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高杉晋吾レポート(25)ダム災害にさいなまれる紀伊半島⑨殿山ダム裁判の巻②=殿山ダムへの道

   

高杉晋吾レポート(25)
 
 
ダム災害にさいなまれる紀伊半島⑨
<和歌山県新宮、田辺本宮、古座川、白浜、日高川中津、
日高美浜町の現場ルポ>
 
     高杉晋吾(フリージャーナリスト)
 
殿山ダム裁判の巻②=殿山ダムへの道
 

住民の証言は無視、関電の偽造データを採用する裁判官
 
田野井から数キロ上流に安居(あご)というところに和歌山県の水位計がある。この水位計はダムの放水が予備放流をしたかどうか、あるいは放流が何時かということがすぐにわかるようになっている。北川さんは言う。
「地裁では裁判が始まるとすぐに、私たちはこの水位計のデータを出しなさい、と求めたんですわ。この水位計は県が管理しているが実際の管理は、関西電力の下請けの関電興業案なんです。」
ところが不思議な事が起こった。北川さんは背をのけぞらせ、目を丸くして語る。
 
「ところがですね。放水をやったのかやらなかったのかが、直ちに分かる水位計の資料をなかなか出してこないんよ。水系の資料には本来ならば、事前放流をやったかやっていないかが、一目瞭然に分かる資料なのに、待てど暮らせど出してこない」。
北川さんは私に目を据えて言葉を強めた。
 
「本当に事前放水をやったのなら、水位計の資料は、関電にとって、自分が事前放水をやったという有利な証拠だから、直ちにこれを出して『それ見ろ』とこちらにつきつけるはずやわな。こちらの事前放水をやらなかったという主張を完璧に否定出来るはずや。それをなかなか出さんのや。出してきたのは地裁の提出命令があってから実に三年たってからや」。
 
「全く不可解千万ですね。でもそりゃあ不思議じゃないかも知れませんね。すぐには出したくない。すぐに出せば、事前放流が嘘だったとばれてしまうからね。三年出さなかった間に証拠に対して工作が行われたということでしょうね」
資料に工作をやるために三年も水位計のデータ隠しをやっていた。その水位計のインチキ証拠を、裁判官は握りつぶしてしまう。国を支配するものに有利な判決しか裁判官は出さない。裁判官と裁判のでたらめさについては私も冤罪事件の立証経験があるから百も承知だ。
 
「住民は洪水の前日、殿山ダムが事前放水をしないのでやきもきし、早く事前放流しろと、殿山ダムに電話した人さえいました。しかし結局予備放流は行われませんでした」
これが住民の二百十二人の全てが語る予備放流に関する目撃証言である。この水位計が3年後にやっと出された。その記録用紙には、何カ月分の未記録の部分が残って居るではないか!
 
 
偽造証拠、殿山ダム運転監視記録
 
しかも、その用紙ではちゃんと予備放水がなされたような記録になっているのである。
殿山ダム訴訟弁護団の林功弁護士は
「関電が発表した『殿山ダム運転監視記録』という証拠は平成2年9月の水害のデータであるが、そのデータでは、当時の水位、ダムへの流入量、ダムからの放流量を示している。弁護団はこれらの関電のデータがすべてねつ造だ、と言っている。このデータでは、9月17日16時から毎秒800トンの事前放流によって、ダム水位が約18メートルから15メートルまで低下したことになっている。これは関電が、予備放流の規定通りに放流した証拠ということになっているが:::。」
だが林弁護士はこの報告に次のように付け加えている。
 
「住民は目撃している。9月19日の午後には鮎の友釣りをやっていた。ダムが秒あたり800トンも放流したら二日間は濁って鮎の友釣りなどは出来ない。弁護団も毎秒400トンをダムが放流している写真を撮影した。400トンでさえも川の水が濁って川の水が二日間で元に戻ることはなかった。」と。
二百一二人の目撃で、予備放流がなされなかったという証言がされているのに、裁判所は其の証言を一切認めないで、住民原告の敗訴を言い渡したのである。
(一次審、最高裁、敗訴、二次、控訴せず、敗訴)
殿山ダム現地への道
 
12月15日、1時58分、殿山ダムへ出発。天気は快晴。殿山ダムへの道のりがどの程度のものかを知らずに地図で見た程度で決めた。これが実は無謀な計画であり、次に計画した調査を計画変更して翌日に回さざるを得なくなったということは知る由もない。
殿山ダムへの道は地図でも曲がりくねっている。
 
しかし実際に行ってみると地図には表わすことができない程、細かい曲がりくねりが無限に続く。
 正午になったが、昼食のための食堂、レストラン、喫茶店が見つかるかどうか、心もとない。しかしやっと喫茶店が見つかった。食事後、再び日置川左岸き県道37号線沿いに北上する。安居(あご)を過ぎ向平というところに来た。対岸は久木というところだ。対岸の山麓は激しく崩壊している。
 
そのあたりから山道の険しい曲がりくねりの道を、上がったり下ったりの道をジェットコースタ―のような状態をくりかしながら13時25分頃やっと殿山ダムの堤体を正面に見る展望台にたどり着いた。田野井を出発して1時間半たった。同行している窪田さんが車酔い常態になった。
展望台からは、殿山ダムを望むことが出来る。あいにく逆光でダム本体は左岸の崖の陰で陰になっている。ダムは工事中らしく、本体上では工事中の従業員が大勢、薄緑のヘルメットで働いている姿が見える。
 
住民の批判で、クレストゲートの取り換え工事が進行中?
 
問題のゲートがみえる。上部にクレストゲートが六基、中腹部にオリフイスゲートが六基。展望台近くには、この工事で亡くなった人びと15人の殉職慰霊碑が建っている。昭和32年6月に建てられたものだ。
 窪田さんが工事従業員に聞いた。
 
「今行われている工事は、クレストゲートの取り代え工事だと従業員が言っていました。『クレスゲートの取換え工事なんて何十年に一回ですよ。良い日に来られましたね』と。」
展望台から工事現場に行く階段で、従業員が来たので「あんたがたの後をついて本体まで行ってもよいか?」
と断られるのは分かりきった話を駄目もとで聞いた。作業服の従業員は笑って「そりゃ、絶対無理や!」と首を横に振った。
「あっはっは、そうか!ところでクレストゲートの取りかえって、クレストゲートの性能が良くなるの?」
「新しいのに換えれば性能は良くなるやろう」
「調整しやすくなるって言うこと?」
「そうや」
矢張り、このクレストゲート取り換え工事も、下流住民の戦いや世論の動きが放水批判となり、クレストゲートに注目が集まっていることを関西電力も意識しているのだろうか?
展望台を離れて、さらにダムの左サイドに進んだ。そこには工事の趣旨などが書かれた掲示板が掲げられていた。 「殿山ダムクレストゲート取り換え工事、並びにそれに伴う除却工事」と有る。工事主体は和歌山県、工事施工、丸島アクアシステム。平成23年6月28日から平成25年4月30日まで」となっている。
この工事によってゲート性能の何が改善されるのか?
 
関西電力和歌山支店はこう回答した
私は電話で関西電力和歌山支店に質問した。
「ここ数年の集中豪雨のときに殿山ダムの放水が、下流に被害を与えたという話があるが、今回のクレストゲートの取り換えはその問題と関係があるのですか?」
関西電力和歌山支店の話では
「今行われているクレストゲートの取り換え工事は、古くなったクレストゲートを新品に取り換えるだけのものです。性能も品質も全く従来のものと変わりありません。」という答えであった。
「そうですか。マスコミ報道は、和歌山県と関西電力が、発電用の利水ダムでも、洪水のときに、発電のためのダム湖の水を予備放流して、空き容量を作っておいて、上流から流れてくる洪水をダムでストップさせ、下流の被害を防ぐという協定を県と電力会社が結ぶような話を報道していますが、どうなんですか?」
以下に紹介するのはその報道の一つである。
 
2011年10月7日、毎日新聞、「利水ダムの治水ダム転用 和歌山県、関電と協議へ」
 台風12号の被害を受けた治水対策として、日置(ひき)川水系(79キロ)の関西電力の発電ダム「殿山ダム」(和歌山県田辺市)の水を豪雨に備えて放流し貯水余力を確保するよう、県と関電が月内にも協議を始めることが分かった。発電維持可能な水位を割っても放水する取り組みで、関電のダム全45基で初の試み。国土交通省も「発電ダムの治水転用は聞いたことがない」としている。
 9月30日に県担当者が関電和歌山支店を訪問。先行して県営の三つの多目的ダムで事前放流を実施するため、併設の発電所を運営する関電に伝え、後日、殿山ダムの治水転用も打診した。

 仁坂吉伸知事は「殿山ダムに治水機能がないことは問題。制度化してできる限り水位を下げたい」とし、協定による事前放流のルール化を目指す。事前放流で人的被害が出た場合は、県が責任を負うという。関電は6日、「今後、具体的な協議をしていくことになると認識している」とコメントした。
 仁坂知事は熊野川流域の関電やJパワー(電源開発)の利水ダム群についても改革を求めており、9月16日、台風15号に備えて水位を下げるよう国を通じてJパワーに要請。同社は奈良県内の二つのダムの水位を下げた。 日置川流域では、1958年の台風17号で約20人が死傷。今回、殿山ダム下流では、3日未明に氾濫危険水位6・9メートルを超え、4日未明には8・55メートルとなり、護岸が壊れるなどした。

関西電力は私の殿山ダムのクレストゲートの取り換え工事について『これは下流の住民への放水被害事件等が起きないようにするための工事か?という質問にこう答えた。
「確かにそういう話はありますが、一切具体的なことは進んでいません」
私は、また、協定によって事前放流をルール化するという協定について口質問した。
「私はそういう協定が進むということは良いことだと思っていたのですが、一切、話は進んでいないと。そうしますと放水の規則が改定されるということもない訳ですね」
「それは検討課題ですが、協議中であり、現段階では変更は一切ありません。」
関西電力のこういう話の様子では住民の声がかなり広い世論として強く上がらない限り、どれほど住民の命や財産が奪われようと、住民の安全のための、電力会社や県の治水政策の転換は難しいようだ。
 
事前放流についての国交省河川局の立場
 
私は2012年1月11日、国交省分館に国土保全局河川環境課流水管理室に益山高幸課長補佐を訪ねた。
なぜこの訪問を行ったのかといえば、集中豪雨や台風時に事前放水が行われなかった結果、下流災害が生じ人命や財産を奪われた。だから、洪水が予測された場合にダムが事前放流を行ってダムに空きを作り、豪雨による増水をダムの巨大な空間に溜めこんで下流に流さない、あるいは、流す量を調節できるようにしてほしい。
 
下流の洪水量を少なくすることによって、あるいは洪水激化を防ぐことが出来るのではないか、従って洪水が起きる前に事前放流しておいてほしいというのが下流住民の切なる願いとなり日増しに住民の声が高まっているからである。
事前放流についての関西電力と和歌山県の交渉の現状は、関西電力の態度に見られるようにきわめて消極的であり、放っておけば消え去ってしまう程度のものである。
 
だから国交省のダム放水を担当する流水管理室を訪ねたのだ。私は、事前放流についての国交省の考え方の基本になっている「豪雨災害対策緊急アクションプラン」(2004年・平成16年12月10日策定)について益山課長補佐に訊ねた。
「アクションプランの中に施設(ダムも含む)の有効利用という項目があります」
これはなぜ作られたのかといえば、2004年(平成16年)に深刻な集中豪雨災害が発生したから施設の有効利用ということが考えられ事前放流が考えられたのである。
「ああそうですか。集中豪雨がかさなっていろいろな問題が発生した。そこから出発しているわけですね」
「ええ、現在あるダムとか堰をもっと有効に活用しようという観点からです。国交省の直轄ダムを対象にしています。」
なるほど、大きく治水政策をダム中心から脱却して、新しい視点による治水政策に変えていこうというのではなく、あいかわらずダム中心の治水政策を『有効活用』して行こうというのである。
 
今回、私が調査してきた新潟県三条市、奈良県五條市、同十津川村、和歌山県角ダムの中では猿谷ダムが国交省の直轄ダムである。(国の直轄ダムとは、河川法特定多目的ダム法などに基づき一級水系に建設されるダムおよび奈良にはこのほかに地盤の崩落などで稼動不能になっている大滝ダムがある)
「事前放水とは何かというところから説明します。ダムの目的には大きく言って治水ダムと利水ダムがあります」。
治水ダムには洪水を防ぐ計画規模がある。最近の洪水はこの計画規模を超える集中豪雨が発生する場合が多くなった。
「この計画規模を超える洪水が発生するだろうと気象情報などで予測される時や、洪水災害が発生されると予測される場合は、洪水発生前にダムに溜まっていた水を放流し、治水容量を予測される上流からの流入量以上に大きくしておく。すると流入する豪雨の水量はダムでストップされ、あるいはダムの下流に流下する量を調節できます」。
これが国のいう事前放流の役割である。
 
事前放流、電力会社には損失補てんが約束されている
 
事前放流にはもう一つ、電力会社やダム水の利用者にとって大きな問題がある。
「ダム水を利用する電力や農業や市民の飲み水として使っている。ダム水の利用者は、それぞれが水利権として持っている分を流してしまうのだから、ダム水を放流するならば、放流した分を事後に戻しておきなさい。事前放流が出来るのは事後に水量を元に戻す、ということが前提だよ。それが出来ないのなら事前放流をしてはならないよ」という条件がある。
 
それだけではなく、事後にダム水利権の水量を元に戻せない場合は、
「水利権者は損害を受けたのだから、その損失を補てんしなさいよ」
水利権者が其のダムの水を放流されて失った損失を他で補てんする場合、その費用を水利権者は費用を補てんしてもらう権利がある、という考え方が事前放流を縛っているのである。其の問題が今回の集中豪雨災害で浮上したのである。
だが既存のダムを治水政策の中軸に据えたままでは、技術的な操作を変えたところで下流に対するダムの災害激化作用をなくすることはできない。
 
「なるほど」
うなづきながら、私は益山氏の説明を待った。
「ところが今回の集中豪雨は極めて長期にわたった。また其の長期の豪雨は、降雨量の最大の山、ピークが一回だけではなく二回もあった。」
益山さんは説明を続ける。
 
「洪水が来る、長期にわたる。ピークが二回もあるなどということは気象庁でも、前からはわかりません。直前でないと分かりません。直前でわかっても水位を落とすには時間がかかります。水位を落とすにはゲートの開閉時間がかかるんです。またやたらに流して利水者に損失を与えないように考慮しながら流します。時間がかかる間に上流の豪雨による流量の激増が始まりますと思い通りの事前放流が出来ない。利水者の損失に対する配慮等で事前放流も自由自在にはならないんです」。益山さんはいう。
 
「天気予報がある。これが正確になったというが、それだけではダメなんです。ダムの流量予測と操作にはどれくらい降るかという降雨量の予測も必要だ。だから将来の降雨量の予測は難しいのが現状です」
 
台風12号が十津川村に来る際の降雨量も前の日には予測がついていなかったという。
「二山のピークを持ってくるということも予測がついていなかったんです。」
猿谷ダムの降雨量は過去最高だった。この降雨予測もピーク予測も実際の所、不可能だったと益山さんは云うのである。そして付け加えた。
「猿谷ダムの場合はもともと治水ダムではなく、事前放水する義務もなかったのですから、上流から入ってきた流量はそのまま流した。ダムがなかったのと同じ状態で流しました」
私は当然ながら首をひねった。
 
洪水垂れ流し、大洪水が来たらそのまま流す日本の諸ダム
「単純な素人の頭で聞きますが、すると悪い言葉だが、猿谷ダムは垂れ流しだったということですね」
「ううん!それは言葉が悪い。ダムがなかったのと同じ状態ということです」
言葉が悪いとか良いという問題ではなかろう。何が違うのかわからないが、私は『ふうーん、なるほど』としか言いようがなかった。
しかし私は付けくわえた。
 
「国交省さんも猿谷ダムを作る時はダムが出来るから洪水は無くなるよ、と説明された。だから猿谷ダム直下の五条市宇井地区の上田さんは、『当時,建設省(今の国交省)に『ダムが出来たら観光で栄えると言われて。村の人たちも信じ切っていた』、と言っていますよ」
 
私はそう言いながら段々腹が立ってきた。
「益山さんの言っている通りだとすると、下流の住民にしてみれば、『あんたがた、ダムを作るときには何て言った?ダムが出来たから栄えるとか安全になったと言ったじゃないか?ところが、今になって『利水ダムだから洪水を調節する機能はないよ。規則通りにやったよ』という。その結果、ダムは垂れ流し状態になった。下流では人が死に財産を失った。じゃあ一体『ダムが出来たから地域が栄えるとか安全になった、と我々に言ってきたのはどういうわけか?』という話が住民から出てくるのはごく自然ですね 』
 
誰も、ダムを作る時、建設省から集中豪雨の大洪水には『ダムがない状態になる』とも、『ダムには下流の安全のための事前放流の義務もない』等という説明を受けた者はいない。ダムは最初のころ、台風や洪水時に下流に避難や警告の放送をしていた。ところがこの放送をいつの間にかしなくなった。住民は、大被害をまともに受けて逃げ惑い,仮設住宅で暮らしている。
 
予測など出来るはずがない集中豪雨の激化の時代に下流で人が死に、財産が失われるという悲惨な目に人びとが遭遇しているのに「治水ダムじゃあないから事前放水の義務もないよ、規則通りにやったのだ」などと言っているのを世論がいつまでも許しておくわけがないだろう。
 
下流の洪水防止は義務付けられていない?
ダムには人命を守る社会的責任はない?
だが、益山さんは云い張った。
「しかし高杉さん、責任のない電力会社等に責任を負えということはできないですよね。」
私は益山さんが立場上こう言い張るのもわからないではない。
『確かに、奈良、和歌山で電発さんなどから事前放流の責任は規則上ないから、問題はない、という発言が出ているようです。しかし、電力会社は電力を作って利益を得ている。公共事業で利益を得ている以上社会的責任はある。『事業によって利益は得るが下流の人命や財産の損失を発生させても構わない』という事業はあり得ない。公害問題で企業が責任を取るのは当然であることはすでに社会的に認知されているでしょう。そうだとすると下流の人命や財産の喪失をさせないための事前放流は社会的義務でしょう。規則が電力会社に事前放水の義務を負わせていないとしたら、そんな規則は反社会的な規則じゃありませんか?』
益山さんはしばらく黙った。そして、言った。
 
「いやあ、法的には義務はないのですから。高杉さんがおっしゃっているのは道義的責任を言っておられるのですか?」
「いや、事前放流をしました。しかし事前放流によって失った水については発電用の財産を損失したのだから、損失を補てんしろ、とまで豪雨災害対策緊急アクションで決めておられる。事業ですから事業上の損失は補てんしろというなら、事前放流をしなかった場合、下流の人命が失われたり財産上の不利益を下流が被ったら、その被害への補償は当たり前でしょうというのですよ。法治国なら補償を住民にすべきだ。法的に事前放流をしなかった場合の罰則を作るとかですね」
しばらく黙った益山さんはこういった。
 
「義務付けられていない電力会社に、義務を強要することはできないでしょうね。道義的責任を言うなら分かりますがね。」
何度も道義的責任なら分かるという繰り返しである。
三条市で土砂崩壊の風圧で飛ばされた主婦。洪水で死んだ人びと。暗闇の中で救援に苦闘した人びと、
 
今回の2011年の12号台風で、「土砂崩壊で死んだ住民」「洪水におびえ仮設住宅に避難した人びと」「新宮で放水によって迫ってくる増水にタンクローリーから、屋根に、屋根から流出してきた人家に飛び移りながら命を長らえた人」、それらの人々が脳裏に浮かぶ。
ほとんどの人々は電力会社の放水によって水害は激化したということを証言している。だが、裁判所は一切これらの人々の声を冷然と無視し、電力会社等の声のみを判決にとりいれている。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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