して世界に大震災の情報を送り続けた』★『フランク・ロイド・ライトは世界的な名声を得た』
犬丸は語る。 「最初の晩は、火事が心配であった。次の夜は、暴徒の侵入が恐ろしかっ …
-
-
昭和戦前期に『言論の自由」「出版の自由」はあったのか→谷崎潤一郎の傑作「細雪」まで出版を差し止められた『出版暗黒時代』です①
昭和戦前期に『言論の自由」「出版の自由」はあったのか→ 答えは「NO!」ーー19 …
-
-
『Z世代のための日本恋愛史における阿部定事件』★『男女差別、男尊女卑社会での、阿部定の「私は猟奇的な女」ですか「純愛の女」ですか』★『「あなたは本当の恋をしましたか」と阿部定はわれわれに鋭く突きつけてくる』
前坂俊之編「阿部定手記」(中公文庫,1998年刊)の解説より、 「阿部定、何をや …
-
-
『Z世代のための日本の革命家No.1の高杉晋作講座③』★『英国外交官アーネストサトウは高杉を「魔王」と評した』★『2012年は高杉晋作の奇兵隊創設から150年目』★『明治維新に火をつけたのは吉田松陰の開国思想だが、その一番弟子・高杉の奇兵隊による破天荒な行動力、獅子奮迅の活躍がなければ明治革命は実現しなかった』
2015/04/05/の記事再録再編集 2015年4月2日5時前に、明治維新のト …
