前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『中国紙『申報』からみた『日中韓150年戦争史』㉘ 「日本人の中国人に対する敵意を論ず」(巨文島事件をめぐる)

      2017/07/04

『中国紙『申報』からみた『日中韓150年戦争史

日中韓のパーセプションギャップの研究』㉘

 


前坂俊之(ジャーナリスト)

 

 1886(明治19)年1228光緒12年丙戌124「申報」

 
日本人の中国人に対する敵意を論ず

 

巨文島事件

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B7%A8%E6%96%87%E5%B3%B6

 

 

先に訳載した日本の欧字新聞の記事によると,日本はイギリスが朝鮮の巨文鳥を中国に返

 

日本はイギリスが朝鮮の巨文島を中国に返還しようとしているのを聞き.大いに狼狽し,特に文武の大官を派遣して国内各所の島嶼をくり返し調査させ.調査終了を待って兵士を派遣してそれぞれに駐屯せしめ,防御に当たらせようとしているという。

 

 

私はこの記事を読み.日本政府はかくも人材に乏しいのかと.嘆息を禁じ得なかった。そもそも中国.日本.朝鮮は,同じくアジアの内にあり,わかりやすくたとえれば,同じ部屋に住んでいるようなものなのだ。

 

これに対してヨーロッパ諸国は,他の部屋に住む者であり,いわゆる「わが族類にあらざ」る者だ。もしヨーロッパとアジアが,まだ通商を開かず,相互の往来を通じていないならば,これはあたかも世間との往来を断って家産を守っている者が.他人と交際せず,部屋の外のことはなにも知らないのと同様だ。

 

あるいは同じ部屋に住みながら,双方譲らず.仲間割れを起こす者もあるかもしれない。しかしひとたび他人と往来するならば,家の中のもめごとはひとたおび措いても,他人とのもめごとに当たるべきだ。『詩経』に「兄弟かきにせめぐも.外には其の侮りを禦ぐ」とあるように,だれもがこの道理を知っているのだ。日本人がなぜ専ら同室の者を敵視して,大局を見ようとしないのか,とうてい理解できない。

 

日本が琉球を不法に占拠したり,朝鮮でたびたび問題を起こしても,中国はこれを責間しなかった。これを中国が弱みを見せているのだと思う者もあるだろうが,実際には中国の寛容さを示しているのだ。日本が同じくアジアの一国であるために,仲間内で相争い,外国に笑われることに忍びず,あえて隠忍してこれを大目に見たのだ。ところが日本人はかえって隠忍することができず,それどころか常に同室の者に野心を抱いている。

 

俗に「鳶(とび)は,巣の中のものは食べない」と言うが,これは小をもって大をたとえていると言える。中国はこのことを知っているために.日本を討伐しようとはせず,また八方手を尽くして朝鮮を保護しているのだ。

 

日本はこのことを知らず,専ら朝鮮の隙をうかがい,さらには中国を敵視している。これでは外国の笑い者になっても無理はない。いや,笑い者になるどころか.やがては侮りみくびられることになるだろう。

 

(中略)

巨文島はアジアの中にあり,兄弟に分け与えられた財産のようなものだ。イギリスは先にアフガニスタン問題でロシアと対立したが,ロシアと戦端を開く可能性があると考え,先手を打ってロシアを牽制するために,巨文島に防備を設けた。

 

これはあたかも他人が自分の財産を借りたようなもので.一時的なことに過ぎないのだ。ところが朝鮮は弱小国で,政治が安定せず,とてもイギリスに向かって返還を求めることはできない。これはあたかも弟の財産が他人に無理やり借りられ.なかなか返ってこないようなものだ。

 

中国はイギリスと協議して,これを返還させた。これはあたかも兄弟のために財産の返還を求めるようなもので,義理人情にかなっている。日本は仮にもアジアの一員としての誼(よしみ)を考えるならば,大局に立って考え,中回を助けて朝鮮のためにこの島を返還させるべきだ。それでこそ友誼の道に恥じないものと言えよう。

 

さもなければ中国がすでに協議を経て合意に達し,ようやく返還のはこびとなったのだから.欣喜雀躍して朝鮮と中国のために慶賀すべきではないか。ところがそうしようとはせず,かえってこれを嫉んでいる。なんと依怙地でひねこびていることだろうか。

 

イギリスは先に,巨文鳥を返還する条件として,中国自身がこれを防備し,他国に介入させないことを要求した。これはもとよりイギリス人による無理難題ではない。イギリスは中国が朝鮮に対して実際に保護を行おうとしており,日本のように保護を名目として併合を狙っているのではないことを,承知しているのだ。

 

 

巨文島が朝鮮の領土であるからには,当然朝鮮に巨文島を返還し,朝鮮自身がこれを管理すべきだ。中国がこれを保護するという一点は,蛇足と言えよう。しかしイギリスには,深い意図があるのだ。

 

巨文鳥を朝鮮に返せば,朝鮮はこれを守ることができず,必ず他国に占拠されてしまうだろう。これを占拠するのは,ロシアでなければ日本だ。もしロシアに占拠されれば,イギリスのこれまでの牽制策は全くむだになってしまう。しかしなお.強敵が国境に控えているので,手出しができないかもしれない。

 

ところがもし日本に占拠されれば,ヨーロッパの大勢とは全く関係がない。これによって中国と日本は必ず開戦するだろうが,そうすればロシアはいながら

にして漁夫の利を占めることができる。故に,中国に巨文島をゆだねるのが最善の策なのだ。

 

中国は必ず大局に心を配り,適切な処置をとり.日本人の侵略の野望を防ぐ

だろう。巨文島の安全が保たれれば,朝鮮の安全も保たれる。そしてヨーロッパとアジアの情勢も,また安定するだろう。

 

これがイギリス人の深謀遠慮なのだ。一方中国はなお巨文島を回収せず.兵力を配置したとの情報もないのに,日本人は狼狽して慌て騒ぎ,これは大いに中国に有利で日本に不利だと述べている。あたかも中国がひとたびこの島に進駐すれば,必ず機に乗じて日本に攻め入るだろうと考えているかのようだ。このために日本の辺境地方は1日たりとも安心できないとして,官員を派遣してくり返し調査し,兵士を派遣して駐屯させている。

 

彼らはいったい何を考えているのだろうか。私が思うに.日本人がこのように慌て騒ぐのは.必ずしも巨文島の問題だけによるのではないと思われる。日本

人が中国を侮り.同じ部屋の者同士が助けあうという道理を知らない以上.彼らはいかなる陰謀やたくらみをも行うだろう。長崎の事件に関しては,今なお審問を停止したままで,今後どのように処置するかを明らかに示そうとしない。

 

この間題は東京において処理すると言ったかと思うと,総理街門において処理すると述べ,結局のところいかなる処理がなされたとも聞かない。

このようにして,日本は戦備が整うまでの時間を稼ごうとしているのだ。一方ではひそかに兵力を配置し.将兵を派達しているが,他国の耳目を覆うことはできないために,巨文島の問題を口実としているのだ。

 

その狙いは,もとより別にあるのだ。私が考えるに,中国が巨文島を回収しようとするならば,一方ではロシアを防ぐとともに,一方では日本を防がなければならない。しかしこの問題はなお緊急ではない。長崎の事件についてこそ,今こそあらかじめ軍備を整えなければならないのだ。日本は各島の調査にことよせて,守備兵を駐屯させているが,その実,中国の隙をついて時橋を待って動きだし,中国の準備が整わないうちにその野心をとげようと謀っているの

だ。

 

事前にこれに対する備えを怠らぬべきだろう。近年中国では南洋・北洋海軍を創設し,いずれも著しい成果をあげている。

また国家のために尽力する有能な人材にも事欠かず.人材に乏しい日本政府とは比較にならない。必ずやすでに準備を進めており,ことさらここに言うまでもないかもしれない。こうして愚見を述べたのは,日本を侮るべきではなく,中国は日本に対し十分に対策を練らねばならないからだ。

 - 戦争報道 , , , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
日本リーダーパワー史(48)名将・川上操六のインテリジェンス④藩閥・派閥を超えた徹底した人材抜擢法とは

日本リーダーパワー史(48)名将・川上操六のインテリジェンス④   & …

『オンライン講座/不都合な真実で混乱する世界』★『コロナ・ウクライナ戦争・プーチン・習近平・金正恩の大誤算』(5月15日までの情況)(下)」★『ロシア旗艦「モスクワ」を安価なドローンが撃沈』★『ウクライナ戦争と日露戦争の比較』★『サイバー戦争完敗のロシア軍、最後は「核使用」か?』

  ★ロシア旗艦「モスクワ」を安価なドローンが撃沈 ◎「では、ウクライ …

no image
世界史の中の『日露戦争』⑧「ロシアが日本側の要求を認めない限り戦争は必至」1904年1月『タイムズ』(開戦2週間前)

 『日本世界史』シリーズ   世界史の中の『日露戦争』⑧-英国『タイムズ』 米国 …

no image
現代史の復習問題/「延々と続く日韓衝突のルーツを訪ねるー英『タイムズ』など外国紙が報道する120年前の『日中韓戦争史②<日清戦争は朝鮮による上海の金玉均暗殺事件で起きた』

  2011年3月4日の記事再録 英『タイムズ』などが報道する『日・中 …

『Z世代のための最強の日本リーダーシップ研究講座(49)』★『地球環境破壊(SDGs)の足尾鉱毒事件と戦った公害反対の先駆者・田中正造②』★「辛酸入佳境」、孤立無援の中で、キリスト教に入信 『谷中村滅亡史』(1907年)の最後の日まで戦った』

 2016/01/25    世界が尊敬 …

★『オンライン講座・吉田茂の国難突破力④』★『東西冷戦の産物 として生まれた現行憲法』★『GHQ(連合軍総司令部)がわずか1週間で憲法草案をつくった』★『2月13日、日本側にGHQ案を提出、驚愕する日本政府』★

★『GHQ草案を受入れるかどうか「48時間以内に回答がなければ総司令部案を発表す …

no image
『明治裏面史』★『日清、日露戦争に勝利」した明治人のリーダーパワー,リスク管理 ,インテリジェンス㊴『日本史決定的瞬間の児玉源太郎の決断力と責任⑪』●『日露戦争開戦前-陸海軍統帥部協同の準備と意見相違の内情』★『児玉次長の海軍将校に対する態度は慇懃を極め、あの敏活なる決心も、あの強硬的態度も、あの気短かも海軍の面前に出ては一切控えて常に反対の現象を呈した。』

『明治裏面史』 ★ 『「日清、日露戦争に勝利」した明治人のリーダーパワー、 リス …

no image
『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』㉕「開戦2ゕ月前の『ロシア紙ノーヴォエ・ヴレーミヤ』の報道』-『満州におけるロシアの権利は征服に基づくものであり、これほど多くの血を流し,金を費やした国で活動していく可能性をロシア人に与えなければならない。』

  『日本戦争外交史の研究』/ 『世界史の中の日露戦争』㉕ 『開戦2ゕ月前の19 …

no image
『各国新聞からみた日中韓150年対立史⑥』『フランスによるベトナム(安南)侵略と琉球問題を論ず』中国紙(申報)

 『各国新聞からみた東アジア日中韓150年対立史⑥』   & …

『Z世代のための日本戦争史講座』★『東京裁判でも検事側の証人に立った陸軍反逆児・田中隆吉の証言③』★『ガダルカナルの惨敗、悲劇ー敵を知らず、己れを知らず』★『驕るもの久しからず、戒むべきは反省なき優越感とこれに基く慢心である。』

  2015/05/25 終戦70年・日本敗戦史(85)記事 …