日本リーダーパワー史(215)<『英タイムズ』などが報道した「坂の上の雲」②ー日本の勝利に驚愕した世界
2015/01/01
日本リーダーパワー史(215)
<『英タイムズ』が報道した「坂の上の雲」②
前坂 俊之(ジャーナリスト)
「NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲」は、シリーズ最後の第3部の放送が、12月4日からいよいよ始まる。150年前に鎖国から目をさまし国際社会にデビューしたアジアの貧乏小島国日本は明治のトップリーダーたちの「富国強兵」「殖産振興」という「国家戦略」「国家プロジェクト」の見事な遂行によって、日露戦争勝利という20世紀の奇跡を起こしたのである。
いま、明治の発展の逆コースの「雲の下の坂」を転落して「日本沈没」に向かっているが、この「坂の上の雲」で示された日本人の叡智と勇気と献身をもう一度、振り返り、沈没を食い止める第3の奇跡を起こさねばならない。
明治の日本人の自画像―5代前のわれわれの祖先の姿を欧米はどう見ていたのか。当時の『英タイムズ』が報道した「坂の上の雲」の実像を見ていくことにする
●『英タイムズ』などの「東郷平八郎と『日本海海戦の勝利』
の詳報
の詳報
『ノース・チャイナ・ヘラルド』(1905年6月9日付)
『ロシアの海軍力の崩壊と欧米新聞の諸見解』
本紙は日本総領事のおかげで,次に掲載する,対馬の勝利以降の情勢に関する欧米主要新聞の見解の電文概要を得ることができた。
ロンドン発先月30日付電報-
タイムズ紙の意見は次の通り。ロシアは当分の間,海軍国としての地位を失うことになろう。ロシアには,対馬海戦の残艦数隻とウラジオストク艦隊,黒海艦隊しか残されておらず,四流の海軍とも戦うことができないほどだからだ。バルト海の諸港は今や無防備となり,日本の優位は確固たるものになった。海戦の勝敗については,当初若干の不安が持たれていたが,今やすべての懸念は消え去った。
フランスの好意的中立はロジェストヴェンスキーを死地に陥れた。敵でさえ彼のこれほどの敗北は望み得なかっただろう。
パリのタン紙が,ロシア皇帝は必然の運命に屈服すべきだという意見を述べたことについて,タイムズ紙は,フランスが真っ先にロシア敗北の真の重要性を理解したのは驚くにあたらないと述べている。もっともタイムズ紙は,そのような助言が即座に受け入れられるかについては疑念を抱いている。タイムズ紙は次のように問う。ロシア皇帝は敗北を認め,今や切迫している国内問題に目を転じるだろうか?というのは,戦争に勝っ望みもなく国民に辛抱を強いることは,アジアはもとよりヨーロッパにおけるロシアの地位を危険にさらすからだ。
モーニング・ポスト紙は,次のように言う。ロシアに残された良識ある道はただ1つ,日本が受講するような条件で即時講和を結ぶことだ。会議の開催を提案する国もあるだろうが,それでは日本の勝利の成果を事実上奪うことになるので,イギリスは同意できない。イギリスがすべきことは,外交上の干渉に加わることなく,日本との条約を基盤とし,海軍が不測の事態に備えることだ。
デイリー・テレグラフ紙は,このような挽回不能な敗北を喫したにもかかわらず,戦争を続行するというのは,頑迷固ろう,犯罪的な愚行でさえあると述べている。ロシアは奉天会戦の後,講和を結ぶべきだったが,現在,講和を結ぶ理由はさらに増えている。このたびの重大な海戦により戦争が終結することを,確信しつつ願う。そして大英帝国は,このたびのすばらしい勝利によって,その海域の女王となったわが同盟国に祝意を表する。
スタンダード紙は言う。このたびの海戦は,人員が物質に勝った戦いであり.海に対する指向と慣れを生来有している国民によりかちとられたものだ。極東での地位を再興しようというロシアの最後の望みは,少なくともここ数年間は断たれた。講和の見込みは大いにあると思われるが,スタンダード紙は,この惨事は,ロシア皇帝を単にいっそう意固地にする可能性があるという推論が正しいのではないかと疑っている。
ベルリン発5月30日付電報-
日本勝利の知らせに,ベルリン市内は興奮のるつぼと化した。ドイツの新聞は,これで海上戦は終わったとの記事を一様に載せている。バルチック艦隊の残存艦は,もはや交戦が不可能となり.全滅の運命は免れ得ない。ロシアは今や最後の切札まで使ってしまったので,ロシアの戦勢挽回の唯一の望みは消え去った。
フォシッシェ・ツァィトゥング紙は次のように言う。日本軍の戦争遂行は,これまで陸海共にすばらしかった。その統率力,軍隊の組織,管理は世界中の称賛を浴びている。その上将兵は自制心が強く,誠実で,どのような仕事もいとわない。命令を受ければ,いっでも任務を果たす。日本軍は勝利に次ぐ勝利を収めてきた。彼らは奉天を越えて進出しており.現在ロシア満州軍に再び打撃を与える準備をしている。東郷提督はロシアの最後の誇り高き望みを打ち砕
いた。これでロシアは東アジアにおける海軍国の一覧表から,ここ数年間姿を消すことになった。
ロシアは国境を守り,革命に対処するために.ヨーロッパに何十万という兵が必要なのに対し,日本は全国民が元首の意志に従っているので,好きなだけの
兵士を割くことができるのだ。ロシア皇帝が盲目でないならば,バルチック艦隊の敗北が革命勢力に軌、刺激を与えるということそして戦争の続行により講和条件がさらに屈辱的なものになるということに気づくはずだ。
また,望みのない勝負を続けるための資金を.外国が与えてくれるはずがないということを予測すべきだ。中立国政府にとって,状況は旅順陥落後と全く同じであり,要求されることのない助言も,望まれることのない援助も,ロシアに与えることはないだろう。
また一方.日本はその勝利と尊敬すべき態度により,諸大国の中に無比の地位を獲得した。そしてその地位は,戦争が終結しようと続行しようと,決して失われることはない。
ベルリナー・ロカールアンツァイガ一紙は次のように述べている。日本は勝利に乗じ,猛追撃を行い,ロジェストヴェンスキー提督を捕虜とし,残るロシア艦隊を捕獲した。4隻の大型戦艦がまもなく日本国旗を掲げることになるという事実により,日本海軍がアジア海域における優位を保ち続けることは決定的となった。
パリ発電報-
5月29日夕のタン紙は次のように論評している。ロシア艦隊の離散の結果,ロシアは海軍力の再興を断念しなければならない。ロシアは全軍隊を帝国の端の一地域に集中させ,他地域での活動を麻痺させるようなことをすべきでなかった。
5月30日付ジュルナル紙は,ロシア艦4隻の降伏,中でも日本海軍の貴重な戦力となるであろうニコライ1世とアリョールの降伏について厳しく批判した上で,ロシアの全海軍が全滅したとだれもが認めるに違いないと結んでいる。東郷提督がどんな損害を被ろうとも彼は恐るべき支配権を引き続き掌握している。
ユマニテ紙は人道の名にお折てのみならず.戦争に利害関係のあるフランスのような国々の名においても,漬和の必要性を提唱している。そして日本の勝利は,ロシアにおける自由のために重要であるとし,その理由はもし日本が勝たなければ,解放運動は明らかにつぶされてしまうからだという。
5月31日付ニューヨーク・サン紙は次のように述べている。
東郷提督の勝利は完璧であり,海におけるこれほど効果的な働きはこれまでの世界史には存在しなかった。ロシアの海軍力は一掃され,日本は西太平洋海域の支配権を掌握した。ロシアのブラフは自分自身に大きな災いをもたらす結果となった。戦闘の詳細が分かるようになれば,海軍専門家たちがそこから教訓を引き出すことができるだろう。
というのも.今度の海戦は,近代的装甲と火砲が使用されて以来初めての,互角の兵力による大海戦だからだ。マニラとサンティアゴの海戦では,一方が圧倒的に優勢だったし,また,旅順での海戦は封鎖という情勢の影響があった。互角の力を有する艦隊による日本海決戦は,一方が壊滅,もう一方が事実上無
傷という結果になった。日本は今や自由に息をすることができ,妨げられることなく軍事行動を遂行できる。ロシアの無敵檻隊は一掃され存在しなくなり,これ以上ロシアの艦船を確実な破滅に追い込むことは,狂気のロシア皇帝といえども,ちゅうちょするだろう。
日本の満州における軍事計画は,供給基地から遮断される心配なしに行うことができる。東郷提督の勝利についての詳細が分かるようになれば,海軍専門家
たちが興味深い問題,すなわち海軍が頼るべきは水雷艇ならびに高速巡洋艦なのか,それとも大型戦艦なのかという問題,あるいは戦いを決定するのは,結局,大砲を使う兵士たちの勇気と知識にあるのかという問題について研究することになろう。それはともあれ,日本に大勝利をもたらした勇敢で忍耐強い指揮官の栄光をねたむ者はいないだろう。
『タイムズ』(1905年6月12日付)
ルーズヴェルト大統領は,日露両国を説いて,講和の可離についての討議に入らせることに成功したが,このことにより彼は人類の尊敬と感謝の念をかちとった。これはアメリカ自身の利害に直接密接な関係を持たない重大な国際間題の解決について,アメリカが主導権を取る最初の機会だが,この機会にアメリカの努力が.われわれの時代における最も血なまぐさく最もすさまじい戦争の終結を早めるために向けられたということは,将来の世界平和にとってよい兆しとなるものだ。ルーズヴェルト氏が今回達成したような任務を引き受けるには,一種の倫理的勇気が必要だが,大国の指導者たちがこのような勇気を共有しているわけではない。
ルーズヴェルト氏は,交戦国に呼びかけたとき,それが拒絶される危険に自分をさらしたことを,十分に承知していた。そして,このような場面で拒絶に遭うということは,政治家としての彼に対する個人的評価に悪い影響を与えることが避けられないことも,十分に承知していた。
しかしルーズヴェルト氏は,そのような危険は冒すだけの価値があると考えた0
その危険を冒すことによって,数万の勇士たちを殺りくから救う可能性があるからだ。彼はあえてその危険を引き受けた。
そして,もしも戦争の殺りくと荒廃がやむことがなくとも,それは彼の側の誤りや怠慢によるものではないという深い満足感を今日得ているのだ。本紙のワシントン通信員・およびこれまで絶えずロシア情勢についての正確でしかも興味深い情報を送ってくれたペテルプルグ通信員は,ルーズヴェルト大統領が,当面の目的を達成するためにとった労をいくぶん詳細に伝えている。水曜日にロシア皇帝がマイヤー米大使を接見し,大使が非公式に提出した友誼的勧告を
受け入れたとき,実質的に本件は決着を見たのだ。
大使はこの勧告をルーズヴェルト氏からの訓令に基づいて,ハーグ平和協定の第3条に従い提出したのだが,ハーグ協定はもともとロシア皇帝陛下の提唱によってできあがったものだ。かくしてついに講和の方向に向かって,前向きの1歩が踏み出された。しかし,正確に何がなされたのか,またそれについて両交戦国がそれぞれどのような解釈を下そうとしているのか,なにぶん現在のわれわれの情報は不完全なので,この1歩が大きな1歩だと速断するのは軽率だろう。
本紙が本日掲載するペテルプルグからの情報は,同地における数人の有能な観察者の見解を非常に明瞭に伝えている。それは希望に満ちているが・決して確信に満ちたものではない。おそらく現状の中で最も有望な点は講和の可能性が今や高まっていると認められることだ。
これはロシア外務省もちゅうちょせず認めている。アジア局の局長バルトウイック,および補佐官のネラトフの両氏とも見通しは希望が持てると言っている。ロシアの世論は,いつもの例に漏れず,事態の重要性を把握するのが緩慢だ。今のところ,人々の間に知的理解あるいは関心の兆候は何も見られない。
新聞解説の大部分は,ばかげているか,あるいは見当違いのものばかりのようだ。もしその真の意味が人々に理解されるようになれば.世論ははっきりと・
そして強力に,講和賛成を表明することは疑いないと思う。
一方,事態をあまり楽観するのは・まだ早計だと思わせるような現象もある。まず・ルーズヴェルト大統領の提案をどのように解釈するか,東京とペテルプルグとでは・解釈が違うかもしれない。日本側の回答は土曜日にグリスコム氏に手交されたが・この回答は先の提案の文言を意味深長にくり返すとともに,ロシア側の全権代表と直接第三者を交えずに講和条件を討議するための,日本側全権代表を任命する用意がある旨を表明している。
換言すれば・日本は先の提案を講和締結の交渉に入るための提案と考えているということだ。念のために言えば,その講和とは,最終決着の安定性を保証するような条件に基づいて締結されるべきものだ。
一方,ペテルプルグの官界では,今のところ,講和の条件を討議するための全権を指名する気はないと言われている。どのような会議が開かれようと、その
会議は,日本側の条件を伝達する目的だけのものになるだろうと断言されている。
日本側の条件は両国の代表によって討議されるのではなく,それをロシア政府に伝達の上,この条件は交渉の基盤として許容できる範囲内のものか否か,ロシア政府が判断することになろうと主張しているのだ。この見解と,日本の覚書に示されている見解との差異は明白だ。もしロシア側の態度が上記情報に言われている通りだとすれば・ロシア政府はルーズヴェルト氏の勧告を,講和締結の予備交渉に入るようにとの勧告と受け取っているのではなく,日本がどのような条件なら講和に同意するのか,日本の手の内を明かさせるために,予備交渉に入るようにとの勧告と受け取っていることになる。
だがこういう展開は,日本がこれまで断固としてまた賢明にも拒んできたものだ。日本がアメリカの覚書を受け入れたことについて,ロシア政府が本当に上記のような解釈をしているとすれば,交渉が実のあるものになるという期待は持てない。いや.現状から少しでも前進するという期待すら持てない。
ロシア政府の公式見解にっいてのこのような情報は,われわれを不安にさせるが,ロシア政府が,ルーズヴェルト大統領の勧告の受諾は単に「日本の提案を受け取る」意志を示したに過ぎないと愚かな説明をしているのを聞くと,われわれの不安はいっそう深まるのだ。
ロシアが,勝者である敵をなんとかして自分よりも劣等なものとして扱いたいという子供じみた気どりを,どんな形ででも、あるいはどんな口実を使ってでも持ち続ける限り,明らかに講和は不可能だ。言うまでもなく,ルーズヴェルト大統領は洞察力のある人物だから,そのような危険な幻想
を励ますようなことは,ほんの少しも言っていない。日本は単に戦争や外交の能力だけでなく,文明においても,他の諸大国と同等の国として待遇されるべき完全な権利を有することを立証した。日本はその権利を傷つけかねないようなものには,それが何であろうと,決して同意しないだろう。
ロシアがもしヨーロッパの大国と戦って,このたびのような決定的な敗北を喫した場合,その国に対してとると思われる態度と異なる態度を,日本に対してとろうとするなら,それは愚かなことだ。ルーズヴェルト大統領の覚書は,このことを認識しているからこそ,交戦国間の交渉は,交戦国同士直接の,余人を交えぬ交渉でなければならないと主張しているのだ。そして,この覚書に賛同の意を示した他の諸国-その中にはロシア自身も含まれているものと希
望したいが-もまた,この見解を受け入れたものと解釈しなければならない。ペテルプルグで行われているように,実質的な保証が何も伴っていないのに,現時点での停戦について語り,日本側が例外的な穏当さを示す義務があると主張することは・この真実をかなり中途半端にしか理解していないことを表しているのではないかと思う。
もしロシアがどこかヨーロッパの国を相手に戦って,今回と同じ程度の敗北を喫したとすれば,決してこのような主張はしないだろう。そして,日本の言分は,この講和交渉において,日本はヨーロッパの国と全く同じ権札同じ特権を有するというもので,これは正当なものだ。
日本が欲しているのは,満足のいく,そして何よりも長続きする平和だけだ。ただそれだけを日本は得ようと決意しているのだ。もしロシアが愚かにも日本と今講和を締結しなければ,さらに数週間あるいは数か月戦争を掛けることによって,今よりもいっそう有利な条件で講和ができるだろうことを日本は知っている。
時の利は自分の方にあることを,日本はよく知っている。急いで決着をつけなければならないのは,日本ではなく,ロシアの方なのだ。艦隊を失い,陸軍
もまた,遼陽および奉天の勝者から・再び壊滅的打撃を被る危険が迫っているのはロシアの方なのだ。もはやパリでもベルリンでも戦費を調達することができず・この時点ですでに資産をほとんど使い果たしているのはロシアの方なのだ。日本は賢明だから,負かした相手に対して、不必要に厳しい態度はとらないのは間違いなかろう。
しかし,ロシアでは,平和提唱者ですら将来の報復について無思慮に語っているが、日本は,寛容の使い方を誤ってこのような報復を容易にしてはならなと決意している。そして,日本はすでにかち得たものを守るためのあらゆる必要な予防措置を設けることでは譲らないだろう。
もしロシアがいまだにこの日本の態度を当然のものとして認識し,それに従うことができないのなら,和平の見通しがきわめて近づいているとは考えられない。
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