池田龍夫のマスコミ時評(121)『高校生を〝聖戦〟に駆り立てるシリア動乱』「ドイツの良心、ワイツゼッカー名言」ほか4本
2015/02/08
池田龍夫のマスコミ時評(121)
池田龍夫(ジャーナリスト)
◎『高校生を〝聖戦〟に駆り立てるシリア動乱』(2・8)
シリアと国境を接するトルコ南部のキリスにあるシリア人避難所の高校で、男子高校生の9割近い280人が「ジハード(聖戦)に行く」と、シリアに戻って、死亡しているという。
毎日新聞2月6日付朝刊が伝えたキリス発大治朋子特派員電で、[聖戦に行く]と避難所を抜け出す高校生が激増しているという。小、中、高校生1万人余りが避難所で暮らしていたが、高校1年人に当たる10年生男子は、2012年7月時点で計120人いたが、現在は20人になってしまった。80人いた11年生はゼロ、120人いた12年生も20人に減ってしまった。
トルコには11年以降、10カ所余りの避難所が設置され、混乱状況はどの学校も同様のようで、行方不明の高校生は数千人規模に上る可能性があると懸念される。シリア側に戻って、武装組織に参加しているとみられ、学生たちを〝聖戦〟に巻き込んだ時代状況に戦慄を覚えた。
- 「辺野古県外移設」、翁長沖縄県知事文書で初要請 (2・6)
沖縄県と基地を抱える市町村でつくる「県軍用地転用促進・基地問題協議会」の翁長雄志知事と稲嶺進名護市長らは2月5日、外務、防衛両省と在日米大使館を訪れ、米軍普天間飛行場の「県外移設」などを盛り込んだ要請書を提出した。翁長知事就任後、文書で県外移設を求めたのは初めて。
琉球新報2月6日付朝刊によると、両省の大臣は応対せず、事務方が要請書を受け取った。知事は6日も首相官邸を訪れたが、事務担当の杉田和博官房副長官が対応。安倍晋三首相や基地負担軽減担当相を兼ねる菅義偉官房長官は今回も面談しなかった。
外務省は冨田浩司北米局長、防衛省は中島明彦地方協力局長が対応。翁長知事は「普天間の固定化を避け、県外移設と早期返還に取り組んでもらいたい。5年以内の運用停止、一日も早い危険性除去にも取り組んでいただきたい」と訴えた。
沖縄新知事に冷たい安倍政権
これに対し冨田北米局長は「固定化は避けなければならない」、中島地方協力局長は「辺野古移設が唯一の解決方法だ」などと述べた。 中島局長の回答に対し、名護市長は「(辺野古移設の)根拠はなくなっている。強行に進められている作業はとてもひどい状況だ」などと反論し、過剰警備を問題視した。
仲井真弘多前知事破って、新知事となった翁長知事は辺野古移設反対派。民意を忖度しない安倍政権の傲岸さがここにも見え隠れする。
◎「〝ドイツの良心〟ワイツゼッカーの名言」(2・4)
「過去に目を閉ざす者は、結局のところ現在にも盲目となる」――〝ドイツの良心〟と称されるワイツゼッカー大統領が1月31日死去した。94歳だった。
1984~94年の10年間大統領を務めた1985年、「ナチスの強制収容所で虐殺されたユダヤ人に特に思いを寄せなければならないと国民に語りかけ、「ドイツの戦争責任を率直に表明し、非人間的な行いを記憶しない者はまた(非人間的な考えに)汚染される恐れがある。和解は記憶ナシではあり得ない」と、自由を尊び、平和への努力を訴えたことが、今のドイツ国家の基礎となっている。
「戦後70年談話」、安倍首相の変節を危惧
安倍晋三首相が1月25日NHK番組で、戦後70年8月に出す「安倍談話」について「今まで重ねてきた文言を使うかどうかではなく、安倍政権としてこの70年をどう考えているかという観点から出したい」と述べたことが気懸かりだ。戦後50年の村山富市談話と60年の小泉純一郎談話がともに使った「植民地支配と侵略」や「痛切な反省」「心からのお詫び」のキーワードをそのまま継承することに否定的な考えを示したものといえるだろう。
中韓両国だけでなく、公明党をはじめ野党各党は「安倍首相は歴史修正主義者」と指摘し、監視を強めている。
☆★「戦争報道」の在り方を問う力作(2・1)
「戦争報道論 平和をめざすメディアリテラシー」と題する大著が明石書房から刊行された(定価4000円+税)。著者は、毎日新聞外信部を経て、神田外国語大学で教鞭をとった永井浩氏。ベトナム戦争、イラク戦争を中心に650㌻を超す労作で、既存メディアの問題点を実証的に分析している。
「日本の新聞とテレビがイラク戦争報道に熱中しているとき、世界はグローバル化の進展とともに、既存のメディアが発信するニュースにあきたらないさまざまな情報が国境を超えて駆けめぐる時代になっていた。情報発信の主役は市民であり、武器はインターネットである。世界60カ国で1000万人の市民が同時多発的にイラク反戦デモを繰り広げたのは、この最新メディアのおかげで人類史上はじめて国民を超えて個人同士が自由に、しかも瞬時に情報をやりとりすることが可能となったからである」。
米国の手のひらで踊る日本メディア
「米国中枢部で同時テロが起きた翌朝(日本時間)1991年9月12日付の日本の朝刊各紙には『テロは許さない』を合言葉にした社説が並んだ。・・・ホワイトハウスの手のひらの上で、基本的には米国メディアがお膳立てした曲目とメロディーにあわせて踊る日本のメディアは、米国のアフガン攻撃が必至となるにつれてその軍楽隊の一員となっていく。
リチャード・アーミテージ元米国務副長官の『ショー・ザ・フラッグ』(旗を見せろ)発言が報じられると、最も強く太鼓を叩き、勇壮なラッパを吹いたのは、1000万部という世界最大の発行部数を誇る読売である」など、日本メディアの米国追随の姿勢を糾弾している。
規制メディアにあきたらず、永井氏が「日刊ベリタ」を立ち上げたのは2002年6月。以後10余年の「市民メディア」の問題提起は素晴らしい。
大森実氏の「泥と炎のインドシナ」を高く評価
永井氏が、ベトナム戦争報道で活躍した2人の先輩ジャーナリストを称賛しているのが、印象に残る。1人は「泥と炎のインドシナ」で国際報道に新風を吹きこんだ元毎日新聞外信部長の大森実氏。もう1人は日本電波ニュースを創設した柳澤恭雄氏で、北ベトナムからの貴重な映像を送り続けた。大森氏らをベトナム戦場に駆り立てたのは、自分たちの目と耳と嗅覚で戦争現場を確かめたいとの熱意だった。
日本の報道のなかで最も光彩を放った活躍だったが、米国側の猛反発によって、大森氏は退職に追い込まれてしまった。毎日側が彼を守りきれなかったことは、日本ジャーナリズムにとって恥ずかしい汚点である。現場主義に徹した大森氏の心意気はさすがで、退職後は米国に移り住み、一ジャーナリストとして多くの著作を残した生涯に一層感銘を深めた。
永井氏が多くのページを割いて大森氏らのジャーナリスト魂を振り返ったのは、現在のイラク戦戦争、アフガン戦争報道の姿勢が気がかりだったからに違いない。米国報道に追随している日本は、一刻も早く独自の姿勢を世界に表明すべきではないか。
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