前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

日本リーダーパワー史(544)山県有朋―は九つもの別荘庭園を作った日本一のガーデニアン(大造園家)』

   

11

日本リーダーパワー史(544)

『日本陸軍の父』山県有朋―は九つもの別荘庭園を作った

日本一のガーデニアン(大造園家)』

前坂俊之(ジャーナリスト)

『山県有朋の半面』『怪傑伝』(伊藤痴遊著 、1935年刊収録


『政治家としてもたいした人物と思えない』『戦争でも実績のないのが元帥となり、陸軍を牛耳るようになったのは不思議である」と伊藤は書いている。日本の不思議なトップリーダーの歴史は今も延々と繰り返獲されている。

http://maesaka-toshiyuki.com/book/detail?book_id=16

『陸軍建設の父』は九つもの名園を作ったガーデニアン 

http://www.maesaka-toshiyuki.com/person/4531.html

明治政府の実質上の舵取り役は伊藤博文と山県有朋の二人で、「富国強兵路線」を突っ走ったが、その軍国路線を敷いたのが山県である。山県は内務卿、陸相、農商務相を経て明治二十二年に首相となったが、この間、地方制度の確立に尽力し、市町村制、府県制など行政、官僚制度を築いた。

また陸軍育ての親で、徴兵制度を導入し、「軍人勅諭」を定め、統帥権の独立、軍事優先路線を引き、山県閥が陸軍と内政を完全に牛耳った。伊藤博文の死後は元老として権力を1手に握り、山県閥は「横暴、おごりたかぶって、武断政治の弊はその極に達す」と批判が集中した。

東京目白の「椿山荘」は名庭園として有名だが、これが山県有朋の別荘だったことはあまり知られていない。山県は八十五歳で亡くなったが、その墓碑に「枢密院議長元帥陸軍大将従一位大勲位功一級公爵」とれいれいしく刻まれているように、明治では最高の出世男だった。

「一介の武弁」が口癖で、絶えずそう口にしながら陸軍をおさえて、伊藤博文と明治の政界を二分して、影で政治をあやつった。国家運営の妙手とはとても言い難いが、その山県の唯一の趣味が庭作りで、造園には高い見識を示した。日本最高のガーデニアンだった。

十歳で故郷の山口県苫田村に最初の別荘「無鄰庵」をつくったが、これ以来病みつきになり四十、五十歳という年齢の節目ごとに別荘をつくるという夢みた。

不惑の歳、四十歳で東京目白に「椿山荘」をつくった。政敵・大隈重信の早稲田をちょうど見下し、富士山、皇居の森や筑波山などを遠望する約六万平方メートルという広大な敷地に、回遊式林泉庭園を作った。

三重塔をいただく小高い山の部分と、池や滝など水の流れを中心にした部分からなる見事な庭園で家屋も一緒に建てた。山県は晩年までここを本邸としており、政治の舞台となった。

明治二十年(一八八七)、五十歳で大磯に十六・五万平方メートルの敷地の「小淘庵」(こゆるぎあん)を作り、五十四歳には京都別邸として京都市木屋町二条の鴨川近くに「第二無鄰菴」(むりん)を作った。

さらに、五十九歳で同市左京区の南禅寺のすぐ西側、琵琶湖疏水のほとりに約三千百平方メートルの「第三無鄰庵」をつくるなど、別荘熱は年とともにますます昂じてきた。

とくに「第三無鄰菴」では、太閤秀吉があまりに大きくてあきらめたという、京都醍醐山中の巨石を牛二十四頭も使って運び出した。この巨石を東山の松林をバックにおいて、疎水からも水を引いて庭に自然の流水をつくったという大がかりな庭園で、「京都には数々の名園があるが、ここが京都御所に次ぐもの」という評判をえて、鼻高々になり、山県は晩年までこの庭を自慢していた。

http://www.maesaka-toshiyuki.com/person/4531.html

またここでは、明治三十六年四月二十一日に、山県、伊藤、桂太郎首相、小村寿太郎外相がひそかに集まって日露戦争の開戦を決定した「無鄰菴(むりんあん)会議」が行われたことでも有名となった。

明治三十五年、六十五歳で東京小石川に小石川別邸の「新々亭」(さらさらてい)をつくった。七十歳では小田原板橋の敷地四千六百平方メートルの土地に十五メートルの高低差をいかして

多くの滝、流水を配した自然主義的な庭園「古希庵」(こきあん)を作った。この時、山県は病の床の中から設計図を示して、兵の配置、陣地を指揮するように庭師や作業員を陣頭指揮したという。この庭から秀吉が一夜城を築いた石垣山を正面に眺めることができ、山県は自らを秀吉に伍して自慢したかったのだ、という。

大正三年(一九一四)、七十六歳で側近の清浦杢吾(きようらけいご、首相)を呼び寄せ、古稀庵の近くに建てた別荘「皆春荘」をもらいうけて、「古稀庵」に編入した。

さらに大正六年、八十歳には東京麹町に「新椿山荘」を作ったというから病こうもうに入るというべきか。生涯に計九つもの別荘、庭園をつくった日本一のガーデニアンだった。大正十二年二月一日、「古稀庵」にて八十五歳で亡くなった。

山県は国葬でおくられたが、衆議院で「国葬の者は真に社会民衆の幸福を計ったものに限る。公は維新の元勲だが、憲政の発達を阻害し、民衆政治に極端な圧迫を加へ、国家の隆盛を軍閥の功に帰するような行動は国民から何が感謝の要あろうか」(『東京日日新聞』二月三日付)との国葬反対演説まで飛び出した。

二月九日、山県の国葬は日比谷公園で営まれた。参列者は最前列には元帥東郷平八郎、陸相山梨半造らの陸海軍将校がズラリと礼装で並んだが、民衆には全く不人気で、一万人収容の葬儀場はガラガラ、千人ほどしか参列者はなかった。

ちょうど一カ月前になくなった大隈重信の葬儀は数万人の民衆がおくるという盛大さと比べると、全くさびしいものだった。

http://www.maesaka-toshiyuki.com/person/4531.html

http://www.maesaka-toshiyuki.com/person/4531.html

[amazonjs asin=”430976200X” locale=”JP” title=”図説 明治の宰相 (ふくろうの本/日本の歴史)”]

 - 人物研究 , , , , , , , , , , , , , , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

日本リーダーパワー史(672)日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(54)「日清、日露戦争勝利の陰で川上操六、田村怡与造、児玉源太郎と三代歴代参謀総長(次長)はそろって日本救国のために殉職(過労死)した。

 日本リーダーパワー史(672) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(54)   …

Z世代への遺言「東京裁判の真実の研究②」★『敗戦で自決した軍人は一体何人いたのか』★『東京裁判ではA級戦犯の死刑はわずか7人、BC級裁判では937人にものぼり、下のものに圧倒的に重罰の裁判となり、「復讐の裁判」との批判を浴びた』★『戦陣訓』で、捕虜になるより自決を強制した東条英機の自殺失敗のお粗末、無責任』

『リーダーシップの日本近現代史』(124)ガラパゴス日本『死に至る病』 &nbs …

『F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ウオッチ(107)』『ピカソ美術館で愛人マリーテレーズの高名な「坐せる女」の 原画をみて卒倒しそうになりました。

『F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ウオッチ(107)』 「パリ・美術館めぐ …

no image
『全米を熱狂させたファースト・サムライのトミー(立石斧次郎)』――

1 <日本経済新聞文化面2004年8月2日朝刊掲載> 前坂 俊之<静岡県立大学国 …

no image
日本リーダーパワー史(336)『橋下・大阪維新の会は坂本竜馬より、高杉晋作の『奇兵隊』に見習えー機略縦横・大胆不敵な

日本リーダーパワー史(336)   ●『橋下・大阪維新の会は坂本竜馬よ …

no image
[ オンライン/新型コロナパンデミック研究』★『新型コロナと世界の沈没①―コロナ共存社会は数十年続く』★『コロナ感染者、世界で2000万人突破(8月15日)』★『日本の死亡率は欧米よりなぜ大幅に低いのはなぜか』★『ワクチン開発の国際的な大競争と囲い込み』

  『新型コロナと世界の沈没―コロナ共存社会は数十年続く』  前坂 俊 …

『米中日のメディア・ジャーナリズム比較検討史』★『トランプフェイクニュースと全面対決する米メディア』★『習近平礼賛の中国共産党の「喉と舌」(プロパガンダ)の中国メディア』★『『言論死して日本ついに亡ぶ-「言論弾圧以上に新聞が自己規制(萎縮)した昭和戦前メディア』

  2020/07/22  『オンライン …

no image
知的巨人の百歳学(148)-世界最長寿の首相経験者は皇族出身の東久邇稔彦(102歳)

世界最長寿の首相経験者は皇族出身の東久邇稔彦(102歳) ギネスブックの首相 百 …

no image
世界/日本リーダーパワー史(915)-『米朝首脳会談(6月12日)で「不可逆的な非核化」 は実現するのか(下)

世界/日本リーダーパワー史(915) 一方、日本の対応と、日中のパワーバランスの …

『オンライン講座/日本興亡史の研究③』★『明治大発展の影のキーマンは誰か?②』★『インテリジェンスの父・川上操六参謀総長ー田村 怡与造ー児玉源太郎の3人の殉職 ②』★『「インテリジェンスの父・川上操六参謀総長(50) の急死とその影響➁ー田村 怡与造が後継するが、日露戦開戦4ヵ月前にこれまた過労死する。』

  2016/02/22    …