『F国際ビジネスマンのウオッチ⑧』『書評『ニューヨーク・タイムズ東京支局長の『「本当のことを」伝えない日本の新聞』(双葉新書)
『F国際ビジネスマンのワールドニュース・ウオッチ⑧』
★『書評『ニューヨーク・タイムズ東京支局長
マーティン・ファックラー氏の 『「本当のことを」
伝えない日本の新聞』(双葉新書,840円)を読む』
マーティン・ファックラー氏の 『「本当のことを」
伝えない日本の新聞』(双葉新書,840円)を読む』
恐らく 営業を優先しろ の類いの発言が飛び交っているのではないでしょうか?取材対象者からのクレームやブラフが後で押し寄せているのではないでしょうか?
しかしこの本には、本当に考えさせられました!!談合は言論界にもありました。
マーティン・ファックラー氏が2005年にNYT東京支局に着任して以来注目して来たが、特に昨年3・11の東電福一大災害以後、ジャーナリストとしての卓越した才能は遺憾なく発揮され、その原発事故
調査報道は日本の大手メディアに範を垂れるものであり、ピューリッツアー賞のファイナリストにノミネートされたのも当然のことと思われた。そのM・F氏が長年の日本体験を元に、日本のジャーナリズムに対し、その再建の為に、極めて積極的かつ建設的な提案を行ったものが本書である。
M・F氏の記事を毎月ご紹介していく中で、そのコンテンツの持つパワーは圧倒的で、日本の商業メディアの記事との落差に唖然としたものである。
これは「ペンは剣よりも強い」を文字通り信じているものと信じていないものとの差であり、ジャーナリストとしての自らの調査報道の力で悪を正し、社会正義を実現せんとする強い意志があるかどうかの差ではないかと感じた。
一見手厳しい言辞に満ちているが、筆者の日本及び日本人に対する愛着は並々ならぬもので文字通り肺腑の言が綴られており、「日本の真のデモクラシーの完成の為には、ジャーナリズムの根本的な自己批判と変革そして新たなリーダーシップの確立が不可欠である」と言う。
55年体制と記者クラブ制度の中で惰眠を貪って来た日本の商業メディアへの叱責である。
「本書の主張の要点」
1)(はじめに)
福一原発大災害では、日本の大手メディアは当局の隠蔽工作に加担した、長年の大手メディアを中心とする記者クラブ制度が取材対象とメディアの癒着を生み、外国人記者を排斥している。また、世代間格差や社会システム、官僚制度の硬直化など日本が本当に解決すべき喫緊の問題を積極的に扱おうとしない。
2)青い眼の3/11取材記
日本の大手メディアは一度クローズアップした場所を集中して報道する傾向が強く、独自の視点が少ない。人真似。
FUKUSHIMA 50のヒーローはNYTの田淵寛子記者の独自取材から生まれた。
米国では中央政府への不信感が根強く、当局へのチェック機能が必要、ジャーナリズムには権力への監視役が期待されている。ペンを武器に権力と戦う為に、取材対象への日頃の距離感に注意している。
日本は、明治時代以来の富国強兵政策で行政が日本人を守る、新聞記者は行政と一体になって
、日本のエリート達が何を考えているのかを国民に説明し、国民も与えられる報道に疑問を持たず、ジャーナリズムも取材対象に密着し過ぎている。
、日本のエリート達が何を考えているのかを国民に説明し、国民も与えられる報道に疑問を持たず、ジャーナリズムも取材対象に密着し過ぎている。
3)東電、保安院、菅内閣の信頼はゼロ
日本の大手メディアは全て横並び報道、関係機関の発表を検証せずにそのまま報じることが国民にとって何が利益になるといえるのだろうか?
日本の新聞は自ら疑問を抱いて問題を掘り起こすことが少なく、何らかのお墨付きが出たところで報じる、発表ジャーリズムが主体。
原発問題で、電力と当局が一体となって経済的依存構造を歴史的に作って来たことを指摘した記事はNYTが最初である。
日本の大手メディアは早くからSPEEDIの存在を知っていたが、当局に協力して報道を控え、文科省などを追及することはなかった。
2011/11/12の福一現地取材では、日本人記者32人に対し外国プレスは4人であった。半々にすべき。AP , REUTERなど世界に配信する通信社が入れないのは非常識も甚だしい。
日本のメディアはまるで官僚制度の番犬だ。社会を良くしたいと云う正義感を持つ若い記者が力を発揮できない今の状況は本当に勿体ない。
オリンパス事件では、日経の報道はウッドフォード社長の解任後の新体制を支援している。
ウッドフォード社長は、FACTAの一連の記事を無視し続けた日本のメディアを信頼せず、FTと先ず相談した。
日銀総裁記者会見でさえ、WSJ, FT いずれも会見に出る為には毎回記者クラブの幹事社に許可を求めなければならない。この村八分の様な取材規制をジャーナリスト自らスクラムを組んでやっているのは可笑しい。一体、日本の記者クラブメディアは誰の為に存在しているのか?
4) かくも可笑しい新聞
日経新聞の紙面は、まるで当局や企業のプレスリリースによって作られている様に見え、企業広報掲示板そのものだ。大手企業の不祥事を暴く様なニュースが紙面を飾るのは稀だ。
企業にとって好ましくない情報でも、厳しい取材拒否に遭っても、報道すべきことはニュースにする。FT , WSJ は企業のプレスリリースには興味を持たない。この姿勢で読者の信頼を勝ち得、オリンパスのスキャンダルを一面スクープ出来た。この点、当局や企業側に近い日経とはジャーナリズムに対する気構えが全く違う。
ジャーナリストとは、基本的に権力寄りであってはならない。権力の内側に仲間として加わるのではなく、権力と市民の間に立ちながら当局を監視し、不正を糾していく。日本の記者クラブメディアは権力側に寄り過ぎている、権力を内、市民を外としたならば、ジャーナリストはその中間に立ち、市民社会をより良いものにするために奉仕しなければならない。
ピューリッツアー賞と日本新聞協会賞とでは、その価値がまるで違う。P賞は当局や企業が隠しておきたかった事実に迫った内容ばかりで、記者クラブを通じて当局や企業と仲良しになっているだけでは得られない。
5) ジャーナリストがいない国
権力を監視する立場にある筈の新聞記者たちが、むしろ権力側と似た感覚を持っている、読者、庶民の側に立たず、当局(establishment)の側に立って読者をみくびる。記者クラブという連合体を結成し、官僚機構の一部に組み込まれる形で、プレス情報やリーク情報を報じる姿勢がそれを裏付けている。
世の中を疑い、権力を疑うジャーナリストは組織から距離を保った一匹狼であるべきだ。しかしながら、奇妙な事に、日本の報道機関では、専門職としてのジャーナリストと言う意識を持つ記者よりも、サラリーマンとしてのジャーナリストである事が望ましいのだ。
日本のメディアは総じて知識はあるが、情熱が欠けていることは確かだ。社会問題を目にした時、緻密な調査報道によって当局を動かす。その問題を解決する為の一翼を担う。怒りや正義感、「弱い人達の傍らに寄り添う」という使命感がなければ、良い記者にはなれない。
米国ではジャーナリストという仕事への高い熱意があり、評価されるに値する記事を書いてきた者だけが生き残っていく。日本の新聞に記者の情熱を感じることは少ない。何故だろうか?
埋もれた社会問題を積極的に取り上げるのは雑誌メディアが先行し、新聞は後追いが多い。
6) 日本の新聞 生き残りの道
日本の記者クラブメディアは福一原発事故をめぐる報道によって多くの国民から信頼を失ってしまった。当局が流す情報をそのままコピーアンドペーストしていただけでは、国民にとって最も重要な情報は伝えられない、既存メディアへの不信感は且つて無い程高まっている。
日本の新聞は、55年体制のままで、独自のブランド作りを意識し、自社の紙面でしか読めない記事を作って他紙との差別化を図ろうと云う意思が、いまだに見えない。新聞社はモデルチェンジを進めなければならない、今まで日本では存在していないビジネスモデルが新聞に求められている。
海外メディアや雑誌メディアに情報を渡さず、記者クラブは「情報の独占」というビジネスモデルを作り上げて来た。この仕組みを壊して、自由に取材が出来、書きたい記事を自由に書けるメディアが生まれれば、記者クラブメディアから優秀な記者が逆流して来る。正社員とフリーランス記者、外部の識者が渾然一体となり、クオリティの高い記事によって一面を争う。紙面は活性化する。
日本人は戦後の体制の在り方を見直す時期に来た。その中で、新聞はどうあるべきなのか。ジャーナリズムが置き去りされた日本では、より良い社会を作っていく上でジャーナリズムが果たす役割はとてつもなく大きい。新聞の変革に日本の民主主義が試されている。
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