池田龍夫のマスコミ時評(25) 日本の安全保障政策転換に影響を及ぼす新安保懇報告(要旨)
2015/01/02
池田龍夫のマスコミ時評(25)
日本の安全保障政策転換に影響を及ぼす新安保懇報告(要旨)
ジャーナリスト・池田龍夫(元毎日新聞記者)
[参考資料]
上記の論稿で取り上げた「新安保懇」が8月27日、菅直人首相に正式報告書を提出しました。7月の「報告書案」が示した内容と基本姿勢は変わっていませんが、原案段階で見直しを求めていた「非核3原則」については、「当面改める情勢にない」との認識を加え、慎重姿勢を示しています。しかし、「米国の手を縛るような原則を事前に決めておくことは、必ずしも賢明でない」と記しています。日本の安全保障政策転換に影響を及ぼす報告書ですので、参考資料として重要個所を添付します。
新安保懇報告(要旨)
日本がその平和と安全を守り、繁栄を維持するという基本目標を実現しつつ、地域と世界の平和をと安全に貢献する国であること、日本が受動的な平和国家から能動的な「平和創造国家」へと成長することを提唱する。
第1章 安全保障戦略
第1節 目標=安全保障上の目標は、日本の安全と繁栄、日本周辺地域と世界の安定
と繁栄、自由で開かれた国際システムの維持である。
第2節 日本をとりまく安全保障環境=日本の周辺地域と日本にとって重要なことは、米国の抑止力の変化、朝鮮半島情勢の不確実性の残存、中国の台頭に伴う域内パワーバランスの変化、中東・アフリカ地域から日本近海に至るシーレーンおよび沿岸諸国における不安定要因の継続といった課題にどう対処するかにある。
第3節 戦略と手段=「平和創造国家」は、世界の平和と安定に貢献することが日本の安全を達成する道であるとの考えを基礎とし、国際平和協力、非伝統的安全保障、人間の安全保障といった分野で積極的に活動することを基本姿勢とする。軍事力の役割が多様化する中、防衛力の役割を侵略の拒否に限定してきた「基礎的防衛力」概念は有効性を失った。非核3原則に関し、当面、改めなければならないという情勢にはない。しかし最も大切なのは核兵器を「使わせない」ことであり、一方的に米国の手を縛ることだけを事前に原則として決めておくことは、必ずしも賢明ではない。また、安全保障環境と国際関係改善のための手段として防衛装備協力の活用などが有効であるとの理念の下、武器輸出3原則などによる事実上の武器禁輸政策ではなく、新たな原則を打ち立てた上で防衛装備協力、防衛援助を進めるべきである。
第2章 防衛力のあり方
第1節 基本的考え方=従来の装備や部隊の量・規模に着目した「静的抑止」に対し、平素から警戒監視や領空侵犯対処を含む適時・適切な運用を行い、高い部隊運用能力を明示することによる「動的抑止」の重要性が高まっている。今日では、基盤的防衛力構想から脱却し、多様な事態が同時・複合的に生起する「複合事態」も想定して踏み込んだ防衛体制の改編を実現することが必要な段階に来ている。
第2節 多様な事態への対応=今後自衛隊が直面する多様な事態には、①弾道ミサイル・巡航ミサイル攻撃、②特殊部隊・テロ・サイバー攻撃、③周辺海・空域および離島・島しょの安全確保、④海外の邦人救出、⑤日本周辺の有事、⑥これらが複合的に起こる事態(複合事態)、大規模災害・パンデミック、等が含まれる。
第3節 日本周辺地域の安定の確保=防衛省・自衛隊は、日米安保体制下での米軍との緊密な協力という前提の下、日本周辺地域の安全のために、①情報収集・警戒監視・偵察(ISR)活動の強化、②韓国、オーストラリア等との防衛協力や他国間協力の促進、中国やロシア等との防衛交流・安保対話の充実、③ASEAN地域フォーラム(ARF)等の地域安全保障枠組への積極参加、といった取り組みが必要である。
第4節 グローバルな安全保障環境の改善=自衛隊は国内外で官民連携もしつつ①破綻国家・脆弱国家の支援、国際平和協力業務への参加の推進、②テロ・海賊等国際犯罪に対する取り組み、③大規模災害に対する取り組み、④大量破壊兵器・弾道ミサイル拡散問題への取り組み、⑤グローバルな防衛協力・交流の促進を進めるべきである。
第5節 防衛力の機能と体制=日本の防衛力整備は具体的に、地域的およびグローバルな秩序の安定化、複合事態への米国と共同での実効的対処、平時からの緊急事態への進展に合わせたシームレスな対応を目指すべきである。日米同盟における両国の役割分担の観点からは、自衛隊は米国との相互補完性の強化を目指すべきであり、さらに国連平和維持活動(PKО)など自衛隊が自らの責任で任務を遂行できる範囲を広げていくことも重要である。
第3章 防衛力を支える基盤の整備
第1節 人的基盤=防衛省は、少子高齢化時代の自衛隊の人的基盤に関する課題について早期に具体的な制度設計を行い、人的基盤の整備に着手すべきである。
第2節 物的基盤=国内防衛産業が国際的な技術革新の流れから取り残されないためには、装備品の国際共同開発・共同生産に参加できるようにする必要があり、国際の平和と日本の安全保障環境の改善に資するよう慎重にデザインした上で、武器輸出禁輸政策を見直すことが必要である。
第3節 社会的基盤=防衛施設の存在は、地域住民の生活環境等に影響を及ぼすことがあり、地域住民に理解と協力を求める必要がある。特に沖縄の米軍基地問題については、過剰な負担に配慮しつつ、日米政府間で緊密に連携し、取り組む必要がある。地域住民にとって目に見える負担軽減策として、防衛施設の日米共同使用化に取り組むべきである。
第4章 安全保障戦略を支える基盤の整備
第1節 内閣の安全保障・危機管理体制の基盤整備=防衛大綱のような重要な政府の方針は継続的な見直し作業を必要とする。今回も採用された懇談会方式はやめ、内閣官房のような組織に有識者会議を常設し、対話を行いながら継続的に作業するのも一案である。
第2節 国内外の統合的な協力体制の基盤整備=日米安保体制をより一層円滑に機能させていくために改善すべき点には、自衛権行使に関する従来の政府の憲法解釈とのかかわりのある問題も含まれる。例えば、日本防衛事態に至る前の段階での米艦防護の問題や、米国領土に向かう弾道ミサイル防衛の迎撃の問題は、いずれも従来の憲法解釈では認められていない。日本として何をなすべきかを考える政府の政治的意思が重要であり、自衛権に関する解釈の再検討はその上でなされるべきものである。国際平和協力活動は多機能型へ進化しつつあり、冷戦終結直後に考え出された日本の国際平和協力の実施体制は時代の流れに適応できていない部分がある。PKО参加5原則の修正について積極的に検討すべきである。自衛隊の任務として、他国要員の警護や他国部隊への後方支援を認めるべきであり、これらは憲法の禁ずる武力行使の問題とは無関係であり、必要であれば従来の憲法解釈を変更する必要がある。国際平和協力活動に関する基本法的な恒久法を持
つことが極めて重要である。
第3節 知的基盤の充実・強化=首相は危機対応時を含め、安全保障にかかわる政府の考えや施策をタイムリーかつ明確に発言しなければならず、対外発信の補佐体制の強化が必要である。
[新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会メンバー]
委員 佐藤茂雄・京阪電鉄最高経営責任者=座長▽白石隆・日本貿易振興機構アジア経済研究所長=座長代理▽岩間陽子・政策研究大学院教授▽添谷芳秀・慶大教授▽中西寛・京大大学院教授▽広瀬崇子・専修大教授▽松田康博・東大准教授▽山本正・日本国際交流センター理事長
専門委員 伊藤康成・三井住友海上火災顧問(元防衛事務次官)▽加藤良三・プロ野球コミッショナー(前駐米大使)▽斉藤隆・日立製作所特別顧問(前防衛相統合幕僚長)
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